書評


「希望のオルタナティブ」『QUEST』別冊bP
         編・オルタフォーラムQ
         発売・白順社
         03年3月  1700円

  オルタ・フォーラムの交流を集約

 本書は、「資本主義に代わるオルタナティブ」をかかげるオルタ・フォーラムQがスタートいらい五年目に入るのを記念して刊行されたものである。
 オルタ・フォーラムは、各月刊の雑誌『QUEST』の発行を中心として活動してきたが、本書の内容はここで発表された論文を基礎として編集されている。具体的には、地球温暖化問題、日本の官僚制、日本経済分析、教育問題、労働組合の課題、改憲阻止闘争、地方自治の問題、「在日」朝鮮人・韓国人の問題、沖縄からの問題提起、フェミニズム、障害者問題、社会主義論など、幅広い分野にわたっている。
 オルタ・フォーラムの会員には、研究者、活動家、自治体議員など、さまざまな人々がいるが、できるだけ会員の意見を『QUEST』に反映したいという編集方針によるのであろうが、実践現場との関係を意識し、研究者向けの高度な専門的なものではない。この種の総合雑誌が少ない今日では、希少なものである。
 かつて丸山真男は、日本文化を特徴づけて「たこつぼ文化」といったが、諸個人が人生で交流しうる他者にはおのずと数に限りがあることを考えれば、他者を理解するにはなんらかの媒体から情報をえる以外にはない。それを意識的にしない限り、一部の人間の情報操作に知らない間に引きづられるか、釈迦の掌(たなごころ)で「唯我独尊」を唱える類いに陥ってしまうか、であろう。その意味では、総合雑誌は今日でも依然として必要とされている。あまりにも分業が発達し、その利点とともにその弊害をたえず作り出されている今日では、なおさら必要である。
 日本社会は今、世界史的にも希有なほど、少子高齢化が急速にすすみ、時を同じくして、経済・政治・軍事面での大きな転換がすすみつつある。多面的で総合的な分析は、ますます重要となっている。(H)


「200万都市が有機野菜で自給できるわけ」
                     著・吉田 太郎著
                     築地書館
                     03年  2800円

 キューバ都市農業に注目

 世界で都市農業が躍進している。キューバのみならず、ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、ペルーなどの南米、ルーマニア、アルバニア、ロシアなどの東欧、ザンビア、ケニア、エチオピア、タンザニア、モザンビークなどのアフリカ、インド、カルカッタ、上海(中国)、シンガポールなどのアジア。アメリカのサンフランシスコでは、経済的に困窮した都市のマイノイリティーが自立するために都市農業を行なっている。都市農業は世界を変えつつあるし、世界を変える展望も見出せる。
 キューバのハバナでは1989年のソ連崩壊、アメリカの経済封鎖で未曾有の経済崩壊が襲った。輸入食料不足と国内農業の瓦解で人々は平均10キロもやせ、栄養不足となった。医薬品の不足で病気になっても治療が受けられない状態になった。
 そのときハバナ市民が選択したのが、有機農業で首都を耕すという非常手段だった。国から借りた遊休地にインゲン、大根、レタスなどの野菜を植え、鶏を飼った。失業者達はゴミ捨て場を農地にし協同組合を作った。脱サラ労働者も協同組合農場を始めた。それ以後市民は町中を耕し始めた。市域の4割が農地となり、十年で有機野菜の自給を達成し3万人の雇用を生み出し、肉、穀類など住民の食料需要の30%を自給するにまで至っている。都市の中心に千七百万本の木をそなえた都市公園や都市緑化計画も進行している。
 それを可能にした社会システムは、革命後ずっと続けられてきた医療、教育の無料であり貧困者に対する配給システムの存在であるが、1989年代後半から行なわれた地方分権化の推進と省庁再編は、大きく社会経済体制を変換させた。それと自立したコミュニテイーである多くのNPOの立ち上げである。人と人の関係性、自発性そのものが経済発展を含めたメリットとなっている。
 都市での自転車交通や、原発をやめての水力、バイオ、太陽光、風力などの自然エネルギーで環境破壊が押さえられ、失業もなく、賃金格差も少なく、人種差別、ホームレスもない。これらは未来の理想社会ではないかと思う。社会主義がもっと発展し、もっと進めば都市は縮小し地方への広がり展開をしてゆくと思う(私見)。これらを成し遂げた要因は、旧ソビエト、東欧諸国に見られた特権階級がキューバに存在しないこと、現代資本主義国に見られる大量生産、大量消費、大量破棄がないことなど数え上げればきりがない。ぜひ一読を。(関西H)