年功型賃金体系から成果主義賃金へ
  対抗軸は社会的規制ある仕事給

 日本のこれまでのの雇用・賃金制度は90年代中頃から、大きく改編されてきている。94〜95年に、財界諸団体や政府機関からは、「日本的雇用慣行」の見直しが相次いで提案される。それらの大方の基本方向は、国際競争力の強化のためと称して、長期雇用の中核的労働者を縮小し、有期雇用の非正規労働者を拡大しながら、「人件費の圧縮、労働力の効率的利用」などを目的としたものである。政府の労働基準法、労働者派遣法、職業安定法など労働法制の全般的改悪は、この基本方向を実現させるための攻撃の一環である。
 悪辣な資本家たちは、一方で失業者や非正規労働者を増大させ、社会的な不安をかきたてながら、他方では、その不安を利用しながら、残った労働者の賃金カットや、サービス残業(不払い残業)の強制など不法・不当な攻撃を、臆面もなくかけてきている。
 経済危機に陥ると、労働者を首切りし、失業者の増大を背景に就業労働者の賃金・労働条件をも悪化させるのは、資本主義の常套手段である。だが、たとえ口先ではあれ唱えていた完全雇用政策をかなぐりすてて、しかも失業者を増大させるだけでなく、首切りした正規労働者の代わりに、その全てではないが一部分を非正規労働者に置き換えるのは、新自由主義の下での新らたな傾向である。
 このことは、あらたな賃金政策とも密接な関係をもっている。つまり、年功型賃金は、終身雇用ないしは長期雇用が前提にあるからである。短期雇用の非正規労働者が増大する時代には、年功型賃金は、成立基盤を失うのである。それに弱肉強食の新自由主義は、従来以上に内外の資本間競争を激化させ、そのような状況下での年功型賃金体系(属人給)は、ブルジョア的観点からもますます不合理とならざるをえない。
 昨年5月、日本経団連は、「成果主義時代の賃金システムのあり方─多立型賃金体系に向けて」を提案した。それはグローバル資本主義の不安定な時代に、従来の賃金制度が国際競争力の足かせになっているとして、 「硬直的な人件費管理」は、「業績即応型の人件費管理」へ、 「高止まりの賃金水準」は、「適正な賃金水準」へ、 「年功型賃金システム」は、「成果・貢献度反映型の人事賃金システム」へ、 「一律賃金管理」は、「多立型賃金管理」へ転換させるとしている。
 報告は、年齢・勤続給に代表される年功型賃金について、従業員には安心感を与える一方、賃金原資の柔軟な配分にとっては問題があると指摘する。そして、個人の成果や貢献度に応じて決まる賃金項目を賃金体系の中心に据えるべきだと主張している。成果や貢献度を反映できる賃金項目としては、「職能給」、「職務給」、「役割給」、「成果(業績)給」などを明示している。報告は、定期昇給制度の見直しも主張し、成果や業績の評価に応じて、昇給も降給も有り得る「定期昇降給制度」を提起している。成果主義の賃金制度の一つのモデルとして、報告は、職務や役割、階層などを指標として賃金処遇を複数設定する「多立型賃金体系」への転換を提起している。
 「多立型賃金体系」は、賃金をなお一層、個別労働者に分断し、労働者階級の一層の格差・分断をはかるものである。これは、未だ企業内労組の否定を明言してはいないが、従来よりもはるかに、労働者を分断し、互いに競争させ、資本のもとに隷属させる方策である。
 現実に、年功型賃金体系から成果主義の賃金形態への転換は、とりわけ大企業では進展している。7月28日付『朝日新聞』によると、主要企業(大企業がほとんど)100社のアンケートは、このことをよく示している。図によると、管理職では、73%がすでに「完全な成果型」に移行し、「基本は成果型で部分的に年功型」も23%である。これに対し、「完全な年功型」は0%、「基本は年功型で部分的に成果型」もわずか4%でしかない。非管理職の場合は、「完全な成果型」が20%、「基本は成果型で部分的に年功型」が54%である。これに対して、「基本は年功型で部分的に成果型」が25%に減り、「完全な年功型」に至っては、わずか1%でしかない。大企業がこのような状況であり、それに加え、年功型でありえない非正規労働者が労働者全体の約三割という状況などをふまえると、年功型賃金体系はすでに崩壊状況にあるといえるであろう。
にもかかわらず、連合は依然として年功型賃金体系に固執し、「賃金カーブ維持」という方針をとっている。これこそ歴史の博物館に入るべき反動的方針である。何故ならば、年功型賃金体系は、女性差別賃金、企業主義を前提とし、労働者階級を分断するものだからである。先進的労働者は、企業の枠にとらわれない個人加入制の労組を建設し、仕事給一般ではなく、労組の規制や社会的規制をもった公正な仕事給こそを追求すべきである(社会保障の拡充や世帯単位主義の変革と共に)。(T)