イラク特措法に基づく自衛隊派兵は破綻しつつある
  派兵断念へ追い込もう

 十一月九日の総選挙で、小泉政権連立与党は過半数を維持したが、イラク特別措置法にもとづく自衛隊イラク派兵を強行することは、選挙後かえって困難を増している。今後の日本内外の闘いによって、イラク特措法にもとづく派兵を阻止することは可能である。
 小泉政権は現在、派兵基本計画を派兵期間を明記しない形にして、国会閉会中の(現在小泉は不当にも、特別国会に続く臨時国会開会の野党統一要求を無視している)十二月八日頃にに閣議決定することを狙っているが、これは派兵開始の時点を選択可能にしつつ、ブッシュ政権へ自衛隊派兵の確定をアピールしておこうというものである。
 しかし、一月に通常国会が開会となりイラク派兵の徹底審議ができる以上、その開会前に派兵を開始するということは全くもって暴挙である。そして通常国会での徹底審議に持ち込むことができれば、イラクで米英占領当局から統治評議会への主権委譲が行なわれるはずの六月末という時期まで、そう時間はない。イラクに主権を回復した暫定政権が発足し米英の占領統治が終結すること(その実態がどうであれ)は、イラク特措法の前提条件の大きな変化である。すなわち自衛隊派兵を含む日本の「復興支援」策は、イラク暫定政権と日本政府との間で検討され直さなければならないこととなる。(現在のイラク特措法での派兵は、占領当局の受け入れ同意を受け入れ国政府の同意とみなす、と強弁して計画されているものなのである)。
 あと数ヶ月、小泉政権のイラク派兵実施を阻み続けることができるならば、イラク特措法が宙に浮き、それにもとづく自衛隊派兵が破綻する可能性は高い。全力で大衆闘争と国会闘争を盛り上げるべきである。

 小泉は当初、総選挙ではイラク派兵問題が争点化しないように立ち回り、選挙後の十四日に自衛隊イラク派兵の基本計画を閣議決定するという卑劣な日程を立て、なんとか年内派兵に持ち込もうとしていた。しかし、イラク現地での反占領闘争の武力的発展、すなわち十一月二日以降の米軍ヘリの撃墜の続発、また決定的には十二日、自衛隊展開予定地に近いイラク南部ナーシリヤでのイタリア軍への自爆攻撃などの事態によって、たちまち閣議決定は延期となってしまった。
 十一月十四日に来日し、日本政府の閣議決定をお土産にもらえるはずだった米国防長官ラムズフェルドは、日本の早期派兵と五十億ドル拠出の念を押しつつも、「軍事面で日本が当てにできる国だったためしはない」と捨てゼリフを残して、次ぎは沖縄へ乗り込んで行った。
 沖縄では十七日に稲嶺県知事と会談し、稲嶺知事が恐る恐る「沖縄は反米ではない。しかし基地の現状はもう限界だ」と訴えたことに対し、ラムズフェルドは不快な表情を示し、「今日若い兵士から、沖縄の人々に歓迎されていると聞いた」とか「私の理解では、訓練や騒音のレベルは低下している」とか、非常にごう慢な発言を繰り返した。こうした現国防長官の対応は、建前的とは言え「沖縄県民の負担軽減」という主旨であったSACO合意の水準からさえ後退したものである。SACO合意の時期に来沖したクリントンと比べても、今のネオ・コン一派の強圧ぶりを示して余りある。
 さて特別国会では十一月二五〜二六日の衆院で、イラク派兵問題で形ばかりの質疑が行なわれた。小泉は、衆院議員としては初登院の沖縄選出・照屋寛徳議員の追及に対して、「確かにある部隊が派遣されると、これを標的にしようというテロリストの動きが出てくる」と答弁した。これは、自衛隊がイラクのどこに展開しようと、反占領の武力抵抗に直面し、そこが戦闘地域になるという蓋然性を認めたものであり、「非戦闘地域への派遣」というイラク特措法の前提が崩れてしまっていることを首相自身が認めたものに他ならない。
