皇太子「人格否定」発言の政治的意味
  侵略国家へ天皇制再構
 
 皇室の女性差別的体質が顕に

 五月一〇日、皇太子が、「雅子のキャリアや人格を否定するような動きがあった」等と、公然と皇族や宮内庁を批判。これに対して十七日、天皇・皇后が、宮内庁を通じて「改めて皇太子殿下から具体的に説明されなければ国民も心配するだろう」と皇太子に対して釈明による幕引きを要求。この要求を受けて宮内庁長官が、二十七日の記者会見で皇太子の釈明を代弁し一件落着とする計画を立てたが、皇太子側から釈明を聞く場のセットに応じてもらえず、計画は挫折。こうして天皇家の問題性が格好の週刊誌ダネとなり、「天皇制」が公然と議論される状況になっている。
問題は、皇太子と結婚した外務官僚家系の一女性が、天皇・皇后、宮内庁の圧力によって、「世継ぎ」の男子を産むことではじめて存在価値を認められる皇太子妃の立場に気付かされ、精神的にも肉体的にも破綻状態に追い込まれたことから発した。離婚が最良の薬というところまできている。皇太子は、立場がなくなるので、必死にならざるを得ない。彼は、民衆を政治動員する仕方で、皇室内権力闘争に踏み込んだのである。
 天皇家・宮内庁の時代遅れの体質にまつわる内部矛盾が、ついに「菊のカーテン」でも覆い隠すことが出来ないほど深刻化した。天皇家・宮内庁の内部矛盾の激化は、天皇制の在り方(女帝承認論)をめぐる支配階級全体の路線闘争を一気に加速しだしている。
一般に支配階級の内部矛盾の露呈は、彼らの権威を揺るがせ、被支配階級の側からする批判と反乱の空間を拡大するものである。しかし支配階級は、これを契機に、現代的侵略国家への国家再編の一環に天皇制の再編・保存を積極的に位置づけ推進し、民衆の批判を再統合する動きを活発化させてもいる。われわれは、この動きを打ち砕き、天皇制廃止への流れを強めていかねばならない。

 天皇制の存続を意図

 今回の皇太子による「人格否定」発言は、そもそも身分制(男系血統重視)である皇室の存在を前提としている以上、本質的にはまやかしではある。しかし皇太子は、現在の皇室のあまりに露骨な女性差別的・人格否定的制度・体質を一定でも変えない限り、現下の離婚の危機を乗り切ることができないというだけでなく、将来天皇制の存続の危機に直面するであろうことも、よくわかっているに違いない。なぜなら、第一に、皇室典範の第一条「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」に合致する「世継ぎ」が誕生しそうにないからである。第二に、「世継ぎ」の男子が誕生したとしても、また娘の皇位継承に道が開かれたとしても、その結婚相手になり手が無いだろうからである。
 「天皇制の存続」は、次代の天皇としての皇太子にとっても、至上命題である。秋篠宮夫妻にまで男子出産を働きかけ皇太子妃を追い詰めた現在の天皇・皇后と皇室の「人格否定」的制度・体質を変えようとする皇太子とは、「天皇制の存続」という同じ土俵の上で対立しているに過ぎないのである。
 
 自衛隊を鼓舞する天皇発言

 今日、わが国の支配階級は、金融独占資本の多国籍展開した権益を確保するために、超大国米帝が推進する世界支配秩序維持のためのグローバルな軍事介入に積極的に加担し、在日米軍基地と国土の防衛を主任務とする軍事体制から海外派兵を主任務とした軍事体制への転換を推し進めている。そして米英のイラク占領支配に加担すべく、自衛隊を戦後初めて戦場に投入した。そうした中で天皇は、来日中のチェイニー米副大統領と四月十三日に会見し、「自衛隊は給水や医療活動など、復興支援の為に派遣されたものであり、イラクの人々の幸せに貢献するすることを願っています」と述べ、米帝への忠誠を披瀝してみせた。
 この発言は、戦力不保持、交戦権否定の憲法九条を完全に否定するものであり、イラク派兵に民衆の多くが反対している中で、しかも三名の日本人人質の命がどうなっても自衛隊イラク派兵を堅持するという小泉の方針を支える形でなされた。まさに「国事行為」を超えた政治的発言であった。天皇が、戦場に投入された日本軍を精神的に激励したのである。侵略国家における天皇の役割が、姿を現し始めたのだ。
 今回の皇太子の「人格否定」批判は、天皇のこうした動向と連動する性格を持つものである。
 米帝が主導する今日のグローバルな軍事介入は、「人権」なり「民主化」を口実になされてきている。イスラム圏に対しては「女性の解放」も前面に押し出される。それらが欺瞞的なものであることはイラクでの米軍の行為を見ても明らかであるが、とはいえ侵略国家の側は「人権」等々を欺瞞的にせよ侵略の旗印として掲げることが出来るレベルにおいて自己の体制を確立しておくことが政治的に求められる。米帝と一体化して侵略する地位を求める日帝の場合もまたしかりということである。
 今後、天皇が、「人権」等々を旗印に侵略する日本軍を激励するには、表面的にであっても、この方面で身を清めておかねばならない。今回の皇太子の発言は、彼自身がそこまで考えてのことかは別にして、今日の時代(支配階級)の要請にリンクしていく質をもって為されているのである。(M)