総選挙を通じた政治再編の本質つかみ
 左翼勢力の連携と前進へ

 一九九三年の細川・非自民政権発足を契機に動き出した支配階級の政治再編は、今秋の自民党総裁選、民主・自由合同、総選挙とを通して、ようやく大まかな区切りが付けられようとしている。われわれは、この政治再編の本質を、共産主義運動の現代的再構築との関連においてできるだけ適確に把握しなければならない。敵を知り己を知れば百戦するも危うからず、ということである。

 自民・民主二大政党化の歴史的背景

 わが国支配階級内のこの十年の政治再編をめぐる葛藤は、国際環境と社会=経済構造の大転換に連動し突き動かされたものであった。すなわちそれまでの自動車産業をはじめとする耐久消費財産業に牽引された経済、それを支える大規模公共事業をはじめとしたケインズ主義的な財政出動や金融システム、それらの上に立つ既存の利益誘導型統治システム、またこうした構造の発達を可能にした冷戦期の米帝の世界戦略が、全体として生命力を失い、九〇年代初め以降転換過程に投げ込まれたのだった。
 既存の利益誘導型統治システムは、その発達とともに増殖した内的腐敗によって、政治的信頼を全く喪失した。既存の利益誘導型統治システムは、冷戦終焉後の米帝一極支配下でのグローバルな市場再分割競争の仕組みの下では、全く無力であることを露呈した。既存の利益誘導型統治システムは、米金融独占資本(および日本の金融独占資本)の多国籍展開にとって、また同時に耐久消費財産業的、ケインズ主義的な経済=社会構造からの転換にとって、直接に桎梏となった。
 こうした事態を背景に、「改革派」が台頭し、「守旧派」「抵抗勢力」が巻き返しを図る構図の中で紆余曲折を経ながら、日帝・支配階級は、米帝の世界戦略への軍事的貢献にのめりこみ、新自由主義的改革を推し進めてきた。
 米帝がブッシュ政権の誕生と「9・11」を契機に、アフガン、イラクへと侵略戦争を発動・拡大しはじめ、米帝の対日要求が一段と強まるや、小泉政権は米帝への忠誠を表明し、米帝の強力な後ろ盾をテコに「改革」を加速させ、「守旧派」「抵抗勢力」の力を削ぎ、「改革派」のヘゲモニーを確立したのだった。それは、九月二十日の自民党総裁選における「抵抗勢力」の分断、「小泉・青木連合」の形成、小泉の圧勝によって明らかとなった。
 だが米帝が自己の世界覇権を打ち固め、新たな市場再分割の仕方を実践したアフガン、イラクへの侵略戦争は、その国と地域の新秩序をもたらすのではなく、無秩序化をもたらすということが明確になってきた。また米帝が強制力をもって先導するあからさまな新自由主義的改革は、産業が成熟し人間の自由な発展を目的とする社会活動の拡大がますます求められる基盤の上では、一方にますます狭まる搾取領域をめぐる資本間競争の過激化と投機資本の肥大化という事態を、他方に資本主義的仕方で生存の保障される道を閉ざされた労働者の増大と資本主義に代わるもう一つの社会存立の在り方を模索する事態を生じさせてきている。 こうしたことから、米帝の世界覇権と新自由主義路線を基本的に受け入れつつも、米帝と一定の距離をおいて東アジア経済圏の形成を模索し、生存の危機から発する社会革命の萌芽を一定支持し体制の内に包摂するというもう一つの路線が政治的に形成され浮上してきている。この潮流は、主として民主党内において形を成し、民主党と自由党の合併で、政治的飛躍を期している。
 十一月に予想される総選挙は、小泉自民党が勝つにせよ、菅民主党が勝つにせよ、支配階級の側のこの十年の政治再編に区切りをつけるための一大イベントとして準備されてきているのである。