 政権内外の自衛隊派兵容認勢力が動揺している要因の一つは、この「非戦闘地域への派遣」の前提が崩れ、小泉が一旦は覚悟した「殺し殺される」事態が現実に発生すれば、今夏の参院選を待たずに政権危機に陥る、それは避けたいという政治的保身から来ているものである。
 もう一つの要因は、政治路線上のより深刻なもので、現在の対米関係についてブルジョア政治勢力の中で政治的分岐が発生していることである。小泉らはブッシュとの「有志連合」に積極的に組していく立場を頑なにとっている。他方、保守勢力やブルジョア・メディアにおいても、現在のブッシュ政権との協調は本来の日米同盟ではない、小泉や石破らと米国ネオコンとの異常な関係であり、日本の国益を損ねているとする立場が、来秋大統領選を控えた米国二大政党の抗争と関連しながら、しだいに強まってきている。
 この対米関係をめぐるブルジョア政治勢力の分岐は、日本においては民主党によって代表されており、したがってイラク派兵問題で民主党が小泉政権に小手先の妥協を行なうことが簡単にはできない状況となっている。ネオコン・ブッシュ政権の国際的孤立という、世界的規模での政治環境が背景にある。
 民主党のイラク問題での政策は、次ぎのようになっている。「米国等のイラクへの武力行使は、国連憲章など国際法に違反するものであり、容認できません。」「イラク特措法については、戦闘地域と非戦闘地域との区別もつかないこと、実質的に米英軍による戦闘・占領行為を後方支援することになることなどの観点から、これに基づく自衛隊の派遣は行なわず、廃止を含め見直しを図ります。」「イラク国民による政府が樹立され、その要請にもとづき安保理決議がされた場合には、わが国の主体的判断にもとづいて憲法の範囲内でPKO、PKFの派遣基準を緩和し、自衛隊の活用も含めた支援に取り組みます。」(民主党マニフェスト)
 したがって民主党の態度は、違法なイラク攻撃の追認でしかないイラク特措法に基づく派兵計画とは妥協の余地がないが、主権委譲の来年六月以降の状況によっては、国連平和維持軍などの形での自衛隊イラク派兵を積極的に検討する、しかも武力行使が可能な形で検討するとするものである。
 これに関連して十一月二四日、民主党内の旧社会党グループの横路孝弘と旧自由党の小沢一郎とが、安保政策での合意文書(その内容は、自衛隊は専守防衛、自衛隊とは別組織の国連待機軍を作るなど)を確認した。これは、当面のイラク派兵問題の対応で党内不一致が露呈することを防止するためと考えられるが、路線的には、日本帝国主義の軍事政策のもう一つの選択肢としての、国連中心主義的な海外派兵の路線を示唆したものと言うことができる。日米同盟の堅持と国連軍的な武力行使への積極的参加、これは従来からの小沢の持論に他ならない。
 こうしたことから、イラク問題でのブルジョア二大政党の分岐は当面、日本の反戦平和勢力にとって十分利用可能性のある分岐であるということ、しかし中長期的にはまったく当てにしてはならない分岐であること、むしろ米日でネオコン的勢力が後退した後においては、民主党的路線こそが反戦平和勢力の主敵となることもありうるということである。
 しかし今は、小泉・石破・安倍ら日本のネオコン的一派が主敵であり、かれらを打倒し、イラク特措法にもとづく自衛隊派兵を破綻させるために、あらゆる政治的要素を活用していくことが問われている。自民・民主の二大政党は、どちらも日本帝国主義ブルジョアジーの階級的利益の上に立っている。しかし、その二大政党化を事実上の「一極支配」とみる見方は、政治実践的には単純すぎるのである。
 そして、ブルジョア政治勢力の内部矛盾の利用を始めあらゆる要素を十分に活用できるためには、反戦平和勢力・左翼勢力が連携し「第三極」として強大化しなければならない。ブルジョア二大政党化の時代は、新左翼的な勢力にとっては、セクト主義・教条主義から脱した活動が一層問われる時代と言えるのではなかろうか。(W)