大量失業を強要する小泉政権の「総合対応策」

  反失業闘争の戦略的前進を

 小泉政府は、一〇月三〇日、「改革加速のための総合対応策」を決定した。その内容は、不良債権処理の加速策を基軸とし、それに伴う中小企業の倒産や失業者の激増を緩和するための方策を付加するという構成になっている。われわれにとって重要なことは、「竹中案からの大幅後退」(朝日新聞)等々といった支配階級内部のあれこれの政策論議ではなく、この対応策が日本資本主義の危機的事態を告白しているという点であり、失業情勢の飛躍的悪化が避けられないことを告白している点である。これに対するわれわれの対処は、反失業闘争を労働者階級・人民全体の課題に押し上げていく準備をしていくことでなければならない。

(1) 総合対応策と支配階級

 金融相竹中の不良債権処理加速策は、不良債権処理を銀行に任せてきたそれまでの路線から、国家の強制力をもってそれを実施する路線への転換として特徴付けられる。当初案では、いくつかの不良大銀行の国有化と経営陣の交代による強制的不良債権処理が想定されていたようである。日本発金融恐慌をなんとしてでも阻止する、という支配階級の一部の危機意識がそのバネになっていた。
 しかし当初案は、利益誘導型政治の巻き返しによって、公的資金注入―国有化への最大の仕掛けと目されていた自己資本算定ルールの厳格化方針の確定が先送りとされるなど、大幅に後退することになった。とはいえ総合対応策は、銀行に貸付け先の資産査定を厳格化させる方針が盛り込まれているなど、不良債権処理を強制する路線を保持したことから、銀行による不良債権処理と自己資本率改善の為の貸し渋り貸し剥がしとを激化させずにいないようである。みずほコーポレート銀行などは、総合対応策の決定をうけて即座に、債権一兆円(一五〇社分)を来年度中に売却すると決定、債権五兆円弱(二百五十社分)を今年度中に判断するとし、今年度に十五兆円程度貸し出し資産を圧縮すると明らかにした。倒産・失業の増大が一気に加速されようとしている。
 総合対応策には、倒産・失業の増大への対処として、「金融・産業の再生」「セーフティーネットの拡充」が付け加えられている。露骨な新自由主義的改革政治に対する利益誘導型政治の巻き返しの「成果」であるとともに、新自由主義的改革政治が願望する新産業の勃興を促進する政策としても位置付けられているものである。これらの政策は、ブルジョア・エコノミスト間ではその中途半端性による効果の限界が指摘されている訳だが、そもそも産業成熟時代を迎えて新産業の勃興を願望すること自体に無理があるという現実に突き当たらざるを得ない。産業へのそれなりに大きな投資先を見出せない以上、資本の自己増殖欲求は第三世界への資本投下だけでなく、米国と同じようにカジノ経済に向かう。石原は、東京都の財政赤字克服策としてそこに目を付けた訳である。カジノが小資産の収奪システムであることは言うまでもあるまい。
 今回の「竹中案」騒動は、日本経済ががけっぷちにあり支配階級が非常な危機意識に駆られていること、しかし角度のある対処ができないまま危機の淵に転落しようとしていることを明らかにした。政府が決定した総合対応策は、それを「総合デフレ策」と銘打とうと、倒産・失業増大の趨勢を逆転させることができないものである。

(2) 失業情勢の悪化と反失業闘争

 総務省の労働力調査による九月の完全失業率は五・四%、完全失業者数は三六五万人であった。第一生命研究所は、デフレ下で不良債権処理を加速した場合、04年度までに四万四千社が倒産、四十五万人が失業するとの試算。日本総合研究所は、竹中金融相の当初案にあった自己資本計算基準の見直しを実施した場合として、三三二万人の失業者の増加を予測して見せている。これらの増加予測を失業者の実数を過少に反映しているに過ぎない「完全失業者数」に加算しても、この二年程で失業者数が四百万人〜七百万人になる。日本発金融恐慌となれば、このレベルでは済まない。
 当然ながら労働者の反失業闘争が各地で広がりつつある。
 一つの特徴は、失業労働者の運動が勃興してきていることである。九〇年代の初めに起こった野宿労働者の運動は、いまや「ホームレス支援法」を闘い取るまでに至り、地域によってはNPOによる就労・福祉事業を発展させ、町づくりにも参加するなど、新たな飛躍の局面を迎えている。失業労働者の運動は、被解雇者仲間、失業者仲間、学生失業者などの諸層においても、自主生産、NPO、協働組合などの形態での諸事業をその内に育みつつ発展し始めている。
 反失業闘争のもう一半を成すのは、解雇反対・被解雇者の復職を要求に掲げる就業労働者の闘いである。厚生労働省の労働争議統計調査によると、この要求を掲げた争議は、一九九〇年には総争議件数の一・九%に過ぎなかったが、二〇〇一年には十七・一%にまで増大してきている。中小企業労働者層、非正規雇用層について言えば、その大半が倒産・解雇をめぐるものになっていると言ってよいだろう。就業労働者の間における運動も、運動が事業を組織し、メシの問題を解決しつつ闘いを継続できる構造を、必要に迫られる形で発展させている。
 失業問題は、いまや労働者階級の最も切実な課題に浮上し、層をこえて連帯し闘うことのできる運動基盤が着実に形成されつつあるといえるだろう。

(3) 反失業闘争の戦略問題

 資本主義の下では、社会は存続できなくなろうとしている。失業問題の深刻化は、地球環境破壊などともに、その一つの現れとしてある。われわれは、失業者の急増が切迫しているこの時、反失業闘争を戦略的に位置付け、推進していかねばならない。
 第一は、反失業闘争とわが党の方針、個人加入の新しい労働運動を日本労働運動の主流に押し上げ、労働運動を再生していく方針とを結合することである。企業別組合では原理的に、反失業闘争に有効に対処できない。失業しても組合員であり続けられ、また失業・半失業者が新たに参加できる労働組合運動を大きく前進させることである。
 第二は、「利潤」が目的の社会から「人」が目的の社会への転換を目指して、地域づくり、町づくりでの住民諸層との協力を発展させることの中に、就労領域を獲得・拡大・開拓していくことである。
 第三は、「利潤」が目的の社会から「人」が目的の社会への転換を目指して、一方における過度労働と他方における失業への労働者階級の分割を打破し、かつまた分業への隷属からの一人ひとりの労働者の自己解放を支援するシステムを獲得し、労働者階級の団結を発展させていくことである。
 第三は、闘争と事業において、「人」が目的の社会を目指して諸潮流との合作をすすめつつ、同時に新たな運動に踏み出しはしたが最後まで行く構えを持たない現代的改良主義との路線論争をおこなっていくことである。
 第四は、当面の反失業闘争が米帝に支えられた露骨な新自由主義勢力との闘いになることをしっかりおさえ、出来るだけ広範な団結を構築していくことである。そこにおいては、米帝との関係で相対的独自の「東アジア経済圏」を構想する支配階級の一定部分とリンクする改良主義勢力とも、原則を堅持しつつ共同していくことになろう。イラク侵略戦争反対、日朝国交正常化要求のたたかいと積極的に結合し、闘っていかねばならない。