憲法改悪阻止は総選挙の一大争点
  9条否定の民主党「創憲」論

 現在の総選挙の選挙戦では、自民党や民主党は憲法問題を主要な争点の一つとして宣伝しているわけではない。「改憲」を大声で叫んでも得票には結び付きそうにもないから、意識的にそうしているのだろう。社民党は自己の独自性を押し出す必要もあり、「護憲」を強調して臨んでいるが、目立った論戦となっているわけではない。自民、公明や民主は、おもに経済「改革」や年金など経済・財政問題を主要な争点としているのである。
 しかし、今総選挙が、憲法改悪なのか憲法改悪阻止なのか、それが表に出ない一大争点となっていることは確かである。なぜなら自民や民主は、それぞれの政権公約あるいはマニフェストで憲法の改定を掲げており、またその任期を考えると今総選挙で再編成される衆議院が憲法改悪への道筋を具体的に決定することになる危険性が高いからである。自民が勝てばもちろん、民主が勝ってもやはり、改憲の段取りが進む危険が高まる。自民、民主の間では憲法改定が共通項であるため、争点にならないだけとも言える。
 自民党は、九月の総裁選挙で「〇五年十一月の自民党結成五十周年までに改憲案をまとめる」ことを小泉が掲げたことを受け、総選挙では政権公約として「新しい憲法草案をつくる」と公然と打ち出し、「〇五年に憲法草案をまとめ、国民的議論を展開する。憲法改正の手続きを定める改正国会法、憲法改正国民投票法を成立させる」としている。
 民主党は、政権政策(マニフェスト)の要旨に当たる民主党ビジョンにおいて、次のように改憲姿勢を打ち出している。
 「『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』という憲法の三つの基本理念を踏まえつつ、基本的人権の多様化、国際協調の必要性といった時代の要請にも即した憲法論議を積極的にすすめます。憲法を『不磨の大典』とすることなく、またその時々に都合のよい憲法解釈を編み出すのではなく、憲法が国民と国の基本的規範であることをしっかりと踏まえ、国民的な憲法論議を起こし、国民合意のもとで『論憲』から『創憲』へと発展させます。」
 しかし民主党は、政策を具体的に述べるマニフェスト本文のほうでは、憲法問題について触れていない。改憲の手順や内容を具体的に述べるには、依然党内の意見の相違が大きいからであろう。しかし、政権政策として「護憲」を否定し「創憲」を明確にするという意思一致が行なわれたことは重大である。民主党内の心有る諸氏よ、本当にそれでよいのか。そのような「創憲」論で自民党政治に取って代わる内容になりうるのか。
 民主党マニフェストの「創憲」論のポイントはどこにあるのだろうか。憲法三原則に触れているが、そのようなことは自民党の改憲論でも常に口にしていることである。そのポイントは「国際協調」と「解釈改憲反対」にある。つまり、「国際協調の必要性といった時代の要請」が自衛隊の運用にも問われているのだから、これまでの諸政権のように自衛隊を「都合のよい憲法解釈」つまり解釈改憲でごまかすのではなく、憲法第九条の改定に踏み出すべきだとするものである。これは自民党などの改憲論の一つの基調、一国平和主義ではだめだ、アメリカと一緒に国際貢献を、それに自衛隊を活用できるように、という第九条改憲論と何ら変わらない。
 民主党の憲法問題での態度は、現在のイラク問題での態度と表裏一体である。民主党は、イラク特別措置法による自衛隊イラク派兵には反対しているが、民主党マニフェストでは、「イラク国民による政府が樹立され、その要請に基づいて安保理決議がされた場合には、わが国の主体的判断にもとづいて憲法の範囲内でPKO、PKFの派遣基準を緩和し、自衛隊の活用も含めた支援にとりくみます。」としている。つまり、自衛隊イラク派兵が法的に「国際協調」といえる状態が生まれれば、武力行使ができる形での派兵も検討するとしているのである。
 言うまでもなく、憲法の前文と第九条の平和主義を活かした国際協調、国際貢献はいくらでもできる。歴代政権が意識的にそれをやってこなかっただけの話である。しかし民主党や自民党はそう考えない。かれらに共通しているのは、アメリカを中心としたグローバル資本主義の世界支配秩序の維持に貢献するという特定の党派的立場を「国際協調」だと言いくるめることである。民主党は課題によっては対米関係での独自性を示そうとしているが、日米同盟の堅持においては自民党に劣るところはない。まさに日本支配階級の二大分派というべきである。
 ともかく自民党と最大野党が、総選挙で改憲を打ち出したことによって、改憲勢力のスケジュールが加速されようとしている。
 衆院憲法調査会(自民党・中山太郎会長)は、〇五年一月までの調査期間をまたず、来年〇四年の通常国会には「最終報告」を提出しようとしている。
 自民党は、七月に自民党憲法調査会が「自衛軍」「集団的自衛権行使」を明記する改憲要綱をまとめている。総選挙の結果によっては、憲法調査会と自民党での改憲日程は速められるかもしれない。
 今総選挙では、政権を争うマニフェスト選挙、という保守二大政党制に労働者人民を誘導する一種の謀略が大がかりに進められている。この結果、総選挙で自民・民主の合計議席が増大し、社民党や日共などが減少する結果となれば、改憲派の国会占拠率はさらに著しくなってしまう。この衆議院に「最終報告」が出されると、つぎは改憲国民投票法案の提出である。その提出自体は、議員提案として来春通常国会に強行される危険がある。
 来年から再来年は、この改憲の手続き法案で決定的闘いとなるだろう。この際、民主党の「創憲」論はもちろん、公明党の「加憲」論をはじめ第九条以外なら改憲も検討すべきという立場は、政治実践的にはまったく有害無益である。そういう立場は、改憲国民投票法案に反対できない立場であるからだ。
 総選挙結果がどうなるにせよ、憲法改悪阻止の闘いは重大段階に入りつつある。改憲阻止の共同戦線を、勝つことのできるものとして具体的に進めていく段階に入った。当面の改憲国民投票法案を許さない段階では、改憲容認勢力に分岐を生じさせる政治力も問われるだろう。最終的には、国民投票で勝利できるものとしての、全国民的規模の広範な共同戦線を持たなければならない。当然ながら、こうした共同戦線は、現在の総選挙で社民党や新左翼が言う「第三極」とは次元が異なるものであり、はるかに広範なものでなければ改憲阻止に勝つことはできない。
 憲法改悪阻止の闘いは、待ったなしの段階にはいった。(A)