道路公団問題

 市場原理万能の民営化推進委の中間報告

  人民の力でタカリ構造解体を

               堀込純一


道路関係四公団民営化推進委員会(以下、公団民営化推進委と略。)が、八月三十日、中間報告をまとめ、小泉首相に提出した(四公団とは、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)。同報告は、「料金のプール制と財投資金等の借入・償還を前提に新規路線を建設する現行公団方式は、もはや限界」であるとし、改革の目的を「約四〇兆円の債務を国民負担ができる限り少なくするようにきちんと返済してゆき、必要性の乏しい道路建設をストップし、サービスが向上し利用料金も下がっていくというような、国民全体にメリットのある」ものとしている。
 これまで、道路公団の四〇路線の高速道路のうち、償却済みはわずか五路線にすぎない。二七路線は、現在も日々、赤字を積み上げている。この現状からすれば、現行公団方式を廃止することは、当然であり、むしろ遅すぎるとも言うべきである。
 中間報告は、民営化の枠組みについては、四公団を廃止して、独立行政法人「保有・債務返済機構(仮称)」と、高速道路を運営する新会社(特殊会社)に再編成するとしている。「保有・債務返済機構」は、かつての国鉄を分割民営化したさいの方式がモデルとされたものである。国鉄債務二五兆円は、最終的に国家予算から二三・五兆円が支払われている。今度も多くが税金から返済されることは、必至である。
 そもそもこの公団民営化推進委は、昨年の閣議決定での「民営化を前提」とし、今年六月に発足したものである。したがって、道路行政における公共性の問題は、政府においてほとんど議論もなされていない。ただただ、とにかく今ある赤字を増やさないで、特殊法人を改革するという、小泉構造改革の目玉の一つとして取り組まれているものである。道路行政の公共性の問題が素通りされ、赤字減らしだけが目標とされているため、勢い市場原理を万能視して、改革論議自身が民営化問題に狭められている。
 公団民営化推進委の審議では、はじめ一〇〜一五年で債務返済を終えるとふんでいた。だが、さいさんの要求でようやく手にした財務内容をみると、とてもそれどころではない。川本裕子委員の試算では、十年で四公団を民間株式会社にするには、新規建設を凍結し、非課税、金利四%、交通量最大という、非現実的で、超楽観的な前提でも、八・一兆円の公費負担が必要になるといわれる。より現実的な前提では、九・八兆円である。
 このような事態を招いた原因は何であり、ここまで放置されてきた原因は何か。そのベースは右肩上がりの経済成長至上主義であり、それにつけ込んだ官僚、利権政治家、関連企業の税金へのタカリの構造が主因である。そして、ここまで放置されてきたのは、道路・ダムなどの建設による自然破壊反対、道路公害反対、不要不急の公共事業の中止・凍結など、広範な人民の意思と要求を、自民党などの利益誘導型の政治、中央からの一元的支配を維持する中央集権型官僚機構が無視してきたためである。
 したがって、問題の基本解決には、利益誘導型政治の一掃、中央集権型官僚機構の廃止と、人民による監視と統制がいきとどく制度と政治が不可欠である。この点で、道路行政における公共性の問題は、広範な論議なしの素通りで済ますことはできないのである。高速道路だからといって、国だけが所有・管理するというのは、先入観念である。諸県の連合、県や市町村等の連合した組合のものがあってもおかしくはない。分権化することは、情報公開を前提とした人民の監視、直接民主主義の手法を可能な限り取り入れた人民の統制が、飛躍的に前進しうるからである。
 この点で小泉政権の改革なるものは、すでに基本方向で、問題解決からズレている。したがって、市場原理に依拠した「中間報告」でも、保有・債務返済機構が新会社に投資できることなど、無原則な道路建設の余地もまだ残されているのである。
