自治労大会
  自治労新綱領案「21世紀宣言」を否決
    野合と腐敗に帰した現代的社民路線

 自治労「二十一世紀宣言」が、八月二六〜二九日の横浜市での自治労大会にて提案されたが、賛成は採択に必要な三分の二に僅かに満たず否決された。
 現在の綱領は米ソ冷戦体制時代に作られたものであり、ベルリンの壁の崩壊、五五年体制の終焉、そして総評労働運動から連合労働運動に変遷した現在、従来の綱領に代わる新たな綱領的文書に位置づけるとしていたものである。実はこの宣言は二年前の大会で提案され、去年の大会で採択される予定であったが、二年前の大会直後にいわゆる不祥事が発覚し、昨年の大会での採択が延期されたものである。この措置に現れているように、宣言と不祥事とは表裏の関係でもあったのだ。
 日共と決別し、連合に合流後、ベルリンの壁の崩壊や自民党の分裂、そして細川政権が生まれこともあって、自治労としては初めて政権に関与する味を覚えた。地方自治は一貫して国家官僚に牛耳られていたわけであるが、政権に関与つまり与党として官僚に直接接触できるようになったことは自治労に大きな変化をもたらした。
 これまでの「地方自治を守れ」「地方公務員の権利を守れ」のような抵抗的受身から、積極的に国政に関与することによって、地方分権を推進し、労働者・住民のための政策も推進できると踏んだのである。このことは、自治労主流の一翼を形成していた社会主義協会向坂派の本工主義による旧来の階級闘争路線ではやっていけないということで、代替のイデオロギーとして採用したばかりの西欧型の社会民主主義路線への一層の傾斜ををもたらした。西欧の社民勢力は女性差別、民族差別そして環境問題に取り組んでいたので、かつての反戦青年委員会・全共闘運動を担った活動家たちも、新左翼が低迷するなか、日共や向坂派との対抗上、この路線に急速に傾斜していった。
 この路線の採用は、公共部門の労働者が委託や民営化で差別分断化されている現実に着眼する一方、公共部門を正規公務員のみで担い拡大するという従来の福祉国家路線が、財政的行き詰まりによって「小さな政府」の新保守主義に敗北した経緯から、民間も参入したところの公共サービスの拡充という路線を展望することになり、従来の本工主義に代わって民間労働者を含めた「地域公共サービス産別」を目指すという転換をもたらした。
 しかしこの社会民主主義路線は、その路線が本質的に内包している弱点でもあるが、基本政策で妥協し、数合わせしてでも政権に残るという墓穴を自ら掘ってしまった。連立政権が分裂したとき、「天下三分の計」を目指す好機であったにもかかわらず、自治労は自民党と結託し、村山政権を誕生させてしまったのである。
 村山政権下、自治労の官僚との接触はいっそう緊密なものとなり、厚生官僚と連携して、社会民主主義政策の具現化とばかりに年金税導入による国民皆年金制や介護保険の新設に精力を注ぐようになる。
 だが、自民党との結託は大衆の不評をかっただけで、社会党は選挙で敗北。新進党が結成されたことにより、自治労は新しい第三勢力の形成に力を注ぐことになり、民主党の結成に奔走する。
 その後の民主党の形成過程をみればわかるように、新しい第三勢力の形成といいながら、実態は国会議員の寄せ集めの多数派工作による二大政党の形成に他ならず、裏で大きな資金が動いたのは間違いない。これがいわゆる不祥事の裏金や使途不明金の実態なのである。
 「二十一世紀宣言」は現代的な社会民主主義路線を明文化しようとしたものといえるが、その路線の行き着く先は不祥事だったわけである。つまり社会民主主義路線でいくといいながら、実態は野合してでも政権に関与することが自己目的化し、そのためには基本政策で妥協したり、裏金を必要とするような弱点をさらけ出してしまったのである。このような背景をもつ宣言が否決されたことは当然といえよう。
 なお宣言には「公務・民間の公共サービス労働組合が対等の立場で参加する新しい質の産別組織の形成を展望する」ことがうたわれており、不祥事に至った路線に危惧しながらも、この積極面に期待し、賛成に投じた代議員も多いだろう。現に民間の介護労働者が一人でも加入できる地域福祉ユニオンの建設や、同一価値労働同一賃金の運動が構築されつつある。臨時・嘱託労働者や委託の民間労働者の組織化を進めるとともに、新たに加わった仲間が自治労の中軸を担っていくことが求められており、このことこそが幹部の腐敗を許さず、自治労運動の、いや日本の労働運動の変革をもたらして行くことになるだろう。(自治労M通信員)