イラク情勢
  苦境のブッシュ政権 早期「主権移譲」で策略
    占領軍即時撤退しか道はない

 米ブッシュ政権は、イラク問題での国際的孤立と、イラク内外の人民による反占領闘争の武力的・平和的発展に直面し、その苦境を脱するために策を労しつつある。
 十一月二七日、大統領ブッシュが突然バグダッドをこそ泥のように訪問し、たった二時間半で逃げ帰っていくという珍事が起きた。イラク国民に何のアピールをするでもなく、ただ米占領軍を慰問する姿を宣伝しただけという醜態であった。
 この事件は、米占領軍の志気低下が危機的状態にあること、そしてまた国際的に孤立するブッシュ政権が国内的にも孤立しつつあることを暴露した。ブッシュは、米民主党の次期大統領候補といわれるヒラリー・クリントンの二七日カブール、二八日バグダッド訪問に対抗し、米国内向けの宣伝を意図したのである。今年五月一日のブッシュの「戦闘終結」宣言の頃までは、ブッシュの来秋大統領選圧勝は動かないと見られていた。今回わざわざ世界に醜態をさらしてまで、ヒラリーの民主党に対抗しなければならないほど苦境に立っているのだろうか。
 その前の十一月十五日、米英占領当局は、来年六月末までに暫定政権を発足させイラク国民への主権委譲を行なう、〇五年末までに総選挙を行なって新政府を樹立するとの新合意をイラク統治評議会との間で行なった。
 これも、イラク占領の苦境を打開するための策の一つである。ブッシュ政権はこれまで、イラクで総選挙が実施され新憲法と新政府が確立するまでの間は、占領当局がイラク国民から主権を剥奪し続ける統治者であるという立場を取っていた。この立場が、国連安保理での不一致と米英の孤立の直接の原因であった。この米英の孤立は、十月十六日採択の安保理決議でのイラク多国籍軍設置決議もまったく空文になってしまっている事態、また十月下旬の「復興支援」国会議において、日本の五十億ドル以外はカネも集まらないという事態に示されている。
 そこでブッシュ政権は、制憲議会選挙などの前に主権を委譲するという政策転換を行なった。六月以降も、発足したイラク暫定政権との間で駐留協定を結んで米軍は居座り続けるが、占領統治は成功裏に終了したという形をつくることによって、国内的には大統領選挙に臨み、国際的には安保理諸国の支持を得られるようにしたいという狙いである。イラク暫定政権は発足とともに、安保理に治安維持のための平和維持軍、多国籍軍の派兵を要請するという段取りが予想されるのである。
 しかし、このブッシュ政権が目論むイラクの新ステージは、まったく不確かなものである。イラク国民にとって、占領下で発足する暫定政権は傀儡イラク統治評議会の延長としか見られないし、実質的には米軍が居座り続け占領支配が継続するだけの話である。イラク人民の平和的・武力的抵抗は、米英を始めとする占領軍が完全に撤退しないかぎり止むところはない。小泉が言うところの「いま米軍が撤退すれば、イラクはテロリストの巣窟になる」という言辞は、まったくイラク国民の自決権を認めない暴論である。違法な米英の占領が一掃されたあと、イラクでどのような政権ができるか、どのような情勢となるかは、まったくイラク国民に懸かった問題であって、侵略者とその共犯者がとやかく言ういうような資格はない。
 十一月二十日、ブッシュの英国訪問は、イギリス人民などによる二十万とも三十万ともいわれる巨大な抗議行動で包囲された。イギリスの反戦連合体「戦争ストップ連合」は、9・27世界一斉行動の十万人をはるかに上回る動員を実現して、英米軍の即時撤退を迫っている。首相ブレアは、当日起きたトルコ英総領事館爆破事件を利用してイラクでの「対テロ戦」継続を正当化しようとしたが、テロ攻撃が起きるるのは「うそつきブレア、戦争屋ブッシュ、お前たちのせいだ」という世論が圧倒的である。
 十一月三十日、日本政府の外交官二名が、イラク北部で銃撃され死亡した。現時点で政治的事件かどうか確定的ではないが、日本政府が米英侵略軍の共犯行為を続けるかぎり、日本政府とそれに連なる者が武力抵抗闘争の攻撃目標なることは不可避である。この教訓を無視し、自衛隊派兵を強行するならば、日本も米英に次ぐ「テロ原因量産国」になってしまうだろう。
 不法・不当なブッシュのイラク攻撃を支持したことから、誤まった道は始まった。日本は今すぐに、この泥沼の道から引き返すべきである。(H)