 公共性の問題など根本的な限界をもつ小泉政権の道路公団改革に対し、自民党の道路調査会は、「高速道路の計画・整備・管理は国の責任で行う」といきまき、“決定権はわれわれにある。”と、無反省に居直っている。利権政治家たちは、残りの二三〇〇キロの高速道路も、国の責任でおこなえ!といっているが、それらは採算がとれないのは明白であり、しかもその建設費は約二〇兆六千億円といわれている。利権政治家たちは、財政赤字がGDPを超えようと、四公団の借金が六〇兆円になろうとも、おかまいなしに、あくまでも当初計画通りの道路建設を強行し、そのためには、赤字路線が量産されるのもかまわずに、公団のプール制を死守するというのである。そこには、関連大企業と利権政治家が結託して強行した本四架橋(三本もの架橋は当時から無謀と批判されていた。今や地元金融機関などを対象とした縁故債も発行できない)や京葉・千葉東金・東京湾アクアライン(年間四百数十億円の赤字で、未償還額は一兆七百億円)などの反省は一片たりともない。自民党守旧派の抵抗は、今でも侮ることはできないが(特に官僚と結託した場合)、内外の経済情勢の大きな変化という大局をみれば、やはり断末魔のあがきでしない。
 高度成長いらい肥大化した官僚機構は独占ブルジョアジーであろうとも、放置しうるものではない。今日の国家財政の状況はいうまでもなく、政府系金融機関をのぞいた二十三の特殊法人においても、借金は、昨年度も一兆円強ふえて、約一〇二兆円にまで達している。
 この中で、日本道路公団の借金が最大で、二七兆二千億円である。だが、日本道路公団は、昨年度の本業の収支が、約一兆円の黒字に対し、一兆七千五百億円を超す建設投資をつづけ、政府から三千億の出資を受けながら、有利子負債が四千億円以上増えている、という状況である。これまでの構造であるかぎり、借金がますます増える構図を変えることはできないのである。すでに本四連絡橋公団は、破綻が明確となっており、債務返済は、税金によることが必至である。このままでは、他の道路公団も、本四連絡橋公団の後を追うことは容易に推測しうる。
 ちなみに、政府系金融機関の貸出市場で占める比率は、二〇〇一年三月末現在、約二八%にも達しているのである。その内訳は、住宅分野が最も多く約四〇%、大企業・中堅企業分野が約一七%、中小企業が約九%である。不良債権問題で民間金融機関の資金仲介機能が低下するなかで、ここ数年、政府系金融機関のシェアが上昇しているわけである。こうして政府系金融機関の赤字補填(ほてん)のために、一般会計からの補助金は、過去十年間で六兆四千億円にまで拡大している。
 官僚機構の肥大化が常態化するなかで、タカリの構造は、官僚や利権政治家のみならず、社会全体をも覆う勢いである。こうした下で、無駄な公共事業に対する人民の厳しい批判が高まっているのにもかかわらず、官僚や官僚OBは鉄面皮である。それは、民営化推進委の強い要求で、道路公団がしぶしぶ明らかにした財務内容に明らかである。
 日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団の子会社、関連会社・計一二一社の二〇〇一年度決算での余剰が、前年度比四六億円増の一二三七億円にのぼることが明らかとなった。図2に示されるように、他の二公団のファミリー企業の剰余金は横ばいなのに、日本道路公団のそれは一〇六二億円から一一〇八億円と四六億円増大している。本体の公団が巨額債務をかかえる一方で、子会社、関連会社が利益を維持・拡大している構図とはいったい何なのか。
 民間の大企業の下での重層的な下請け構造では、矛盾のしわ寄せは絶えず「より下層」へと押し付けられ、頂点に立つ大企業がもうかるメカニズムになっているが、官僚制度の下では、下請け構造は逆に発注元が赤字でも税金にしわ寄せすればよく、むしろ下請け・関連企業がもうかる方が、天下りさきの官僚OBの利益ともなる。この場合、いつでも下請けの方が利益が多いとは限らないが、現役官僚とOB官僚によって恣意的に操作されうるのである。
 そのメカニズムの要は、OBもふくめた官僚一家(三公団のファミリー企業の社長の九二%、全役員の五四%が公団OB)の利益を基本的には税金によって確保することであり、それを利権政治屋たちが政治的に支えることである。政治家はこのメカニズムにタカリ、(1)民間企業から贈賄を受け、(2)官僚の按配(あんばい)を受けた「公共事業」なるものの政治実績で票田の拡大、となる。結局、無駄な公共事業なるもので肥大化した特殊法人は、官僚・利権政治家・関連企業の特権的グループが税金を食い物にしているだけであり、すべてのしわ寄せは、人民の税金にかかってくるわけである。
 その構造を解体するには、特殊法人をふくめた官僚機構の簡素化と、恒常的に人民が監視し統制しうる制度の構築が不可欠である。広域的で公共性のある事業は、公共団体が担うべきだとしても、それは中央政府のみが排他的に独占してきた、これまでのやり方を根本的に変えるべきである。一元的に管理・運営する中央集権主義は、公共事業にかぎらないが、たえず情報操作され、人民の知らないところで悪が活躍する温床となるからである。