日本共産党の「綱領」全面改定案
  世界情勢論でも重大問題

 六月下旬の日本共産党の第七回中央委員会総会で、来たる十一月二十二日からの党大会に提案する綱領改定案が決定された。
 日共の現綱領は、一九六一年に決定されて以降何回も部分改定されているが、今回は大幅な改定であり、基本路線がまるで変わったとは言えないが新綱領案と言っても言い過ぎではないと思われるので、わが党の同志諸氏も一度は目を通して、自分の頭で分析・批判しておく必要があるだろう。
 この綱領案は、近年一段と強まった日共の「現実」路線、当面は自衛隊を解体しない、それを活用する場合もあるとか、天皇制は憲法に規定があるので容認しますとかの政策変化を反映させたものとなっているが、骨格的にはどういう改定なのだろうか。
 七中総での不破議長の説明によると、第一に「民主主義革命論を現実的・合理的なものに仕上げた」、第二に「未来社会の展望を創造的に開拓し」「社会主義・共産主義を二段階とする『定説』を大胆に乗り越えた」、第三に「二十一世紀を見通した世界情勢論を展開した」ものとされている。
 第一の点では、「現在、日本社会が必要としている変革は、社会主義革命ではなく」、対米従属と財界支配を打破する「民主主義的な改革の実現を内容とする民主主義革命である」とし、「それらは、資本主義の枠内で可能な民主的改革であるが」、やはり「革命」と呼びたい、なぜなら民主連合政府に「国の権力を移すことによってこそ、その本格的実現に進むことができる」からだ、という論理になっている。
 何事も資本主義の枠内でやります、現在「国民の合意」がない以上、社会主義的変革は絶対やりません、という受動的な態度が強まっている。労働者階級に何を働きかけるのか、何のための「科学的社会主義」の党なのだろうか。また、民族民主統一戦線、それを基礎とした革命の政府、というこれまでの規定が削除され、綱領では記述がなかった民主連合政府がいわば格上げとなって登場している。これらによって、民主主義革命から社会主義革命への成長・転化という伝統的な路線が曖昧になり、「二段階革命論」すら後退したと言えるだろう。
 第二の点では、「社会主義・共産主義の社会」という新概念が提起されている。このことの政治的意味はどこにあるのか。筆者には、社会主義建設におけるプロレタリアート独裁あるいは執権をめぐる長年の論議での、一つの決着の付け方のように思われる。革命的な過渡期は必要ない、とすることが真意ではなかろうか。
 第三の点は、当面の戦争と平和をめぐる闘いのうえで、実践上重要な論点となっている。
「国連憲章にもとずく平和の国際秩序」が綱領規定として登場し、これが米帝の戦争政策と対置されている。現在の国際法を利用して闘いを前進させるではなく、ブルジョア国際法が絶対化されている。これでは、民主党や連合指導部と本質的には変わらない。国連とアメリカの関係しだいによっては、反戦闘争を放棄することにつながる危険もある。
 また不破議長は、提案報告で、「帝国主義」を「独占資本主義」と関連づけることに反対し、「その国の政策と行動に、侵略性が体系的に現れるときに、『帝国主義』という呼称を用いるのが適切だ」という重大発言を行なっている。帝国主義とは政策である、ブッシュが戦争政策をやめれば、アメリカも帝国主義ではなくなる、ということになってしまう。
 総じて、今回の綱領全面改定案は、マルクス主義、レーニン主義とは一層かけ離れたものになっている。もちろん我々共産主義者は教条主義者ではないから、離れるべきところは離れてもよいのである。しかし、その離れ方の中味に現実を変える革命性があるかどうかという点が問われるのである。(W)
 
日共筆坂セクハラ問題
  説明責任は果たされたか

 日本共産党の筆坂秀世・常任幹部会委員が、酒席でセクシャル・ハラスメント行為を行なったことが明らかとなって、中央委員を罷免され(六月二十三日の七中総で承認)、参議院議員も辞職したことが話題となっている。
 筆坂氏は、有事法制反対運動においては日共の政策委員長として、陸海空・港湾二十労組呼びかけの大衆闘争でも前面に出ていた人物であっただけに、彼のこの誤まりは情けなく、許し難いものがある。しかし我々左翼が取るべき態度は、反共ジャーナリズムと一緒になってここぞとばかりに日共をこきおろすことではなく、筆坂氏の誤まりと日共の対応から教訓を引き出すことにあるだろう。
 日共中央の「役職解任」という処分レベルが適切かどうかは、このセクハラ事件の詳細が分からないので判断できないが、被害女性のプライバシーを守る立場から詳細な事実経過は明らかにしないという措置はおおむね正しいと筆者は考える。
 しかし、被害女性が党外の一般的関係の人なのか、党支持者なのか、あるいは党員なのかについては、『赤旗』(6・25、6・26)での党中央の説明では明らかにされていない。被害女性がもし党員であれば、そのセクハラ行為は一般の人権侵害として問題となるだけでなく、党員と党員の関係の問題、組織の質そのものの問題としても厳しく総括されなければならない問題となる。また党支持者であっても、支持者に対する党員の態度の問題として重大である。
 『赤旗』の説明では、党外のようにも思えるが、なぜその点を明らかにしないのか。このことは、プライバシー保護のために明らかにしないという範囲には入らないと思われるが。それとも、被害女性が党員あるいは党支持者なら、党として独自に問われる問題がある、という自覚が指導部に欠けているのだろうか。
 以上の意味で、日共中央の説明責任はいぜん十分には果たされていないと考える。(A)