「郵政民営化の基本方針」に断固反対しよう
  新自由主義の金融再編

 小泉連立政権は九月十日、「郵政民営化の基本方針」を閣議決定し、来春の通常国会へ郵政民営化の基本法案・関連諸法案を提出するとしている。また九月二七日には第二次小泉改造内閣を発足させ、自民党と官僚に郵政民営化慎重論が根強いなか、経済財政相の竹中平蔵を郵政民営化担当に据えるなど郵政民営化推進派の布陣を作っている。
 「郵政民営化の基本方針」は次のような内容となっている。
 まず何のための民営化か、という基本的目的としては、多様なサービスを安く提供し利便性を向上、「見えない国民負担」の最小化、資金を民間に流し国民の貯蓄で経済を活性化との三点を掲げ、「明治以来の大改革の郵政民営化は国民に大きな利益をもたらす」と独断している。
 国民の利便性向上とは、民営化によって郵便料金が安くなったり、郵便局の窓口がより利用しやすくなったりするのだろうか。基本方針から予想されるのはその逆である。また、「見えない国民負担」とは、国や特殊法人が郵便貯金・簡易保険から回ってくるカネを無駄づかいしていることや、郵政公社に法人税が課せられていないことを意味するという。しかしこれは、国家予算支出や財政投融資の改革の問題に他ならず、責任転嫁の言い草である。また国営企業はあまねく公共サービスを提供するのが存在目的であって、税金を払う収益があれば、より安価で良質な公共サービスの実施に振り向けるべきである。結局、郵政民営化の目的の中心は三点目の、郵貯・簡保の預金資産三百兆円を「民間」に流すこと、つまり資本主義的グローバル企業に使えるようにすることにあると判断できる。
 郵便貯金は戦前は軍国主義の資金となり、戦後は「土建国家」の資金となってきた。庶民の貯金は、おもに大規模公共事業に貸し出されてきたのである。しかし産業社会の変化とともに、財政投融資という日本の国家金融が歴史的な転換に入ったことは否定できない。だから保守的な官業防衛論はナンセンスである。
 しかし、これからの公的金融はどうあるべきかという具体論では、さまざまな階級的立場に分かれることとなる。労働者人民や中小商工業者は、このかん民間金融にひどい目にあってきた。我々は生活や商売に役立つ公的金融の実現を求める。この要求に敵対しているのが新自由主義の立場からの郵貯批判である。最も極端な竹中流では郵貯全廃論であり、庶民も郵便局に貯金するのではなく株を買え、ということである。もっとも国債の大量発行が続くかぎり、郵政民営化しても何も変わらないという論もある。しかし民営化すると、三百兆円で国債だけでなく米国債も買えるようになる。小泉・ブッシュの運命共同体が強化されてしまうだろう。
 さて基本方針では、その民営化のやり方としては、郵政公社を窓口ネットワーク、郵便、郵貯、保険の機能別に四つの株式会社に独立化させ、また持ち株会社を設立するとし、これらを〇七年四月に発足させ、移行期間に株を売却して民有民営を実現するとしている。
 各新会社のあり方では窓口ネットワークについては、自治体や民間金融機関から業務を受託し、小売や介護などに進出するとしている。過疎地での維持については「配慮」としか述べられていない。
 郵便については、「国際物流事業への進出」が強調されている。料金決定には公的関与を継続と記されているが、他の公共料金同様当たり前に過ぎず、公的関与は値上げしないを何ら意味しない。
 意思一致が行なわれていない点も多い。国鉄民営化のように地域分割するのかどうかは新会社の判断にゆだねるとし、また局長の世襲任用・私有資産の特定郵便局という前近代的制度はどう改革するのか、これは紛糾するので(全国特定郵便局長会は自民党の最大支持団体といわれる)何も述べていない。また最大の論点としては、当面、預金限度額の現行水準は維持とされているが結局三百兆円は縮小・解体していくのか、それとも貯金・保険新会社を巨大銀行として維持・発展させるのか、これら郵政の諸権益が絡み合って具体的になっていない。
 はっきりしているのは、利用者にとっての不利益である。新会社による窓口アクセスの確保が「努力義務」でしかなく、民営化後のドイツ・ポストのように儲からない局は切り捨てられるだろう。また全国一律サービス義務は継続とされている郵便料金も、赤字の郵便事業が独立すればどうなるか、当然値上げへ動くことになるだろう。郵便局で文房具やチケットを買えるようになっても、何のいいこともない。
 もう一つはっきりしているのは、郵政で働く労働者の不利益である。基本方針では「新会社設立とともに、国家公務員の身分を離れる」とされている。このこと自体にはいい面わるい面の両面があるが、不安を感じる正職員も多いだろう。国鉄のJR移行時のような採用やり直しの首切り手法が、基本方針に書かれているわけではないが、現在の郵政公社で進行中のリストラ・労働強化・能力主義賃金が一層激しくなろうとしている。現在、非常勤職員が増え続け、公社化以降は窓口業務にも進出してきているが、もともと公務員ではない「非正職員」を運動の主役とする労働組合が必要となるだろう。
 『朝日新聞』の九月三十日社説は、民業圧迫の民営化であってはならないとの立場からヤマト運輸と郵政公社の争いに触れ、「例えば郵政職員の給与は物流業界のそれと比べて高い。見直すべきところは少なくない」などと主張している。宅配業界の出来高払い高密度労働、劣悪賃金のほうを問題にするのではなく、郵政労働者のほうを労働基準法違反状態に突き落とそうとする暴論である。国鉄解体法案の時のような、反官僚感情を利用した粗野な公務労働者への攻撃、反労働者キャンペーンを許してはならない。
 郵政公社官僚は、これまでの完全民営化反対の態度から巨大金融・物流会社へ転身を図る態度にすでに舵を切っている。このための言わば原始的蓄積として、現在の郵政の非正規雇用化・労働強化がすすめられている。
 多数派組合の郵政公社労組(旧全逓など)の事業防衛路線は、結局この公社当局の転身に寄り添っていくものでしかない。一方、少数派の労働組合である郵政労働者ユニオンは、郵政民営化に反対する基本路線として、「国営」に対して「民営」をではなく、「市民・利用者と働くものが運営と管理に参加した公営」を対置し、「新たな公共性の確立と公共サービスの作り変え」を掲げている。
 この郵政労働者ユニオンの基本路線は、完全に支持できるものである。この路線の下で、郵政民営化に断固反対し、すべての郵政労働者と民衆との連帯を作っていく諸方針と実践が問われるだろう。(A)