12・22「不審船」事件

 戦後史画くする武力行使

     公海上で撃沈


昨年十二月二二日に引き起こされた「不審船」撃沈事件は、日本の軍事力の一部分(海上保安庁艦船)が日本の領域外において公然と武力を行使し、外国人とおもわれる多人数を殺害した事件として、戦後史を画する重大な事件であった。小泉戦争内閣のこの暴挙をを徹底的に糾弾する。
戦後日本の実力組織が海外において、直接の戦闘行為を行なって相手をせん滅する(あるいはせん滅される)というのは、現憲法の全く予想しない事態であり、知られている限りこれが全く初めてである。一九五〇年の朝鮮戦争において、米占領軍の秘密指令によって海上保安庁の掃海隊が仁川沖などで参戦し、死傷者を出したことがあるが、これは日本独立前のことであった。(これももちろん四七年施行の現憲法の蹂躙であったが)
今回、平和憲法を持つ日本がついに、銃火で、しかも国外(公海)で人を殺してしまった。「戦争のできる国家づくり」は、日本領域内でまず武力行使というような段階をすっ飛ばして、とんでもなくエスカレーションする事態となっている。
ところが小泉連立政権は、船体射撃は「正当防衛だ」、「漁業法や海洋法条約に対応の法的根拠がある」として居直っている。しかし、公海上で繰り返し先制攻撃を受けたのは「不審船」のほうである。撃沈される直前の「不審船」の発砲こそ正当防衛ではないのか。いわゆる排他的経済水域での無許可操業の疑いがあるというだけで機関砲を撃ちまくって追跡し、中国側の排他的経済水域にまで入って武力行使するなどということが、漁船への対応として異常なものであることはあきらかである。
実際は、政府にとって漁業法うんぬんは関係なく、米軍からもたらされた「不審船」情報に対し日本国家もやるときはやりますよと、ショー・ザ・フラグをしてみせたということだろう。「対テロ」戦争も周辺事態戦争も日本はやりますよ、というわけだ。(ちなみに自衛隊法では、有事には海上保安庁は自衛隊の統制下に入ることになっている)。
その結果、戦後日本のやってはいけない一線が、あっさり越えられてしまった。マスコミも事の重大性を語らず、むしろ武装したスパイ船が日本近海にうようよいる、有事法制が問われるという方向へ世論誘導している。
こうした動向に手をかしているのが、こともあろうに不破・志位の共産党である。日共は、この事件を日本の戦争遂行国家化の現れとして批判することを意識的に全く放棄している。かれらは事件の表面を報道しただけであった。一月十一日の『赤旗』の解説記事では、政府の法的根拠説明の代弁を務めている。日共は昨秋国会で、対テロ特別措置法には反対したが海上保安庁法改定案には賛成した。この改定案は、日本領海内での船体射撃を認めたものであった。今回は領海外での武力行使であるにもかかわらず、違法・違憲行為として依然批判していない。
このような、「愛国党」としての馬脚を露呈した日共が、憲法改悪阻止・有事立法阻止の広範な共同戦線においてその有力な勢力であるという事実は、いくらか難しい問題を提起するものである。
「不審船」撃沈事件は、平和憲法を真っ向から否定する事件である。こうした現実の問題に憲法第九条を活かしていく態度が取れないようならば、その「改憲阻止」のスローガンは無力であるというほかはない。(W)