野宿者支援法

 土壇場で国会成立をかちとる

  就労自立の労働者運動おし出し

 通常国会最終日の七月三十一日、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が参議院本会議にかけられ、全会一致・反対ゼロで成立した。全国から結集した百二十名の野宿労働者が、当日午前段階では濃厚だった継続審議の流れを巻き返し、土壇場での成立を勝ち取ったのである。野宿労働者大衆の切実な要求を組織してきたこと、超党派の合意を獲得してきたこと、運動の全国的団結と粘り強さと集中力が培われ発揮されたこと、これらが最後に決め手となった訳である。
 運動は、この法律を戦い取る過程において、大きな前進を果たした。第一に、野宿労働者運動の路線を創造し、豊かにしてきたことである。就労自立を基軸に据え、労働者運動としての性格を押し出した。野宿の現状を保守するだけの路線に反対し、野宿を生み出す社会に代わる新しい社会を創造する運動路線を獲得し始めた。第二に、それなりに大きな政治力量を獲得したことである。連合、部落解放運動、地域の商店主等諸層、中央・地方の議会諸政党や官僚等々との間において、「ホームレス問題」に関して、矛盾もあるが協力もする多様な諸関係を形成し、新しい時代を見据えた地域社会づくりの一推進軸の位置を占めようとしている。第三に、野宿労働者運動の全国的な路線的団結と実践的連帯関係が形成・蓄積されたことである。
 この法律は、その目標について、「ホームレスの自立の支援、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し、国等の果たすべき責務を明らかにするとともに、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、必要な施策を講ずることにより、ホームレスに関する問題の解決に資すること」(一条)であると述べる。そしてこの法律は、自立支援に必要な施策を総合的に列挙しつつ、「ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要である」(第三条)と指摘する。この法律は、厚生労働大臣、国土交通大臣に対して、「基本方針」の策定を義務付け(第八条)、都道府県、市町村に対し「実施計画」の策定を義務付ける(第九条)。この法律は、国に対して、「その区域内にホームレスが多数存在する地方公共団体」および「ホームレスの自立支援を行う民間団体」に対する財政上の措置を義務付ける(第十条)。この法律は、国及び地方公共団体に対して、「ホームレスの自立の支援等について民間団体が果たしている役割の重要性に留意し、これらの団体と緊密な連携の確保に努めるとともに、この能力の積極的な活用を図る」ことを義務付けている(第十二条)。この法律は、十年の時限立法となっている(付則第二条)。
 またこの法律の制定において、衆議院厚生労働委員会は、同法の運用に当たって留意すべき点について指摘した決議文を採択した。例えば第十一条の「公園その他公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居する場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする」としたいわゆる適正化条項について、決議文は、「人権に関する国際約束の趣旨に充分に配慮すること」と述べ、この条項を強制排除に利用しないよう警告している。
 野宿労働者運動は、この法律の制定によって、新しい局面に入っていくことになる。
 野宿生活保守(排除反対一点張り)路線は後退し、これとの論争は副軸化するだろう。ただし、こうした傾向がなくなる訳ではなく、運動の発展にとってこれとの論争は、依然不可欠の位置を占めつづけるに違いない。
 非営利事業と地域社会づくりとをめぐり、改良主義、利権屋的勢力が台頭するだろうし、これとの路線論争が、野宿生活保守路線との論争に代わって、主軸の位置へと浮上するだろう。大切なことは、労働者の運動の主導性を確保することであり、一人ひとりの労働者の思想・政治的かつ経済的な自己発展の道を開くことである。
 八〇年代の山谷で直面したような、右翼ヤクザによる暴力的運動破壊を媒介とした事業介入の企図もちらつき始めている。これを打ち砕く備えという意味でも、労働者の根本的解放を見据えた運動、および、その一環としての就労・福祉事業の発展、等による労働者基盤の強化が果たされねばならず、また獲得してきた広範な政治布陣の打ち固めも求められているのである。
 新局面に、適確に対処しよう。(M)