医療観察法
  法案成立許した問題点と今後の課題
   保安処分病棟の阻止を

 六月三日、参議院法務委員会は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療および観察等に関する法律案(修正案)」の抜き打ち強行採決を行った。そして、六月六日、参議院本会議で採決され、衆議院に再送付され、事務的な修正を加えたうえで、七月十日ついに法律として成立してしまった。
 この法律の参議院での審議は、衆議院で出された自民党議員による修正案のいう「医療と社会復帰のため」というまやかしの美辞麗句に野党が終始おされたかっこうになり、追及も今ひとつパッとしないものであった。ただ、日精協(日本精神病院協会)が、この法案を通すために、木村厚生労働副大臣をはじめとする、与党の面々に多額の献金をしていたという「疑惑」が問題になり、野党の追及もあったが、結局逃げ切った形になった。
 この法案は繰り返しになるが、「心神喪失状態で重大な犯罪を犯した精神病者」がふたたび同様の犯罪を犯すのを防ぐという名目で、精神病者を不定期に予防拘禁するものであり、犯罪そのものを裁くのではなく、犯罪を犯すおそれを裁くというものである。
 精神病者に対しこのような法律をつくるのは、いうまでもなく「何をしでかすかわからない」という偏見と差別にもとづくものであり、断じて許しがたいものである。
 いままでにも刑法の改悪というかたちで保安処分を導入しようという動きがあったが、そのたびに粉砕されてきた。今回の「医療観察法」についても、一年以上にわたる国会での攻防があったとはいえ、あまりにも明白な精神障害者差別法が通ってしまったのは、小泉政権の反動性もさることながら、それに反対する側の当事者、医療従事者、弁護士、そして労働者の反撃の戦線が分断され、大きなうねりにならなかったという問題を指摘せざるをえない。それは、国会前での活発な情宣活動、マスコミを利用した宣伝などの活動が行われたという事実をもってしても、なお言えることである。
 病者中心、という原則は、どの団体でも不十分にしか行われなかった。地域の闘いという基盤は、一部をのぞき、きわめて弱いものであった。
 一方、議会政党はというと、民主党は対案を出す、という形で闘おうとしたが、対案の根本にある考え方は、多発する精神病者の犯罪を防止する、という社会を精神病者から守る思想、すなわち社会防衛思想にもとづいており、それゆえ与党案との合体も可能、などと、みすかされてしまうものだったのである。共産党にいたっては、当初、「再犯の予測は可能」などと、法案推進の立場を表明してしまい、ひんしゅくをかった。
 このようななかで、法案は成立してしまったわけであるが、反保安処分の闘いはけっしてこれで終わったわけではない。精神病者を閉じこめる施設がなければ法律は効力をもたない。こんごの闘いのカナメは、保安処分病棟を自分たちの地域に建てさせない闘いである。
 政府はすでに保安処分施設の建設のために初年度三十五億円を計上している。そして、長期的には全国に数十箇所の施設の建設が予定されている。初年度の建設地は、国立武蔵病院と肥前病院が筆頭とされている。
 これらの病院での病棟を建てさせない闘いが、早くも日程に上ってきているわけである。地域に保安処分病棟を建てさせない闘いは、「地域にこんな物騒なものを建てられてはこまる」という右からの反対とのせめぎあいとなるだろう。そこで、病者と健常者がどのようにともに生きていくのかが問われることになるだろう。(A)