イラク攻撃とクルド人問題

  戦争屋ブッシュに解決能力無し

 フセイン政権から圧迫・虐殺されてきたイラク国内のクルド民族は、アメリカがフセイン政権打倒の侵略戦争を開始したら、その戦争の受益者になるのだろうか。
 そうはならないようだ。トルコを基地とした地上戦で北部イラクは戦場となるだろう。イラク攻撃の犠牲者は、バグダット等への空爆で殺されるイラク民衆だけではない。クルド民族研究者の中川喜与志さんは、イラク攻撃で最も犠牲になるのはクルド人だと指摘している。
 二月十一日、大阪市のエルおおさかで「難民についてもっと知りたい!」市民勉強会が開かれ、アフガン調査報告と中川さんのクルド問題の講演が行なわれたが(主催は、難民支援運動グループのRAFIQ)、わたしはイラク問題はクルド民族問題が一つの重要なポイントとなると感じた。
 中川喜与志さんは、「トルコ軍がバクダットに進むことはないだろうが、北イラクを支配化に置き、そこに駐留して米軍の地上戦を支えようとしているのではないか」と危惧し、イラク・クルド「自治区」は危機に瀕していると指摘している。
 クルド民族は国家をもたない世界最大の民族と言われ、トルコ、イラク、イラン、シリアなどに住み、イラク国内には四二〇万人。これらの諸国も世界の主要国も、クルド民族の長年の民族自決権を無視し続けている。イラク攻撃で態度が分かれる関係諸国も、クルドの独立などとんでもないという点では一致しているのである。米英も、フセイン打倒のためにクルド人を利用しようとしているだけで、クルド人の自決権に確約を与えようとはしていない。現在の複雑な政治環境のなかで、イラク・クルド人の諸政党は「独立」ではなく「イラク連邦共和国」を掲げているのだが。
 クルド人の自決権に最も敵対してきたのは、クルド民族が一二〇〇万人以上住むトルコである。そのトルコは今、米軍にとって陸路からの侵略基地として欠かせない。トルコ人民は今、自国が米帝の最大の戦争基地となることに大いに反対し、戦争協力に明確に反対できない現在のイスラム政権を動揺させている。こうした情勢のなかで、トルコでは「北イラクはもともとトルコ領だ」という声が、最大の実権勢力と言うべきトルコ国軍を先頭に強められているという。キルクークなど北イラクの油田地帯は絶対クルド人には渡さない、とするものである。
 ブッシュが戦争を始めたら、一体どうなるのか。殺戮の果てに大混乱か。北イラクの帰属問題を始めとするオスマン帝国解体以降の既成体制が動揺しようとしている。その動揺自体は好いことである。しかし、戦争屋ブッシュに歴史的解決能力があるのか。彼が二月二六日に語った「戦後のイラク民主化」の展望は、きわめて手前勝手な楽観的空想でしかない。(関西H)