 支配階級の二つの路線への分岐

今回の総選挙の影の主役は、十月十七日に急遽来日することになったブッシュである。

ブッシュは、イラクを瞬く間に占領したが、いまやイラク人民のゲリラ戦の泥沼にはまり、アフガンと同様に抜き差しならない状態に陥っている。ブッシュは、イラクで米占領軍が毎日二十件をこえる攻撃にさらされ、二日に一人の割りで戦死を余儀なくされている中で、イラク・アフガンの追加戦費・復興費用として八七〇億ドル(約一〇兆円強)の予算を議会に要求。予算外で諸国に分担させるイラク復興費用を四〇〇億ドル(約四兆五千億円、04年から07年までの四年間分)と見積もる。米国ではブッシュの支持率が急落し、イラク戦争は誤りだったとする声が世論調査で過半数を超えた。ブッシュは、帝国主義諸国に兵と金の拠出を求めているが、開戦以来の「単独行動主義」が仇となってハードルが高い。
そこでブッシュが訪日することになった訳である。かなりの数の兵と金を強要する算段なのである。今回の総選挙は、米帝・ブッシュのこの要求に対する態度が最大の争点になるといって過言ではないだろう。
アジアに対する抑圧的スタンスを強め、米帝に忠実であることを路線とする小泉政権は、それを全面的にのむ以外ない。自衛隊が、イラク人民の反占領闘争の制圧に手を染めることになる。それは自衛隊が、朝鮮侵略戦争を射程に入れた米軍指揮下の外征軍となり、全世界諸国人民の反米反帝闘争に包囲されていく歴史的な一歩を意味する。今回の一兆円を超えるといわれる復興費分担も、七百兆円の累積赤字に喘ぐ国家財政を戦費拡大で破綻の淵に転落させていくこれまた歴史的一歩となるだろう。破滅への道である。
わが国の支配階級は、対米追随一辺倒路線の先に破滅を予感し、動揺を深めている。この危機感の高まりと動揺が、今回の総選挙において支配階級が、「一定」の政治選択の幅を確保せんと二大政党制の確立へまい進している根拠なのである。民主党は、対米追随一辺倒でない、だが支配階級(金融独占資本)の利益にも合致した、可能なもう一つの道―米帝・国際協調重視派との結合、歴史問題の決着による韓国・朝鮮、中国との関係改善を不可欠の条件とする東アジア連合の実現―に向かって一歩でも踏み出すことができるのか、正念場である。
九月二十日の自民党総裁選に圧勝した小泉は、総選挙向けの党役員人事と内閣改造をおこなった。党は、幹事長に安倍を据えて、右傾的世論動向を一層積極的に取り込み、合わせて利益誘導型政治との連合構造を覆い隠す。内閣は、竹中経済財政・金融相を留任させるなど新自由主義的な改革路線の継続を、また福田官房長官、石破防衛庁長官、川口外相を留任させ米帝・ブッシュへの追随路線の継続を明確にした。
これに対して民主党は、九月十八日、政権獲得後に必ず実現できるとするマニフェスト案を発表した。主な内容は、日米地位協定改定、失業率の4%前半への引き下げ、公共事業九千億円削減、中小企業への貸し渋り・貸しはがしの解消、補助金十八兆円の廃止・所得税五・五兆円の住民税化・一括交付金を十二兆円、基礎年金国庫負担率2分の1、高速道路原則無料化、民間事業規制撤廃法案などである。つまり、米系資本をふくめた資本の自由競争に社会の未来をひたすら託す小泉改革に対して、一方で新自由主義の基調を同じくしつつも、他方でそれが引き起こしている地方の活力、中小企業の活力、民衆の活力の破壊、総じて社会の崩壊に危機意識を持ち、それらの活力を支援する対策をもとるというものである。悪く言えばマッチ・ポンプ路線であるが、政権を取れば一時的にせよ社会的包摂力を高めるに違いない。
 支配階級の必死の政治再編の波に直撃され、苦境に立たされているのが、日本共産党と社民党とである。
  日本共産党は、六月の七中総で綱領改定案を、九月の八中総で当面の情勢分析と任務に関する大会決議案を採択し、十一月に第二十三回大会の開催を予定している。綱領改定案は、その最大のテーマを「民主主義革命論の仕上げ」(大会決議案)に置き、「天皇制」と「自衛隊」を容認する態度、ヨーロッパ諸国を手本に「ルールある」資本主義を実現する態度を表明し、「異常な対米従属」からの脱却を目指す態度を押し出している。その政治的意図は、日本帝国主義ブルジョアジーの自民党的でないもう一つの路線を開こうとしている民主党に、共同できる勢力として受け入れてもらうことにある。だがこうした「仕上げ」は、官僚制国家資本主義を目標とするの綱領・組織路線を依然引きずる中では、衰退を押し止めることはできないだろう。
社民党は、ひたすら「平和憲法を守る」と主張し続けることに自己の存在価値を求め、右からの嵐に守勢一辺倒で身を固くしている状態にある。この夏には、辻本逮捕・土井叩き、民主党への吸収工作といったあからさまな政治攻勢に晒され、風前の灯となった。十一月の総選挙に臨み、新社会党と平和憲法擁護での協力協定を結んだが、政治的インパクトは皆無と言ってよい。
 支配階級は、今回の総選挙において、ブルジョア社会が行き詰まる一時代の政党配置を整えようとしている。ここにおいて問われているのは労働者階級の側である。

