編集たより

★私の散歩コースは、大きな川の土手とそれに並行して江戸時代に作られた溜池の周りである。いつも小一時間ほどかかるが、その過程ではいくつかの密かな楽しみがある。その一つが、胡楊(こよう)との対面である。★ヤナギには、枝が垂れるしだれ柳と、垂れないたち楊(やなぎ)があるが、私がいつも対面するのは、後者である。★なんで胡楊に会うのが楽しみかというと、それは、他愛もないことではあるが、遠く時空を離れた楼蘭王国を連想させるからである。★楼蘭は、現在の新疆ウィグル自治区のロプノール湖のほとりにあった漢代の国である。シルクロードの中継地として、敦煌とともに有名である。★私が楼蘭王国についてのわずかの知識を得たのは、いま月一回放映されているNHKのシルクロード・シリーズからである。楼蘭を取り扱った時に、うら若い女性のミイラを蓋っていた木棺の材が胡楊であった。だから、胡楊を見るたびに楼蘭王国を連想するのである。★胡楊との対面が楽しみなのは、胡楊という樹木自身がユニークでさまざまな連想を誘うからからでもある。★胡楊は垂(しだれ)れ柳よりも大きく、肌理(きめ)は粗く、松の肌理にやや似ている。だが、松のようにボロボロと剥落しない。★胡楊は、溜池を強化するためにほとりに植えられたのであろう。だが、米作がこんなにもおろそかにされる時代がやってくるとは、当時の農民も植えられた胡楊も思いもしなかったであろう。(竹中)