憲法24条〔両性の平等〕への自民党改憲攻撃を評す
支配秩序のため男女平等も廃止

 十一月五日、憲法24条の見直しに反対する女性団体などのネットワークが発足した。これは、自民党憲法調査会憲法改正プロジェクトチームが六月に発表した、憲法改定についての「論点整理(案)」で、「結婚と家族における両性の平等」をうたった現行憲法24条の見直しを盛り込んでいるのに対し、反対の世論を盛り上げるために発足したものである。このネットワークには、I女性会議、戦争への道を許さない女たちの連絡会、全石油昭和シェル労働組合、ふぇみん婦人民主クラブ、日本婦人有権者同盟、日本YWCAなど多くの団体が賛同している。
 憲法改悪勢力は、日本を戦争のできる国家にするとともに、人びとの日常生活をも統制し、支配階級の利益と支配に合致した生活規範を憲法に盛り込もうとしている。
 自民党の「論点整理(案)」は、「公共の責務」として、「国の防衛、非常事態への国民の協力義務」、「国民の社会連帯・共助の責務」とともに、「家族を扶助する義務」を新設するとしている。「論点整理(案)」は、戦後の利己主義が日本人の公共心を低下させてきたが、それと共に家族や共同体を破壊したという。であるが故に、家族や共同体の価値の再構築のために、「家族を扶助する義務」規定と「国家の責務として家族を保護する」規定の新設を提案している。
 では「家族を扶助する義務」なるものが新設された場合、何故に「婚姻・家族における両性平等の規定(現憲法24条)は、家族や共同体の価値を重視する観点から見直すべきだ」とされるのであろうか。それは結論的にいうと、「家族の扶助」が主に女性に課せられるということが暗黙の前提となっており、したがって、そのために性別役割分業が反動的にも再強調され、男女平等の見直しに結果しているからである。
「男女平等の見直し」などというアナクロニズムに、多くの読者はおそらく唖然(あぜん)とするであろう。だが、支配階級の立場に立ってみると、そのような主張の背景には切実な経済問題が横たわっており、単なるアナクロニズムといって軽く見てはいけない問題なのである。それはズバリいって、社会保障・福祉政策の問題である。
歴代自民党政権や支配階級は、従来、社会保障の貧困さを主に大企業などの賃金政策や、あるいは家族への諸矛盾の押し付けによって補完してきた。だがグローバル資本主義の下での激しい資本間競争によって、従来の年功型賃金は崩壊しつつある。また、核家族が増大し、老後の生活を社会保障に求め、子どもたちに頼らない傾向も強まっている。
 しかし現実世界では、社会保障政策を事実上牛耳ってきた高級官僚たちの腐敗とデタラメサが天下周知の事実として露呈され、公的年金制度、健康保険制度などの崩壊的危機に直面している。しかも国家財政は、資本主義の発達した諸国の中では最もひどい赤字累積であり、財政再建は至難の業である。急速に進行する少子高齢時代にあって、社会保障は、それこそ八方ふさがりなのである。
 社会保障を国家財政で十分にまかなえない現状を前にして、そこで復古的に再び取り出されたのが、家族や共同体に依存する「社会保障」である。支配階級は自らの政策的な失敗に対して性差別を利用して切り抜けようなどという、姑息で反動的な態度を臆面も無く、さらけ出しているのでしかない。
 「論点整理(案)」はまた、?戦後の利己主義が家族や共同体を破壊した″といって、短絡的に?家族と共同体の価値の再構築″を強調している。だがこれもまた、余りに復古的であり、歴史の教訓を無視した独りよがりなものである。まず第一に、「論点整理(案)」は、「戦後の利己主義」なるものが、一体どのように肥大化したか、その原因を正しく分析できていない。おそらく、その原因を現行憲法に押し付けたいのであろうが、それはお門違いもいいところである。基本的な原因は、利潤追求を本性とする資本主義である。具体的には、五十年代半ばからの高度成長である。欲望むき出しの利己主義は、高度成長を生産面からも消費面からも推進したのであった。これに便乗した政官財のトライアングルは、利益誘導型の自民党政権を長期化させ、利己主義を助長させてきた。
 第二に、「論点整理(案)」はアプリオリに「家族と共同体の価値」を強調しているが、これは余りにも欺瞞的である。歴史的にみれば、家族も共同体もさまざまな形態変化をしているのであり、万古不易なものはひとつもない。戦前のイエ制度や農村共同体は、戦後の高度成長過程で、その崩壊が決定的となった。人間社会が存続する限り、家族や共同体はその形態を変化させるであろうが、おそらくは無くなりはしないであろう。だからといって、無前提に「家族と共同体の価値」を主張することは誤りである。なぜならば、女性たちが戦前、差別され抑圧されたのは、まさに戦前のイエ制度と共同体の下であり、女性の自由を抑圧し、女性差別を再生産するのに際して、そのイエ制度と伝統的共同体はきわめて大きな役割を果たし続けてきたのである。戦後はまた、企業社会の下での賃金差別、ブルジョア的な性別役割分業などで差別されつづけてきた。
 「論点整理(案)」が、憲法24条の男女平等を廃止したうえでの「家族の扶助の義務」を強調するということは、明確に、女性の自由と両性の平等を否定する家族形態を復古させようというものである。
 「論点整理(案)」は、欲望の際限無き追求、これに伴う利己主義の肥大化−−このような事態を絶えず生み出す資本主義という根本原因を放置したまま、ただただ支配秩序の動揺を抑えるために、「男女平等の見直し」などと歴史に逆行してまで支配秩序の再建をはかりたいだけなのである。(T)