加工貿易立国から「内外経済一体化」へ

    動揺する重層的支配構造


 日本の貿易収支は、一九九八年度をピーク(一四兆五五六億円の黒字)に減少傾向を強めている。九九年度は一二兆九六〇億円(対前年度同期比一三・九%減)、二〇〇〇年度は九兆六〇八八億円(同二〇・六%減)と減少し、特に二〇〇一年度は、急速に減少している。〇一年度の上半期の貿易黒字は、前年同期比でマイナス四三%という大幅減である。 日本の経常収支の構造は、以前から貿易外収支と移転収支が恒常的に赤字であり、これらを大幅に上回る貿易収支により、経常収支は黒字を続けてきた。だがここにきて、貿易収支が急速に減少し、当然のこととして経常収支の黒字幅も減少してきている。九八年度には一五兆一六九六億円あった経常収支は、九九年度には一二兆六四二七億円(同一六・七%減)、二〇〇〇年度には一二兆七一六億円(同四・五%減)と減少し、〇一年度の上半期は前年同期比二三・五%減という落ち込みようである。かつてアメリカの圧力で必死になって、黒字減らしに奔走したことがウソであったかのような様変わりである。
 貿易収支の減少は、一体何故であろうか。最大の理由の一つは、日系多国籍企業の海外活動が進展し、現地企業による資材・中間財の現地調達がすすみ、一時期のように資本輸出の増大とともに、日本からの中間財や機械設備の輸出増大が伴うという構造が解消されてきていることにある。もう一つは、日本の製品輸入率(日系多国籍企業からの逆輸入などが多い)が高まり、さらに相対的な円高でさらに製品輸入が促進されていることにある。 こうした傾向から、今やエコノミストの間では、二〇〇五年ころには日本は「経常収支赤字国」に転換すると、予想されている。いまや支配階級は、かつての加工貿易立国ではなく、資本主義のグローバル化と大競争時代にあわせて、「内外経済の一体化」を吹聴している。なかには、外国資本の誘致を推し進める自治体も増えてきている。
 経常収支の黒字の減少、赤字国への転換は、一般的には金利の上昇の傾向を強める。それは財政赤字の拡大とその恒常化による国債格付けの低下にともなう長期金利の上昇とともに、やがては資本家にとって資本調達を困難にする。また、打ち続く超低金利政策でかろうじて命脈を保っている負債企業は、たちまちのうちに倒産せざるをえないであろう。いままでのような不良債権の処理を引き延ばすことももはやでき得ない。
 日本資本主義のこのような構造転換の過程で、かつてに比べると外国資本による対日資本輸出は、土地価格の下落などもあって近年急拡大してきている。九〇年代前半の日本の対内直接投資(外国資本による対日直接投資)は、20〜30億ドル台以下であったのが、九七年五五・二七億ドル、九八年一〇四・六九億ドル、九九年二一五・一〇億ドルと、倍々ゲームとなっているのである。
 このため日本の対内外直接投資残高比率(対内直接投資残高:対外直接投資残高)は、八九年末段階での一:一六・八、九八年末の一:一〇・三から、九九年末段階では一:五・四にまで大きく縮小している。
 だがその比率は、欧米諸国と比較すると(図1参照)、まだまだ対内・対外直接投資の格差が大きいというのが、現状である。このことは、国内総固定資本形成に占める対内直接投資の割合でも明らかである。図2で示されるように、世界平均一一・一%、いわゆる先進国一〇・九%に対して、日本はわずか〇・三%でしか過ぎない。いままでいかに日本資本主義の構造が閉鎖的であったかが、この数字でも如実に示されているのである。
 こうした現状と、近い将来の「経常収支赤字国」への転換を重ね合わすならば、これらから先、現在以上の土地価格・物価の下落、賃金の引き下げという圧力がかかり続ける可能性は強いとみなければならないであろう。というのは、残存する非関税障壁の解消とともに、外国資本の対日投資の条件を整えるためには物価、賃金の引き下げを資本は要求するからである。
 グローバル化の下での、資本の国際活動は、特殊な国内事情がないかぎり、各国労働者の賃金水準を平準化する傾向を強める。日本の場合は、その国際化が急激なため、労働者階級への衝撃は急激であり、かつ強度なものである。だが先進的労働者は、この困難な事態にひるむことなく、これを逆に機会として日本資本主義のもつ特殊な「二重構造」に規定された重層的な賃金構造を打破する闘いがつよく求められている。
 今日のリストラ、首切り攻撃は、大企業も中小企業も問わず、現場労働者も事務労働者も問わず、推し進められている。だが、企業によって違いはあるものの、依然として大企業の都合を下請け企業におしつける従来の差別的な手法もおこなわれている。大企業労組のほとんどは、資本の要求に呼応し、特権的な上層労働者の利害に専念し格差構造の再生産に手を貸している。
 先進的労働者は、急増するパート・派遣・臨時などの下層労働者の立場にたって、労働者階級諸個人の対等・平等な階級的団結を一歩一歩と前進させるために、地域を基盤に企業の枠をこえた労組運動を拡大しつつ、日本資本主義の重層的支配構造を足元から掘り崩す闘いがますます求められている。本春闘は、その第一歩である。(T)