「保安処分」新法反対3・24集会

  進む精神病当事者の闘い


 三月十五日、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律案」が閣議決定され、この保安処分新法が成立させられる危険性が高まっている。
 保安処分とは、罪刑法定主義(罪を犯した人が裁判の結果、その犯した罪に対して罰せられる)の原則をくつがえし、罪を犯す「おそれ」があるとして、「罪」を罰するのではなく「人」そのものを拘禁等の処分によって取り締まるものである。「アカは危ない」とした戦前の治安維持法による予防検束は、保安処分である。今回の新法案では、「精神病者は危ない」「再犯の恐れがある」という偏見を利用し、立法によってその偏見を増幅させ、精神障害者なら保安処分を導入しても構わないとするものである。
 この危険な情勢をふまえ三月二四日、東京・渋谷の勤労福祉会館で「3・24保安処分反対集会」が処遇困難者専門病棟新設阻止共闘会議の主催でひらかれ、新法阻止へ弾劾の集会となった。
 主催者の「阻止共闘」は、この間、保安処分反対の動きがいくつか進められている中ではもっとも左に位置する立場から、関係省庁との交渉などを行ない、この集会を準備してきた。従来、この団体の集会は、古い形式の、簡単に言えば既成の新左翼諸派のグループと、未成熟ではあれ精神病の当事者のグループとが合体して集会を行なうという構造をもっていたが、今回の集会では、京都や東北の病者団体そして東京の諸病者団体からもアピールがあり、病者自身による保安処分に反対する歌なども披露されて、当事者主体の大衆的集団へとより一歩進んだように思われた。
 このことをもっとも象徴していたのは、集会開始直前、一部の参加党派のメンバーが、病者団体からきびしい糾弾(内容は不明)を受けていたことであるが、精神病者の当事者性の高まりが推測される。
 集会は、大人数で結集した練馬の病者グループ「街」によるギターを手にした反保安処分の歌と主張など、当事者性と大衆性を前面に出したアピールが相次いだ。また、良心的な医療従事者の発言もあり、約000人で満員の会場には熱気があふれていた。
 集会後は、渋谷の街でデモを繰り広げたが、デモもシュプレヒコールを繰り返す整然としたものというより、抗議の爆竹を鳴らすグループや、引き続き歌を歌いながら練り歩くグループもいるなど、それぞれのやり方で保安処分に抗議するものとなった。
 今国会で審議・成立が目論まれている保安処分新法に反対する闘いの動きは、以上の「阻止共闘」の集会・デモだけではなく、法案が閣議決定されたことを皮切りに、各方面で開始されている。
 三月十八、十九、二十日には国会周辺座り込み行動が、大阪精神病者団体連合会や全障連関西ブロックなど関西の人々を中心に行なわれるなど、精神病者の運動が分立した形で進められている現状が浮き彫りになっている。また、医療従事者や弁護士、市民、労働者などを
広く連携させ、国会ロビー活動も視野に入れて、予防拘禁・不定期拘禁反対の一点で結集する動きもある。
 精神病者自身の闘いの戦列としては、外側からはよくわからない乱立があり、それが保安処分反対でのいくつかの動きとして現れているようである。どの団体が当事者の結集をかちとっていくかが、、運動の行く末を占う重要なカギとなるように思われる。 (A)

 

  法案批判し大阪3・14シンポ


 「心神喪失者処遇法案」の閣議決定が行なわれようとする前日の三月十四日、大阪弁護士会主催で「この国の精神医療と司法の課題」と題する市民シンポジウムが開かれ、大阪弁護士会館に二五〇名余が参加した。
 シンポでは、法案について日弁連人権擁護委員会の岩田弁護士が説明および批判点を整理し、「医療という名がついているが実質、保安処分だ」と批判した。
 パネル討議では、日弁連からは伊賀精神医療問題小委員会委員長が「裁判官は責任を回避しようとして、社会復帰に積極的にならなくなる」と批判。精神医療の現場からは、澤さわ病院院長が「初犯を防ぐ視点がない、専門病院も医療は不充分、退院後のフォローもまったく不十分。地域精神医療の充実こそ現在の課題」と、法案への疑問を述べた。
 患者の立場からは、山本大阪精神医療人権センター事務局長が、「法案には入院期間制限もなく、実質隔離政策だ。精神障害者はこの間『加害者』として語られることが多くなったが、実態は生きていく上で様々な偏見・差別と無策・放置の『被害者』としてある。地域で生きていける状態を作ることが大事」と述べた。
 シンポは最後に,「政府案は治療の必要性という医療の視点ではなく、再犯のおそれという治安的観点から裁判所が精神障害者の処遇を決定するもので、医療より社会防衛のために精神障害者を拘禁するという『保安処分』の再現というほかない」との、大阪弁護士会の声明が発表された。
 閣議決定前後には、日本精神神経医学会が三月十二日、法案の撤回を要求する緊急声明を発表。日本弁護士会も三月十五日、「許容しがたい人権侵害をもたらす」と久保井会長名の声明を発した。
 関西の運動体は、三月十八日上京し、国会前にて十八日〜二十日の三日間座り込みを行ない、廃案を求め抗議行動を続けた。この行動は、
DPI日本会議、全国自立生活センター協議会、障害者総合情報ネットワーク、NPOピアサポートセンターこらーるたいとう、大阪精神障害者連絡会、NPO大阪精神医療人権センター、全国障害者解放運動連絡会議関西ブロック、障害者の完全参加と自立をめざす大阪連絡会議、NPO精神障害者支援の会HIT、NPOハートライフくれよんらいふ、東京精神医療人権センター、以上の諸団体が主催した。
 四月十日には、「新法反対全国連絡会議」が日弁連よびかけで開かれる。
 法案に対する陣形の遅れと分散が少しずつ克服され、閣議決定から四月〜五月の国会提出に対し、保安処分新法反対・廃案へ運動を強めていく必要があるだろう。(関西S)