貿易構造の変化と引き続く資本輸出
  自動車生産の内外比逆転へ

 財務省の一月二十六日の発表の貿易統計(速報)によると、二〇〇三年の日本の輸出は、中国・香港・台湾を合わせた対「中国圏」への輸出(一三兆七千億円)が、ついに対アメリカへのそれ(一三兆四千億円)を上回った。
 この貿易統計では、昨年の日本は、輸出、輸入ともに過去最高で、貿易黒字が前年比三・六%増の一〇兆二千億円余になった。増加は二年連続で、一〇兆円台は三年ぶりである。この中で、輸出は対アジア向けがけん引役で五四兆五千億円余(対前年比四・七%増)であるが、とりわけ対中国向けは急増し三三・二%増の六兆六千億円余となった。これに加えて、香港や台湾への輸出の多くが、両地域を経由して中国に輸出されている。そこで、これら三者を合わせた「対中国圏」向け輸出を見ると、前述のように対アメリカ向けを上回る額となった訳である。日本経済は、ますますアジア圏とりわけ「中国圏」との相互依存関係を強める事態となっている(左の図表を参照)。
 統計上、日本の対中国貿易は、八八年以来、赤字続きである。だが、奇妙なことに中国の対日本貿易も二年連続の赤字となっている。これは、香港経由の貿易のためである。日本にとって、「香港向け輸出」であっても、その多くは中国に再輸出されるため、中国側は、「原産地・日本」の表示をもとに、日本からの輸入として計算するからである。ちなみに、対中国と対香港の貿易をあわせると、日本は、二〇〇一年まで赤字だったが、翌年から黒字に転換している。
 日本の輸入先のトップは、二〇〇二年にアメリカから中国に交替した。今回また、日本の輸出先も、中国単独ではないが、「対中国圏」がトップとなった。輸出入とも、日本の相手は、対アメリカではなく、「対中国圏」が増大する傾向が、さらに強まったのである。
 周知のように、グローバル資本主義の下、九〇年代、日本資本は低賃金の労働力をなりふりかまわず求めて、東南アジアからさらに中国へと資本輸出を大幅に増大させている。
 したがって、貿易も、資本輸出も、アジアとりわけ中国との関係がますます緊密となっているのである。にもかかわらず、この間の、戦後初の海外戦地への派兵・大義なきイラク派兵に見られるように、小泉政権は、国際協調よりも日米同盟を優先させた。だが、皮肉なことに日本帝国主義の経済方向と政治方向にねじれをきたしている。
 他方、昨年五月ころから、円高ドル安がすすみ、昨年だけで日本は約二〇兆円のドル買いを行っている。アメリカは、レーガン時代をはるかに上回る規模で、貿易収支と経常収支の「双子の赤字」をかかえ、ドル安を容認している。(アメリカの〇三年の貿易・サービス収支の赤字は四八九四億ドル、経常収支の赤字は四〇〇〇億ドル台。〇四年度〔03年十月〜〇四年九月〕の財政赤字は五二一〇億ドルの見通し)
 日本の独占資本などは、八五年のプラザ合意いこうの急激な円高ドル安によってドルの価値低下にともなう輸出利益の目減りという教訓にふまえ、昨今は、海外生産比率の向上、部品の海外調達の増大、さらに円建て・ユーロ建ての輸出の増加などにより、円高攻勢に対処している。中でも、九〇年代急激に増大した日系多国籍企業の海外生産比率は、最近もその傾向は止まらず、二〇〇二年度の製造業部門のそれは三七・二%と見込まれ、〇三年度も増大すると推測される。
 日本の輸出における主力産業の一つである自動車産業も、その例にもれない。『日経新聞』(昨年十二月二十二日付)によると、日本車の海外生産台数は二〇〇五年にも一千万台を突破し、国内での生産台数を超える様相といわれる(右図を参照)。一月十七日付の同新聞によると、昨年の中国の自動車生産は、四四〇万三千台余で、フランスを抜き、アメリカ、日本、ドイツにつぐ自動車生産国になったといわれる。当然にも、日本の自動車大手も、中国への資本輸出を今後さらに強めることを計画している。
 日本の自動車資本は、九〇年代初め一四〇〇万台規模の国内生産能力をもっていたが、九〇年代末までに工場閉鎖などで四〇〇万台の生産能力を縮小している。〇三年現在、トヨタ、日産、ホンダ、三菱自、マツダの大手五社の国内生産は、七七一万三三〇八台、海外生産は六九一万三一三三台である(『朝日新聞』一月二十七日付)。国内生産の縮小傾向は今後もつづき、当面、国内での生産能力は九〇〇万台に縮小することは避けられないと言われている。それに代わり、自動車資本は、中国、北米、ロシア、インドなどへの資本輸出のさらなる増大を計画している。
 自動車産業で働く労働者の失業が今後も増大することは、必至である。さらに、〇四年三月期の連結決算で税引き後の利益が、国内企業で初めて一兆円の大台を超えると見込まれるトヨタは、それにもかかわらず、賃上げを否定して世界一の座を狙っている。トヨタ労組もまた、賃上げ自身を要求していない。もうけを増大させている大企業労資が賃金を抑制する状態は、他の企業の賃金カットの口実にもなっているのである。
 あれこれの屁理屈をつけて、自衛隊のイラク派兵を強行する小泉政権の狙いは、アメリカ帝国主義の侵略を助けることだけでなく、日本資本の海外での権益を軍事的に保護するための準備にほかならない。(T)