「共謀罪」新設
  刑法・組織犯罪対策法案の反対運動拡大へ
   「相談」しただけで犯罪化

 「共謀罪」等を新設する法改正案は、今国会では審議入りすることができず、秋の臨時国会へ継続となった。衆議院解散という局面となれば、これは一旦廃案となる。
 しかし、この法改正案は、国連・越境組織犯罪防止条約の批准(今国会で強行された)に対応する国内法整備とされているため、政府・法務省が「共謀罪」新設を引き続き追求してくることに変わりはない。このかん日本弁護士連合会や市民運動などで反対運動が続けられてきたが、マスメディアの反応を含め反対の世論が広範になっているとは到底いえない。臨時国会へ向け、すべての労働者・市民と民主主義の根本に関わる問題として反対運動を拡大していく必要がある。
 この法案(犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部改正案)は、刑法の一部改正と、一九九九年に反対運動を押し切って制定された組織犯罪対策法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の一部改正などによって成り立っている。
 焦点となっている「共謀罪」は、組織犯罪対策法一部改正に盛り込まれており、四年以上の刑を定める犯罪(約五六〇という広範な罪)に当たる行為で、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行を共謀した者」を五年以下あるいは二年以下の刑に処す、「ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を軽減し、又は免除する」とするものである。
 問題の中心は、法案で言う「共謀」が、判例でいう「共謀共同正犯」とまったく異なっており、共犯の成立時点が著しく早期化され、また共犯の範囲がとんでもなく拡大されるという点にある。
 現行の刑法では、犯罪がすでに行なわれている(既遂)、あるいは犯罪実行の着手が行なわれている(未遂)ときに初めて、共犯者の範囲が問われることとなる。また未遂以前の予備罪が問われるのは、殺人など重大犯罪に限られている。しかし、法案での「共謀」は、具体的な犯行準備(予備)の以前の段階の「犯罪の合意」だけで犯罪が成立する、そこに「団体性」「組織性」があれば共謀罪だというものである。反対運動から、これは「相談罪」だと批判されている所以である。
 「共謀罪」新設は、刑法等の一部改正案となっているが、刑法・刑事訴訟法体系を全面的に変えてしまう性格をもっている。犯罪事実があっての罪刑法定主義である。それが、あの団体で何か危ないことが話し合われたようだ、それだけでその団体の参加者は「共謀罪」容疑者であるということになってしまう。予防検束、保安処分そのものである。
 そして政府は、越境組織犯罪条約への対応と称しているが、日本の国内法としての法案ではそれ以上の悪法となっている。条約は、適用範囲として第三条で「性質上国際的(越境的)なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記し、後者を明確にするため第一条で「直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得るため」との限定を入れている。しかし、日本の法案ではそうした限定の文言がない。マフィア・暴力団も、政治的・社会的・宗教的団体も区別がなくなっている。また、その限定が入っても、いぜん組織犯罪対策法と「共謀罪」が労働組合の正当な活動に適用される危険は残る。
 そもそも組織犯罪対策法は、「組織犯罪集団」に限定したものではなく、「組織的な犯罪」一般を対象としていると言わざるをえない悪法であり、これに「共謀罪」が付け加えられると非常に危険である。
 米国の9・11事件以降、世界的に予防弾圧法、治安監視法、その国際条約化の流れが強まっている。越境組織犯罪条約は〇〇年十一月の国連総会採択であり9・11事件の前であるが、米政府が迅速な成立のためにカネを出してきた経緯もある。この条約作りの発端はイタリア・マフィア対策であったが、いわゆる「対テロ」国際共同の一環として機能させられていくことになるだろう。条約が、組織犯罪集団についての「参加罪」あるいは「共謀罪」を、批准国の国内法に要求していることは、各国の民主主義を脅かすものであり、日本では日本国憲法が保障する基本的人権を脅かすものである。
 法曹界の法案反対論では、条約での適用限定を法案に明記させることが最低必要だという主張もあるが、市民運動としては越境組織犯罪条約そのものから反対する態度が必要になるだろう。
 若干の時間的余裕は生じた。「共謀罪」新設反対の運動を大きく発展させよう。(W)