NHK番組改変
  安倍・中川は議員を辞職せよ
    内部告発に応えるまで、NHK受信料支払い拒否を

 旧日本軍「軍隊慰安婦」問題を扱った日本公共放送NHKの番組(〇一年一月三〇日放送の「戦争をどう裁くか」シリーズ第二回「問われる戦時性暴力」)が、当時の官房副長官・安部晋三や衆院議員・中川昭一ら政治家の事前介入によって改変されていたことが、当時その番組の制作デスクであったチーフ・プロデューサー長井暁さんによる一月十三日の記者会見などで広く明らかになり、この表現・報道の自由を破壊する政治家の違憲行為、また放送法に違反し放送の自律性を放棄したNHKの体質が大問題となっている。
 長井さんは昨年の十二月九日に、この政治介入事件をNHKの「法令順守推進委員会」(紅白歌合戦プロデューサーの業務上横領事件を機に設けられたもの)に内部告発し、調査を求めている。これを知った朝日新聞がNHK幹部や安倍・中川らに取材し、一月十二日朝刊でこの事件を報道。それで、内部告発後、調査が進展しないことを憂慮していた長井さんは報道翌日の記者会見に踏み切ったとおもわれる。
 ところが、その後NHKは、紅白不祥事に続くこの大不祥事を反動的に乗り切ることを決意したのか、十九日に松尾元放送総局長らが早々と政治介入を全面否定し、「事前報告は当然」などとする記者会見を行なった。そして、自ら設けた内部告発制度に則って提起された問題にまともに向き合おうとしないばかりか、この事件を他の報道機関(この場合、朝日新聞)がどう報道したかという枝葉の問題にすり替え、「朝日誤報事件」なるものをデッチ上げ、自らのニュース番組時間を私物化して騒いでいる。安倍・中川らも、「公正にと言っただけ」とか「幹部を呼び出したのではなく、彼らから来た」などと言い繕って、放送自体の中止すら迫ったその政治介入を居直っている。
 NHKは、朝日新聞攻撃に問題をそらすのではなく、この事件の内部告発に全面的に答える義務がある。それは今や、告発者の長井さんを始め社内的な義務ではなく、全国民・全視聴者に対する義務である。長井さんは、「制作現場への政治介入を恒常化させてしまった」NHK役員の責任を問い、最低この事件の厳正な調査がなければ、NHKの真の改革はないと訴えている。
 海老沢会長の辞任で済む問題ではない。番組改変を直接に指揮した当時の放送総局長・松尾武(現NHK出版社長)や、国会・政治家対策を担当していた野島直樹(現理事)は直ちに責任を取って役員を辞職し、最終処分を待つべきである。
 そして全国民・全視聴者は、政治介入事件についての真摯な調査結果が公表されるまでの間、NHK受信料の支払いを全面的に留保すべきである。(その間NHKには受信料徴収労働者の賃金を保証する責任がある)。事件を居直るのであれば、公共放送としての価値はゼロ、NHKは解散すべきだ。
 政治家の責任はどうなるのか。報道の自由を蹂躙した安倍・中川は衆院議員を直ちに辞職せよ。
 安倍・中川は事件当時から、教科書から日本の戦争責任や「軍隊慰安婦」の記述を消し去ることを求める「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の役員であった。当時放送中止の騒動を起こしていた極右団体と情報を通じ合っていたのか、とくに「女性国際戦犯法廷」についての放映を事前に嫌悪し、一月二十九日を始め事前に何回も松尾や野島に圧力をかけている。その圧力に添って、松尾らが、日本国と昭和天皇は有罪とする部分を全面カット、被害者証言のほとんどをカット、法廷「批判」の評論を入れ込む等何ヵ所もの番組改変を直接に指揮した。
 安倍晋三は次期総理候補などともいわれるが、とんでもないことである。安倍は、「従軍慰安婦に強制連行はなかった」と公言している極めて偏った人物であり、これまでの日本政府の公式見解「その募集、移送、管理等も甘言、強圧によるなど、総じて本人たちの意思に反して行なわれた」(九三年八月四日・河野官房長官談話)を否定することに躍起となっている男である。昭和天皇が戦犯であること、しかし政治的理由で免責されたこと、こんなことは世界の常識であるにもかかわらず、この極右人物にとっては耐えがたく「不公正」に感じるのだろう。政治路線的には、細川・村山政権時代に取られたそれ自体中途半端で欺まん的な戦争責任処理に対して、右からの巻き返しをすすめる極右反動派である。
 また彼は、居直りの中で「女性国際戦犯法廷は北朝鮮の工作」、「北からの参加者は工作員」とも発言し、法廷を主催した国際実行委員会、また共和国から法廷に参加した太平洋戦争被害者補償対策委員会の黄虎男氏、法学者の鄭南用氏を侮辱している。日本の戦争犯罪が語られるのは、北が日本人拉致事件をそらすために工作しているからだなどとする政治家が日朝関係に関与しているかぎり、拉致事件の解決は不可能である。
 政治介入が明らかになることによって、女性国際戦犯法廷の実行委員会メンバーであったVAWW−NETジャパン(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)がNHK等を〇一年七月に訴えていた裁判も、その様相が一変することとなった。番組改変が右翼団体の圧力や自主規制によって行なわれただけでなく、政府閣僚・与党議員の政治介入によって行なわれたのであれば、事実審理は一からやり直して当然だ。
 この裁判は、〇四年三月の東京地裁一審判決では、下請制作会社に責任を押し付けて損害賠償を命じたが、NHKについては「編集の自由の範囲内」として免罪。原告は控訴して、今年の一月十七日で二審も結審の予定であったが、当然ながら審理継続となった。
 次回四月二五日の高裁法廷は、原告側が証人申請したNHKの松尾、野島、海老沢、政治家の安倍、中川を出廷させよ。一審判決の「編集の自由の範囲内」の判断は、NHK側の偽証に基づく誤判である。まさに政治家の言論弾圧が裁かれなければならない。
 右翼政治家とNHKなど御用メディアが結託した居直りの大反動を粉砕し、かならず責任を取らせなければならない。(A)