「保安処分」新法の衆院法務委員会強行採決を弾劾する

  病者の再決起で参院廃案へ


 多くの「精神病」者、障害者、労働者市民の反対の声をおしきり、「心神喪失者等医療観察法案」が十二月六日、野党議員の審議継続要求のこえも空しく、衆院法務委員会で強行採決された。
 当初、前回の通常国会で上程(五月)された時点で、この法案は、大略、以下のような内容であった。
 1、精神鑑定の結果、心神喪失乃至耗弱(こうじゃく)状態で重大な犯罪(ただし傷害罪まで含む)を犯した精神病者のうち、「再犯のおそれ」のあるとされる者に対し(再犯予測)
 2、裁判官、精神科医、精神保健福祉士等からなる合議体で審議し、(司法関与)
 3、審判の結果、再犯のおそれのあると見なされた者を特別病棟に拘禁する(予防拘禁)     
 4、拘禁された者は六ケ月に一回、再度審判に附されるが、ここで放免とならなければ無期限に拘禁される。(不定期拘禁)
 5、放免となった「患者」には、保護監察所が監視し、「社会復帰」を促す、
 等々であった。すなわち鑑定後の処遇への司法の関与と、不定期・予防拘禁がこの法案の骨格である。
 こうした露骨な保安処分にたいしては、「病者」大衆はもちろんのこと、国会内でさえ、猛烈な反対があり、ついに通常国会で法案通過はできず、臨時国会へと継続審議となった。 臨時国会での審議をも射程に入れ、民主党は、「病者」の犯罪防止の観点から「医療の充実」をうたう対案を作り、また日共は、司法の関与に賛成し、再犯予測可能として市民の「不安」に反動的な側から迎合した。
 これが通常国会でのおおまかな布陣だが、与党案の内容があまりにも、現実離れしているといえる程ずさんなため、また、野党の一部を抱き込む必要から、与党は会期のあいだに、新たな修正案をつくり上げた。
 この修正案では、うけ入れがたかった再犯予測などは後景にもぐらせ、「医療と社会復帰のため」というポーズを大合唱し、再犯のおそれと本来別個な精神保健福祉法の措置入院要件(さしせまった自傷他傷のおそれ)に限りなく近づけ、なんとか民主党の一部をとり込もうとした。
 国会審議は遅々としてすすまず、自由党をのぞく野党は、反対の姿勢をくずさなかったが、臨時国会の審議では、民主党議員の一部から、社会的入院(引き取り手がなく、退院ができるのに精神病院で暮らす状態)の解消等、法案通過後のプランを問題にする議員もあらわれた。また、参考人招致にあたっては、医者、精神保健福祉士、看護師などに加え、「病者」として長野英子氏(全国「精神病」者集団、山本真理が本名)が発言した。
 このような経過をへて十二月六日、衆院法務委員会の審議で、いよいよ山場をむかえた。国会内外にうわさが飛び交い、強行採決の現実性があらわになった。
 この日の審議では、民主、共産、社民とも、それぞれの立場から質疑をくり返したが、もはや再犯予測の問題などは後景にうすれ、与党はひたすら、精神科医の負担を軽くし、本人の社会復帰をうながすという、お題目をくり返すばかりで、時に空席が目立ち、定数割れで審議がストップする場面さえ見られた。
 いっぽう野党は、先述のように民主党の一部に、修正案通過を前提にするかのような議員がおり、また、予算とマンパワーが不足している、という発言あり、という状態であった。 この中でほとんど唯一といっていいのが、社民党の反撃で、それには見るべきものがあった。とくに、植田至紀議員は、坂口厚生労働大臣に、“外へ行ってすぐそばで反対行動をしている、あるいは傍聴している「病者」と一度でも話す気はないのか”とせまり、社会復帰、社会復帰といいながら、そのための具体的施策は、厚生官僚さえ何も知らないという事実をえぐり、そもそも社会が社会復帰といえる社会なのか、とさえ批判し、この法律は「稀代の悪法」としめくくる、深い内容だった。まさに院外のたたかう民衆の力がこのような発言を引き出したのである。
 こうした審議とはまったく無関係に各党にふり分けられた質問時間が消化されるや、ついに採決となり、与党の賛成多数で衆院委員会は修正案通過となってしまった。その時、傍聴席にいた「病者」を先頭とする面々は、居並ぶ衛視の制止を無視し、強行採決弾劾の声を口々に叫ぶという、すさまじい怒りのうずとなったのだった。
 修正案は十二月十日衆院本会議で採決される予定であり、会期末(十二月十三日)すれすれに、この法案はやっと衆院通過ということになる。そして参院の審議は次の国会に継続と、じつに三回、あるいはそれ以上にわたる国会へとだらだらと法案は生を続けるわけである。
 われわれは、こうした事態を弾固として弾劾するとともに、参院審議を射程に入れてもう一度、闘う陣型を再構築すべきである。あくまで「病者」自身の闘いを盛り上げ、支え、生活の場である地域からもう一度、「反保安処分」の声を上げようではないか。 (A)