米大統領ブッシュ「一般教書演説」を評す

 イラク選挙「成功」と強弁し
   「自由」拡大の世界覇権へ陶酔

 
 米帝・ブッシュ大統領は、二月二日、連邦議会上下両院合同本会議において、この一年間の施政方針を示す一般教書演説を行った。演説は、三日前に投票日を設定して自ら演出したイラク国民議会選挙の「成功」という幻想に自ら酔いしれ、米国の社会保障制度の「改革」に重点移行する余裕を誇示し、そして「自由」を旗印に、イラク・中東を手始めとして「究極的には世界中で圧制に終止符を打つ」と宣言したのだった。そこには、イラク侵略戦争を「大量破壊兵器」の存在という偽りの口実で強行し、石油の為に十万人を越えるイラクの人々を殺してきた、またいまも殺し続けている政権の責任がこっそり隠蔽されている。
 ブッシュ政権は、まず根拠のない高投票率報道を垂れ流すことで、イラク国民議会選挙の「成功」を全世界に印象付けた。そしてブッシュは、一般教書演説会場へ、フセイン政権に父親を殺害されたイラク人遺族とイラクの「解放」の為に命を捧げたアメリカ人海兵隊員の両親を招待し、感激する当人たちを自ら紹介してみせ、イラクの「成功」を米国内外に誇示したのだった。
 たしかに選挙は、「成功」を世界的に印象付けた限りでは、成功だったといえよう。仏・独帝国主義などは、この選挙の「成功」を米帝とよりをもどすために利用しようとする動きもあるようだし、一般教書演説の一つの政治的意図もそこにあったからである。
 とはいえ今回の「選挙」は、イラク人民の政治統合というその本来の役割について言えば、それを全く果たすものではなかった。スンニ派がボイコットし、シーア派が圧勝して移行政権を主導する権利を手にし、少数民族のクルド人が自己の居住地域でこれまた圧勝した構図は、宗派、民族の対立が激化する(内戦に至る)方向に作用せずにいない。そこでブッシュは一般教書演説の中で、宗派、民族対立が激化してイラクの選挙の実質的失敗が顕在化することのないように、イラクのスンニ派を支援していると見るシリアにテロ支援をやめよと警告し、イラク・シーア派の背後にあるイランに対しては、「イランの人々よ、あなた方が自由を求めて立ち上がれば、米国は連帯する」と体制打倒の意志を鮮明にしたのである。ブッシュは、イラクの選挙の実質的失敗を隠蔽するために、「自由」の旗を押し立てた戦線拡大の道に足を踏み入れようとしているのだ。
 日本での主要な関心は、ブッシュ政権二期目の朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国と略す)に対する態度である。
 一般教書演説で共和国に直接触れた箇所は、「北朝鮮が核の野望を捨てるように説得するため、アジア各国の政府と協力している」というくだりだけであった。しかしそのことをもって、共和国に対するブッシュ政権の態度が大きく変わったと見る論調は、ブルジョアマスコミの間にも全くない。
 大統領就任演説において語られた「わが国の自由が生き残るかどうかは他国に自由が広がるかにかかっている。世界平和のための最善の希望は、全世界で自由を発展させることだ」という今日的な覇権拡張思想は、この一般教書演説でもしっかり貫かれている。ブッシュの信任厚いライスは、新国務長官就任を前にしてキューバ、ミャンマー、ベラルーシ、ジンバブエ、イランと共に共和国を「圧制の拠点」と名指した。この六ヵ国のうちイランと共和国は、ブッシュ政権一期目の例の「悪の枢軸」(イラク、イラン、共和国)に含まれ別格であり、米帝を基軸とする核独占秩序を掘り崩す現実的可能性を孕んでいる。共和国に対する体制転覆活動が「二〇〇四年北朝鮮人権法」制定などをテコに強化されてきている。一般教書演説で共和国批判のトーンを抑えたのは、当面、イラクの治安回復を軸とした中東問題に力を割かざるを得ない事情によるのと、六ヵ国協議を利用した共和国武装解除の可能性を模索して損はないと判断しているからにすぎない。実際、六カ国協議に臨む米帝の対共和国要求は武装解除したらその後援助するというもので、妥協の余地がほとんどないものである。北東アジアの平和を求める強力な民衆的対抗力が発展し、北東アジア諸国の政府・支配階級を突き動かす時、アメリカの暴走は未然に阻止されだろう。
 公的年金制度は、フランクリン・ルーズベルト大統領の時に、ニューディール政策の一環として創設され、民主党リベラルの支持基盤となってきたものである。ブッシュはその「改革」に手を付けると宣言した。中味は、労働者が払う社会保障税の一部を「個人勘定」として貯蓄・投資させ、投資責任を負わせるというもので、国家負担の軽減、金持ち優遇、弱者切捨てを本質とする新自由主義「改革」である。
総じて言えば、ブッシュ政権二期目の冒頭においておこなわれた今回の一般教書演説の特徴は、イラクで自ら演出した幻想でしかない「成功」に酔いしれ、現実とかけ離れた観念(信仰)の世界に舞い上がり、米国の内外にわたって全面勝利に向かって突進する方針を宣言してしまったという点にあるだろう。よくある没落のパターンではある。(M)