ライス米国務長官 アジア諸国歴訪の戦略的意図
  戦争危機高める対中朝包囲策
 
 アメリカのライス国務長官は、三月の十五日から二十一日にかけて、インド、パキスタン、アフガニスタン、日本、韓国、中国の順で、アジア六カ国を歴訪した。国務長官就任後最初のアジア歴訪は、軍備を増強する中国を包囲・統制する軍事・外交布陣を確立すると共に、その中国に、朝鮮人民民主主義共和国(以下・共和国)を六カ国協議に復帰させ武装解除せしめる上での「建設的役割」を迫るものとしてあった。アメリカからする東アジア新秩序づくりである。
 この歴訪の出発点は、その目的からすれば、二月十九日にワシントンで行われた日米安保協議会2プラス2(外務、軍事の閣僚による会談)だったということが出来るだろう。ここでアメリカは日本との間で、日米の「共通の戦略目標」として、「北朝鮮」のみならず「中国」「台湾海峡」を確認した。日本に、対中朝攻囲陣形への参加を受け入れさせたのである。
 そしてライスは、まず十六日にインド、十七日にパキスタン、十八日にアフガニスタンを訪問した。彼女は、パキスタンには、F16戦闘機の引渡し凍結の解除を約束し、同時にインドに対してもF16、F18の売却とライセンス生産を提案した。これらは、パキスタンの「反テロ」戦争への貢献とか、印パ両国の相互和解努力を賞賛して為されてはいるが、中国を背後から牽制する布陣の構築が主な目的であった。アフガニスタンには、すでにタリバン政権の転覆によって恒久的な米軍基地を確保している。
 ライスは、十九日に日本に立ち寄った。そこでの主要な課題は、米国からの牛肉輸入の再開問題であったが、それは軍事・外交課題が、ワシントンでの「2プラス2」で決着済みだったからである。ライスは、「2プラス2」での確認の上に立って日本政府に対し、共和国の六カ国協議復帰期限を六月下旬に設定すること、それを超えたら国連安保理へ付託して制裁に入ることなどを伝え、この「最後通告」でもって中国の対共和国工作の真剣さをテストする意図をも明かしたと思われる。
 ライスは、二〇日に韓国を訪問した。ここでは朝鮮半島が再び血に染まる事態を拒否する韓国・盧武鉉政権が、共和国に最後通告を突き付けようとするライスに対して、「(共和国核問題の)解決の方法を見つけることが最も重要」と牽制するが、ライスは無視した。
 そしてライスは、二十一日、中国を訪問する。
 この間中国・胡錦濤政権は、六カ国協議を主催し話し合いで共和国に核武装を放棄させることを通して、北東アジア新秩序の主宰者たる地位を超大国アメリカに認めさせ獲得しようと、企図してきた。しかしアメリカは、共和国核問題が自己の覇権を弱めるような仕方で解決されることを望まない。アメリカは、共和国の無条件での六カ国協議復帰・武装解除という共和国が受け入れ難い提案を中国に代行させ、中国が共和国に圧力をかけるよう迫ってきた。六カ国協議は破綻しても構わないというのが、アメリカのスタンスである。ライスは、中国に対する攻囲布陣構築への着手を背景に、北京に乗り込んだのだった。
中国・胡錦濤政権は、胡錦濤自身の早期訪朝で六カ国協議の開催を図りながら、経済力の急発展を背景にじっくりと構えて、米帝の対中攻囲布陣の構築を挫折させていこうとしているが、守勢に立たされたことはいなめない。六カ国協議は「風前の灯」となり、朝鮮半島−北東アジア情勢は緊迫しようとしている。
 この事態をどう撃ち返していくのか?
 流れを変える上で鍵を握るのが、韓国であるだろう。韓国には、制裁−戦争となれば自国が戦場となり、自民族相打つ悲劇に叩き込まれることから、まさに必死さがある。韓国・盧武鉉政権はこの必死さをバネに、米韓日と朝中ロが対峙する冷戦構造の打破、統一過程を推し進める南北朝鮮を要とする北東アジア共同体の形成という戦略構想を打ち出してきた。そしてこの政権は今この時に、超大国アメリカと一体化して朝鮮、中国と再び事を構えようとしている日本に照準を合わせ、日本の民衆に歴史問題の根本からの克服と侵略国家化の阻止を呼びかけ、日本を引き込んだ北東アジア共同体の実現へ外交的勝負に出ようとしている。
 盧武鉉政権の北東アジア共同体構想は、もちろん一つのブルジョア的展望に他ならない。しかしそれは、北東アジアを敵意と憎しみの海に沈めるブッシュ−ライスの道と異なり、労働者民衆の北東アジア規模の交流と連帯に大きく道を開くものである。この構想が北東アジアで政治的主導性を持つようになるための前提的で最も重要な条件は、南北統一への過程が実態的に一層強固になっていくことであるだろう。そして、中国が独自の利害から東アジア共同体構想を推進している中で、逆方向に向かう日本の政治を転換させる課題が決定的重要さをもっているのである。
 日本政府は、日米安保協議会2プラス2とライスのアジア六カ国歴訪を通して、アメリカの対中朝攻囲戦略への参加に同意し、この戦略に組み込まれた。これは、このかん海外派兵を推進し、有事法制を整備しながらも、アジアに対して専守防衛的スタンスをかろうじて維持してきた態度からの大転換である。首相の靖国参拝、歴史教科書の改悪問題、拉致問題をテコとした朝鮮排外主義の扇動、領土的野心の高まり、改憲策動など、アジアに対する侵略・植民地支配の歴史の「反省」をかなぐり捨てた「脱戦後」開き直り政治が、「自由」を旗印としたブッシュ流の覇権拡張政治と手を携えて、この軍事を支えている。われわれは、北東アジア・東アジアの労働者民衆の交流と連帯を発展させる立場から、大きな団結を作り上げて日本の政治を転換させていかねばならない。(M)