 左翼の戦略と総選挙での態度

 共産主義運動は、この間、自己に染み付いた官僚主義的な古い体質を克服し、新自由主義と闘いながらもう一つの社会の在り方を求めて叢生しはじめた社会革命の萌芽と結合することに努めてきた。それは、共産主義運動(自己)の歴史を総括する作業であり、社会の画時代的な変化を理論的に捉える作業であり、総じて、教条主義を克服しマルクス・レーニン主義の現代的発展を戦い取る作業であった。だが、いまやわれわれは、転換したスタンスからであるが、再び政治戦略に主要な関心を移行させていかねばならない時を迎えているのである。
 そこでは、次の二つの課題がポイントになる。
 第一の課題は、米帝と対米追随一辺倒・あからさまな新自由主義推進勢力がつくりだしている世界各地への侵略の拡大、排外主義の扇動、弱肉強食経済、社会の崩壊、環境破壊という状況を、共同できる全ての人々と共同して打破することである。そこではわれわれは、支配階級が対米一辺倒路線の政治経済的負担の大きさと社会存続の危険の増大とに動揺を深め、内部矛盾を激化させる事態を捉え、これを利用できる政治的柔軟性を持つ必要があるだろう。
 第二の課題は、上記の広範な共同を前進させ新しい社会を模索する労働者人民の多様な運動との結合を深める中で、広い意味での左翼の連携・協力を組織し、同時に現代的共産主義潮流の団結・統合を独自に発展させ、それらの政治的浮上を戦い取ることである。そこでは、主として「ヨーロッパ社民」、「第三の道」の日本版潮流との路線論争が問われることになるだろう
 われわれは、共産主義運動の分散と混迷の打破を目指してきた。しかし共産主義運動は、単純に、自己の分散と混迷を克服するだけで再建できるとするには、全体としてあまりに大きな後退を強いられてしまっている。その建て直しのためには、われわれは、基盤をなす社会の変化を捉え、労働者人民と結合し直すところから出発し、支配階級の二大分派の矛盾を利用してどん底から這い上がり、一大革命勢力を浮上させる道に踏み出さねばならない。
 われわれの今秋総選挙に対する態度も、こうした戦略の内に位置づけて定める必要がある。与党三党(自・公・新保)の候補を落選させること。民主党については、この党が支配階級の二大政党の一つとして暴露しつつ、しかし候補によっては投票もあり得ること。それ以外の諸野党に対しては、課題に応じ、また連携の必要に応じて投票が行われるべきこと。そしてイラク派兵への態度を最重要の基準として投票行動を呼びかけること、などである。
 一歩一歩着実に革命の大道を切り開こう。