イラク情勢
  占領継続を粉飾する国連決議
   被拘禁者の虐待・虐殺を生む「対テロ戦」の論理

 現在、国連安全保障理事会では、占領当局から「暫定政権」への七月の主権移譲について、米ブッシュ政権提出の決議案がやりとりされている。このブッシュが立てたスケジュールに沿って、早々と六月一日には「イラク統治評議会」が「暫定政権」に取り換えられた。暫定政権首相はCIAと密接なアラウィなる人物が就任し、国連事務総長代行の指名という「国連主導」は形だけの、「米国主導」の茶番劇となっている。
 安保理決議案での米英と仏独露中との争点は、結局、米英などの占領軍(主権移譲に伴い多国籍軍に名称を代えるだけ)の駐留期限をいつまでとするのか、また、新設イラク軍の指揮権を焦点として暫定政権の権限をどこまでとするのか、という点である。争点がこの次元であることからして、それは「主権移譲」の決議案とは呼べないこと、占領支配を延長するための決議案でしかないことが明らかである。米英の占領継続にどう条件をつけるか、米英と仏独などの対立も、そのレベルにしかないことが明らかである。
 国連安保理決議があるなしに関わらず、イラク人民は国際法に違反して侵攻・占領している外国軍を直ちに追い出す権利をもっている。であれば、妥当性のある安保理決議は、すべての占領軍の即時撤退を要求すること、不法行為に参加してこなかった諸国によって総選挙などの支援部隊をイラク国民の要請に基づいて派遣すること、こうした決議である。
 現在の安保理で、そのような決議が行なわれる可能性はゼロである。そればかりでなく占領軍の不法行為の積み重ねを国連はまったく放置している。戦闘での米軍の無差別虐殺を放置するだけでなく、アブグレイブ刑務所など拘禁施設での国際人道法の蹂躙を放置している。
 五月に入ってようやく明るみに出てきたこの重大犯罪は、日本では「虐待」「虐待」と呼ばれているが、何人となく被拘禁者を虐殺している。アラブ諸国のメディアによると軍用犬に噛ませるなどして何百人も虐殺している。ゲシュタポ、日本軍731の所業に匹敵する犯罪である。ファッシズムと戦ってきたブルジョア民主主義帝国主義軍隊の、なれの果てがこの有様か。
 虐待・虐殺の制度的要因は、戦争捕虜もいなければ刑事犯罪容疑者もいない、ただテロリストの鎮圧のみがあるというブッシュの「対テロ戦」の論理である。ここでは、戦時国際法での捕虜待遇や、刑事事件での被疑者の人権保障について二十世紀に積み上げられてきた成果が破壊されている。アフガンの「対テロ戦」でキューバのグァンタナモ米軍基地に連行されてきた人々は、ブッシュ政権によると戦争捕虜でもなくテロ事件被疑者でもないという。法的根拠のない大量拉致犯罪である。グァンタナモ基地での被拘禁者へのやり方をイラクに適用することを、ブッシュ政権が承認していたことは明らかだ。
 ブッシュ政権の蛮行に対し、戦争に残虐行為は付き物だという一般論で済ますことは重大な誤まりである。川口外相は「ジュネーブ条約違反の可能性がある」と答弁したが、そんなレベルではない。侵略者であるだけでなく、文明の破壊者であるブッシュ政権と日本は一刻も早く手をきるべきだ。(A)