有事法案

   政府は法案練り直しで、容認派の取り込みを策す

 今秋廃案へ共同戦線発展を


 延長通常国会が七月三一日で閉会し、有事法制三法案は衆院有事法制特別委員会での継続審議となった。有事法案に反対するこのかんの闘いは、今国会での成立を阻止する成果をかちとったが、廃案へ追い込むことはできず、今秋の臨時国会へ向けて闘いの正念場を迎えることとなった。
 小泉連立政権は、あくまで臨時国会での成立を目標として、あらたな策略を開始している。その法案練り直し策は、いわゆる「国民保護法制」など五分野の「事態対処法制」(三法案の内の一つの武力攻撃事態法案で、その施行後二年以内に整備するとしていたもの)を法案として作り上げて、有事法案に追加するとするものである。またさらに、「対テロ」「対不審船」の二分野についても、(これらは武力攻撃事態法案の「補則」で「武力攻撃事態以外の緊急事態への対処のために施策を講ずる」とし、施策レベルとしていたものであるが)有事法案の一部として新たに折り込むとする方針である。
 つまり政府は、今国会でまず「総論」として戦争法を成立させようとしたが、反対運動・批判世論の発展や各野党の「批判」に直面して、事実上途中で策略を転換し、「国民保護法制」などの「具体論」を法案に付け加えて、秋以降に臨もうとしているのである。(法案自体を練り直すにもかかわらず、提出法案をいったん廃案とすらしないのは、まったく小泉政権の延命の意図だけのでたらめな措置である。)
 「国民保護法制」などと言っても、それは戦争をやるための住民疎開などであり、何もわれわれ人民を保護するものではない。政府は七月二四日の衆院有事特別委員会で、「武力攻撃事態での国民の権利と自由」について、「思想、信仰等に基づき外部的行為がなされた場合、公共の福祉による制約を受けることはありえる」という政府見解を発表したばかりである。平和憲法の下で、戦争をやることが「公共の福祉」であると強弁するのであるから、政府の策略も化けの皮がはがれている。。
 しかし、政府のこの方針転換は、民主党などの小手先の「批判」、つまり自衛隊の行動まずありきで有事での国民保護があいまいだなどの、有事法制に基本的に賛成した上での「批判」者たちに対応し、取り込むことを狙ったものである。また民主党などは、「対テロ」「対不審船」など「緊急事態法制」の制定を積極的に主張している。政府は、日本への「武力攻撃事態」というのは非現実的だという大方の反応に対応し、民主党などの「緊急事態法制」論者たちを、練り直した有事法案の支持へ取り込もうとしているのである。
 秋の臨時国会あるいは来年の通常国会にかけて用意されてくる有事法案は、より具体的な戦争法であり、日米同盟の現体制を支持する枠内で法案の不備をあれこれ指摘するだけの「批判」者たちを今度は法案賛成へ転じさせるための、より策略的な戦争法になろうとしている。有事法制に反対する共同戦線は、これらを念頭にいれて闘いを準備していく必要があるだろう。

  この間の闘いを振り返って


 さて、ここ半年ちかくの情勢をふりかえり、より一層強大な有事法案反対の共同戦線を準備しなければならない。
 第一に、四月の有事法案国会提出の頃までは反対運動は低調であったが、これは戦時に臨む立法であり国民生活に重大な影響を与えそうだということが明らかになるにつれ、世論とメディアの批判、反対運動は日増しに拡大していった。最初の動きは少数でもこちらに道理があれば、動き出す勢力・個人は全国各地にたくさんおり、勝利の展望は拓ける。このかんの攻防は近年にない重要な経験であり、成果であった。
 政府は、昨秋の対テロ特別措置法成立と戦時派兵の強行にに大きな抵抗がなかったことから、いまこそ有事法制制定の好機と考え、見通しを甘く考えていたと思われる。しかし一般の国民意識にとって、米国の「対テロ」アフガン戦争への「国際協調」を容認することと、日本有事・周辺事態での戦時体制を容認することとの間には相当な開きがあった。つまり、戦時体制を拒否する気持ちはいぜん広範かつ根強いものがあるが、遠くの国での自衛隊の軍事行動は容認している。これが、国民多数の平和意識の現水準であることは否定できず、運動の発展のためには、ここをどう超えていくかが問われるだろう。
 第二に、運動の組織論としては、共同戦線に一定の前進がみられた。
 かっての安保共闘のような広範な共闘機関もなく、連合という最大ナショナルセンターが取り組みを放棄しているという状況のなかで、戦争動員のおもな対象となる交通運輸・港湾その他の労働組合が中心となって、この有事法案阻止という課題で一致する共同行動が中央・各地で形成された。これに市民団体、宗教者、個人、そして上部団体を超えた各労組が合流し、かなり広範な共同戦線が生まれた。
 当面この共同戦線を持続・発展させ、今秋以降の闘いにさらに多くの勢力・個人が大合流できるようにしていくべきである。そして今後問われる憲法改悪阻止の共同戦線は、この経験を活かしつつ、政治勢力・労働運動の大きな再編をふくめた、より大きな展望をもって準備する必要があるだろう。
 秋以降の闘いは、重大な内外環境のもとで闘われる。

  米帝の対イラク戦争を阻止しよう


 ひとつは、ブッシュ政権が、いっさいの国際法を無視して公言する対イラク戦争の開戦のおそれである。戦争屋ブッシュは、イスラム諸国人民と中東・中央アジアを支配し、イスラエルのパレスチナ再占領を支える決定的戦争として、理不尽なイラク侵略戦争を引き起こそうとしている。今、世界的規模で、このイラク戦争開始に反対することが問われている。仮に開戦を許してしまった場合でも、日本の一切の参戦・戦争協力を阻止しなければならない。現在の対テロ特措法の適用を許さず、参戦の新規立法も絶対に阻止しよう。
 もう一つは、小泉「改革」政権の倒壊である。その兆しが今国会で明確に出てきた。小泉「改革」の全面的破産が、ワールドコム倒産に始まる米国バブルの破裂とともに進行し、日本の巨額の対米債権(これは日本の賃下げによる利潤を米国に移転し、日本の不況を強めているものである)が暴落するなど、日米経済が大混乱におちいることも否定できない。日米のブルジョアジーは、一切の犠牲をさらに労働者人民に押しつけようとしている。対イラク戦は、そのための戦争経済か、とも考えられる。
 あらゆる面で戦争と平和の、グローバル資本主義と労働者人民の対決は抜き差しならないものとなりつつある。こうした情勢の中で、労働者共産党は今夏、第二回党大会を成功させた。読者各位が大会の諸決議に注目され、ともに闘いの準備を整えることを訴えたい。