経団連総会

  今秋「提言」へ向け新たな国家戦略を提起
   多国籍企業の軍事保障狙う

 旧経団連と旧日経連が統合して二年がたつが、五月二十七日、日本経団連が定時総会を開催した。
 総会は、憲法改定や安保問題などを検討する「国の基本問題検討委員会」(委員長・三木繁東京三菱銀行頭取)を設置し、今秋にも提言をまとめる予定である。
 総会はそのほかに、*社会保障、財政、税制の一体改革、*企業法制・税制の整備と規制改革推進、*FTA(自由貿易協定)の早期締結など対外経済政策の強化、*産業の集積促進と観光の振興、*科学技術創造立国の実現と環境立国戦略の推進、*地方自治体の行財政の自立など、九項目の決議案を採択した。
 役員は、会長に奥田碩・トヨタ自動車会長が再任され、新任の副会長として、米倉弘昌・住友化学工業社長、草刈隆朗・日本郵船会長、勝俣恒久・東京電力社長の三人が選任された。
 独占資本は、バブル崩壊後、一方で国際的な資本間競争に打ち勝つためと称して、本格的な多国籍企業の活動に乗り出し、他方で九〇年代半ばからは徹底的な人減らし合理化や賃金カットなどで企業収益の構造改善をおしすすめてきた。為替の変動相場制やアメリカの圧力などによって、日本の独占資本は旧来のように高い国境障壁を前提とした貿易戦争で勝利するパターンを変えざるをえなくなり、また旧ソ連圏の崩壊・中国やベトナムなどの市場経済への移行は、安い労働力をもとめた日本企業の多国籍化をさらに促進した。
 バブル経済の処理、激烈な国際的資本間競争などは、大量首切り、賃金カット、労働条件の劣悪化など、ひとへに労働者へのしわ寄せで切り抜かれてきた。
 こうした資本家たちの総本山である日本経団連の会長に、最も儲けまくっているトヨタ会長が再び就任することは、時代を象徴するものである。その奥田経団連は、“時期は良し”とばかりに、頃合いを見計らって、いよいよ憲法改悪に本格的に乗り出してきた。その現れこそ、「国の基本問題検討委員会」の設置である。委員会設置によって、日本の国家像・国家戦略を討議し提言することの狙いは、まさに日本資本の国際活動の増大に見合って、その軍事的・政治的な保障をはかることである。独占資本を中心とする資本家階級が、いま最も切実に欲していることは、資本活動の軍事的・政治的保障なのである。そのために、憲法を改悪し、戦争のできる国づくりが、緊急に必要なのである。
 日本経団連が次いで重視しているのは、年金、医療、介護など社会保障制度の一体的改革である。政府、資本家、マスコミなどは、社会保障制度のほころびをあたかも、少子高齢化が原因かのように言っているが、これはとんでもない間違いである(少子高齢化はずいぶん前から解っていることである)。原因は、高度成長時代からの官僚の無計画性・無能力性・国家財政への寄生、この官僚と結託し甘い汁をすすってきた自民党政治家などのたかりと利己主義、それにこの間の資本家たちのムチャクチャな首切りや賃金カットなどである。
 労働者階級へのなりふりかまわぬ犠牲の押し付けによる企業の収益構造の改善は、税収を大幅に落ち込ませている。バブル最末期の九一年から二〇〇三年までの十二年間で、国税収入は、六三・二兆円から四三・九兆円へと三一・五%もの大幅減収だが、同じ期間に間接税一六・〇%増に対して直接税四七・五%減である。中でも直接税である所得税のうち、「源泉分」は一九・六兆円から一一・二兆円へと四二・九%減であり、「申告分」にいたっては、七・二兆円から二・六兆円へと六三・九%減という大幅落ち込みである(法人税も、首切りなどで儲けているのに、この間、一六・六兆円から九・一兆円へと四五・二%減)。国家財政の破綻的状況にもかかわらず、資本家たちはそれにはかまわず、ただただ自己の企業の収益が改善されればそれで良いのである。
 年金制度は五年ごとに改訂されてきたが、改訂のたびごとに保険料の引上げ、給付水準の引下げ、受給開始年齢の引上げなどで、政府は制度の抜本改革の展望もなく、数のつじつまあわせに奔走している。しかし、九八年度から被保険者の数自身が減り始めている。大企業などの大量首切り、非正規労働者の増大は、年金制度そのものの空洞化をさらに促進させるているのである。
 日本経団連は、厚顔にも、昨年1月に「奥田ビジョン」なるものを発表し、消費税の段階的引き上げとセットにして、社会保障制度の改革なるものを唱えている。だが、社会保障制度の危機を招いた自らの責任にはほおかむりして、社会での弱い立場の人々に過重な負担を強いるものこそ、消費税を中心とした「奥田ビジョン」なるものである。奥田経団連は、小泉とまったく同じで(「会社いろいろ、社員いろいろ」とうそぶいて、勤務実態もないのに厚生年金加入を認められるという不公正に居直っている)、恥というものをしらない。恥知らずにも、自らの責任は棚上げにして、労働者階級人民に犠牲をおしつける形での、改革なるものを強行しつつあるのである。
 大企業は、最近だけでも、武富士の盗聴事件、西武鉄道の総会屋への利益供与事件、三菱自動車のリコール隠し事件などとつづき、大資本の不正は後をたたない。経団連会長の出身企業トヨタも、整備士検定での不正が発覚している。こうした不正を根絶できない体質を放置したままで、経団連は他方では、課徴金の大幅強化の独占禁止法に反対し、環境税の導入に反対し、また政治献金の斡旋を再開している。企業などの政治献金を容認している事態などは、大組織と個人を対等にあつかい競争させるものであり、社会的不公正の最たるものである。(T)