政府・与党の「医療制度改革大綱」を批判する

 医療を企業参入の修羅場に


 十一月二十九日、政府・与党社会保障改革協議会がまとめた「医療制度改革大綱」なるものが、発表された。
 この「改革大綱」なるものは、小泉「構造改革」の本格的な労働者民衆への攻撃の全容を表した第一段といえるものであり、大規模な収奪を基本としながらも、それだけでなく、憲法第二十五条で保障される国民の最低限の生存権・健康権を実体的に保護してきた国民皆保険制度を根底から覆す内容をもったものといえる。その重要なポイントを指摘しながら批判点を明らかにする。

  アメリカ型への転換計る

 まずこの「改革大綱」は、六つの項目に別れて提起されている。
 最初に提出理由とも言うべき「医療制度改革の基本的視点と将来方向」においては、医療費総体としての増大、とりわけても老人医療費の将来に渡る増大に対処する必要性として、医療保険制度の一元化や老人医療制度の組み換え方針等が出されている。この点に関しても、国民健康保険や政府管掌保険の慢性的な赤字体質や小規模組合保険の赤字への転落を放置し、このツケを一元化によって労働者民衆に転化しようという代物でしかない。また消費税が出されたときや税率アップのときも、その理由として将来に渡る老人医療費の財源として根拠付けにしてきたのではないか。
 二番目に出されている「保険医療システムの改革」においては、より重大な内容が孕まれている。「健康づくりや疾病予防にかかわる法整備などを進める」としているが、旧来不当にも予防医療は健康保険制度の対象外としてきたことについて、何ら改善策を述べているわけではない。次の、医療提供体制における電子カルテ・レセプト(診療報酬明細)電算化の推進については、診療や検査の重複をさける利点は存在するものの、コンピューターの習熟へのばらつきなど過渡的な難点も多く指摘されているし、新設・既存を問わず莫大な設備投資が必要となり、また医療広告の緩和をうたっているが、医療機関間の患者獲得の競争激化をもたらすだけで、フリーアクセスの原則が損なうだけである。さらにEBM(科学的根拠にもとづく医療)による標準的な診療ガイドラインの作成を提起しているが、個々の患者の疾病状況に応じた診療を損ない、診療費の包括化による総額抑制だけの狙いと言えるだろう。その最後にある医療法人の理事長要件の緩和については、現在、医師・歯科医師に制限されている理事長を規制緩和し、民間企業の参入をよりしやすくするために計られたものである。総じてアメリカ型への転換を計らんとするものであろう。

 三番目の「診療報酬などの改革」、四番目の「医療保険制度の改革」では、診療報酬費の引下げと国民負担・患者負担の引上げを主張している。差額ベッド代をほとんど取らない公立病院などは、現在の診療報酬では常に赤字を抱え込んでいる。また、公立病院と同様に大学付属の医療機関では、低賃金と劣悪な状態に置かれた研修医を犠牲にして、赤字幅の縮小が図られている。またこの事にともない、看護部門での派遣やコメデカル部門(検査、放射線、薬剤)、給食部門の外注化がより一般化していくだろう。当然にして、この部門への企業参入に拍車がかかるだろう。医療保険制度では、健康保険本人の三割負担をめぐり、政府と自民党の駆け引きがおこなわれ、今回は見送られたが早晩実施されようとするだろうし、また保険料は今までにはないボーナスを含む総報酬制がもくろまれている。
 五番目の「高齢者医療制度の改革」では、最初にも記したとおり老人保険への定率制の全面適用をはかり(現在は部分適用)、一層の高齢患者への負担を強いるものとなる。そればかりではなく、現在の70歳からの適用をもう一段階設け、75歳からは一割負担、70歳から74歳までは二割負担と一層の収奪を画策しているのである。
 最後に社会保険と労働保険の一元化を主張している。労働保険は、社会保険に比べて財源の安定化がみられるため、この金を社会保険に当てようと企てている。このことが、実現・実施されたならば、労働者は安心して働くことが阻害される要因となるだろう。

  連帯して地域医療発展へ


 以上見てきたとおり今回の「改革大綱」は、小泉「改革」の目玉である「規制緩和」の名のもとに、医療現場を企業参入の修羅場と化し、まともで公平な医療の出来ないアメリカ型に変えようとしている。労働者民衆は、断固としてこの医療制度改革に反対し、阻止していかねばならない。
 医療制度改悪に対し、日本医師会や民医連は反対声明を発表しているが、カネの問題だけを取上げ(この問題も重要であるが)、医師会にいたっては診療報酬の引下げに応じる姿勢を見せ始めている。先にも述べたとおり診療報酬の引下げは、医療労働者への更なる低賃金攻撃を招くこととなる。当然リストラの嵐も吹きまくるであろう。医療労働者も医療改悪阻止に立ち上がらねばならない。
 いっぽう労働者住民医療機関連絡会議(労住医連)などの呼びかける「〈安心・参加・予防〉の医療改革を進める医療関係者連絡会議」は、国民皆保険制度の崩壊につながる医療制度改悪案に反対し、地域医療の推進、予防、健康推進事業の拡大を訴える署名活動を展開している。小泉「改革」の対抗軸として、労住医連のこの取り組みを支持、発展させることが必要だろう。
 政府や資本家どもは、医療を全国一律的なレベルのものとしてとらえようとしているが、疾病に対しては個人的・地域的な差異があるものだ。その意味では地域医療の発展・推進は、憲法で保障された生存権・健康権を守るためには一歩進んだ可能性が含まれている。医療と住民がお互いに同じ目線で向き合い、信頼を育むことによって、真の医療は発展をとげるだろう。
 労働者住民、医療労働者をはじめとする医療関係者は、小泉政権の医療制度改悪策動に反対し、連帯して立ち上がろう。 (医療労働者F)