米ブッシュ政権と日本反動勢力の妨害許さず

 日朝正常化の早期達成を


  九月十七日の日朝首脳会談と日朝ピョンヤン宣言以降、日朝関係をめぐる情勢はセンセーショナルに推移した。
 九月末の拉致事件日本政府調査団の訪朝とその報告、十月三日のケリー米国務副長官訪朝による米朝協議、十月十五日の拉致事件被害者五名の帰国、十六日の米政府による「先の米朝協議で北朝鮮は核開発を続けていることを認めた」との公表、二二日の「核問題等を対話で解決」とする南北閣僚級会談の合意、二五日の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による核問題と朝米関係についての態度表明、二六日メキシコでの「北朝鮮は核開発計画を撤廃せよ」とする日米韓三国共同声明、そして十月二九〜三十日、マレーシアでの日朝正常化交渉の再開であった。
 この過程で総じて明らかになっていることは、米国ブッシュ政権が、日朝正常化交渉や南北対話を基本的には容認しつつも、北朝鮮をあくまでイラクと並ぶ「悪の枢軸」として敵視し続け、米朝関係の正常化よりも北朝鮮の武装解除と体制転覆を優先し、そうした覇権的東アジア政策の内に日本と韓国を統制し続けようとしているということである。また、米国のこの政策に呼応する日本政府内外の右翼勢力が、拉致事件解決の課題をも政治的に利用し、日朝正常化交渉の進展を遅延させようとしていることである。右翼勢力の本音は、金正日政権を承認したくない、北朝鮮の現体制との国交回復に反対ということである。
 われわれ日本の労働者人民は、こうしたブッシュ政権の覇権主義と、やはりそれに追随する小泉政権を許さず、日本政府内外の反動勢力に反撃し、日朝ピョンヤン宣言の多くの肯定的要素が日朝両政府によって速やかに履行されることを要求する。また、その否定的要素である過去清算の「経済協力」方式が、植民地支配の賠償という政治的総括の方式に変えられるべきであることを主張する。われわれは、平和・平等の東アジアを求める朝鮮・韓国、東アジアの労働者人民と連帯し、日朝正常化の実現を、そうした東アジアの労働者人民の国際的連帯を促進するものとして達成するのでなければならない。

  米帝は核先制使用放棄せよ


 さて、核兵器問題・安全保障問題で先決的に問われていることは、ブッシュ政権が九四,年米朝ジュネーブ合意を遵守し、北朝鮮に対する核兵器先制使用計画を放棄し、北朝鮮圧殺政策を転換させることである。その関連で日本政府は、北朝鮮への軍事作戦の一環を成す有事法制作りを中止すべきである。
 北朝鮮外務省の十月二五日の態度表明は、「米国の重大なる核圧殺脅威に対処して、われわれが自主権と生存権を守るため、核兵器はもちろん、それ以上のものも持つことになっている」としつつ、協議による事態打開を求め、核不使用を含む不可侵条約を米国に提案している。北朝鮮が、ウラン濃縮施設を稼動させてはいないが保持しているというのは事実と思われる。
 日本では、これまでの親北姿勢とは打って変わった社民党なども含めて、「北は核開発をやめよ」と騒いでいるが、北朝鮮の自衛権にとって、米日韓の核を含む圧倒的な軍事的包囲がある以上、軍事対抗的には核兵器を開発・所持したり弾道弾ミサイル発射実験を再開したりする権利はあるのである。しかし勿論、北朝鮮がその権利を行使することは東アジアの緊張緩和にとって好ましいことではない。北朝鮮がその権利を行使せざるを得なくなることは、日朝ピョンヤン宣言にも南北非核合意にも違反することになる。つまり北朝鮮が日本や韓国との合意を遵守するためにも、まずもって米朝関係が改善されることが必要であるという関係にある。
 ブッシュ政権は、米朝ジュネーブ合意はすでに無効になったかのような態度を取っている。いっぽう北朝鮮は、ウラン濃縮施設の廃棄やミサイル発射実験の凍結を対米交渉カードとして使うと考えられるが、それが危険なカードであることに違いはない。米朝両国の瀬戸際的外交に踊らされることなく、日本と韓国には平和的東アジア新秩序を生み出していく主体性が問われている。その意味では、今後の日朝交渉において、在日・在沖米軍の問題がぜひ議題に挙げられるべきである。
 今後の日朝交渉において、拉致問題解決はどうあるべきなのか。この問題は、政治的重要性は低いが、両国の和解と人民の友好関係を前進させていくうえでは重要な問題である。
帰国した五名の家族の取り扱い等で紛糾しているが、政治的思惑が排され、被害者自身の意向が尊重されるべきである。より重要なのは、死亡したとされるケースの真相究明である。これは、北朝鮮政府がそう報告している以上、一定時間がかかると見なければならない。拉致問題の真相究明と全面解決のためにも、日朝正常化を早期に達成し、人が自由に行き来できるようにしなければならない。国交が回復しなければ、法的対処も困難である。
 また金正日国防委員長による拉致問題の公表・謝罪は、首脳会談に先立つ日朝赤十字会談での両国相互の行方不明者についての合意の延長として出てきたものであったが、日本側は、一九四五年以前の朝鮮人行方不明者の安否調査について誠実に履行しているとは言えない。日帝に身内が強制連行されたまま半世紀以上消息知れずという家族・子孫が、朝鮮半島にはいくらでもいるにもかかわらず、日本側は自らの国家犯罪の解決については口を閉ざしている。相手の国家犯罪は糾弾しても、自らの国家犯罪を曖昧にしているようでは、日本人の品性が問われる。
 最近、朝鮮人強制連行真相調査団によって、日本政府が隠し持っている強制連行被害者四十万人分の名簿が公開されたが(同時に、時価一兆五千億円近くの未払い賃金が法務局に供託されたままになっていることも発覚した)、日本政府はこうした歴史問題の解決を国民的課題とすることを徹底的に避けている。
 日朝ピョンヤン宣言では、日本が北朝鮮になぜ資金提供を行なうのかが不明確であり、これでは「誘拐犯の国になぜカネをやるのか」などの反動的宣伝を許すことになりかねない。朝鮮人強制連行などの国家犯罪の賠償として明確にしなければならず、またそのためには、朝鮮植民地支配ならびに国家総動員法体系の朝鮮半島への適用が不法・不当なものとして総括されなければならない。日朝交渉で問われている最大課題は、いぜんこの歴史問題の総括である。(W)