多角的な反失業闘争を


完全失業率が、ついに五%台に達したことは、まだ耳新しい。総務省の発表によると、七月の完全失業率は、五・〇%で、これは現行の調査形式を始めた五三年いらい最悪の数字である。完全失業者は、三三〇万人で、潜在失業者(求職活動をあきらめた人、またはしない人)は、四二〇万人である。両者をあわせると、失業率は一一・四%である。就業者数でみると、四か月連続で減少し、七月の就業者数は、前年同月と比べ三七万人減の六四五二万人である。つい先頃の報道では、八月の失業率も七月同様に五・〇%といわれる。
 九月十四日には、業界第四位の大手スーパー・マイカルが倒産し、パート労働者も含めた約六万人の従業員の雇用不安は、一挙に頂点に達した。流通業界での最近の大型倒産は、昨年二月の長崎屋、昨年七月の“そごう”に続くものである。倒産の波は、建設業界にも及ぶのは、必至である。上場ゼネコンの株価は、流通大手よりも更に一段と低く、五〇円前後の企業は十数社あるといわれる。
 「IT革命」などともてはやされ、成長産業とされた電機大手でも、つぎつぎと人員削減計画が発表されている。東芝一万八八〇〇人、ソニー一万七〇〇〇人、富士通一万六四〇〇人、日立製作所一万四七〇〇人、京セラ約一万人、松下電器約五〇〇〇人、NEC四〇〇〇人、沖電気二二〇〇人などである。
 政府が四六%の株をもつNTTでは、設立される新会社や既存の孫会社への転属などで一一万人をリストラする計画である。そこでは五〇歳以上の労働者を退職させ、いままでの賃金の七割に削減して、新会社で雇うという、全くもって理不尽で横暴きわまるものである。

  一方的に、資本家のための雇用対策


 こうした労働情勢にくわえ、「構造改革」にともない、さらに多くの失業者がでるのは必至である。小泉内閣は、「痛み」なるものの内実が次第に露呈し、支持率が低下するのは覚悟しているが、少しでもその低下をくい止めるためには、形だけでも雇用対策をとらざるを得ない。九月二十日、政府の産業構造改革・雇用対策本部(本部長・首相)は、(1) 規制緩和による新産業の育成などによる雇用の受け皿整備、(2) 雇用のミスマッチ解消、 (3)セーフティーネット(安全網)整備を柱とする総合雇用対策を決定した。
 実際的な雇用対策は、主要には(2)、3)である。だがその内容は、従来の延長線上のものか、あるいは資本家を一方的に利した反労働者的なものでしかない。
 前者は、民間の職業紹介機能の充実、中高年ホワイトカラー向けの教育訓練の整備、職業訓練を受けている者への失業手当の「延長給付」、学校補助教員・森林作業員・警察支援要員などの臨時雇用の拡大(日経連が要求していたもの)などである。だが、失業給付の延長といっても、現在の職業訓練施設の規模では、その対象者は限定されている。全くの小手先のもでしかない。
 後者のうちで典型的なものは、派遣労働の契約期間を一年から三年に延長するものである。これは労働者派遣法の改訂につながる。小泉首相は、延長することによって資本家が雇用しやすくなり、失業者が減ると言っているが、資本家に悪用されるのを知っているのならば確信犯であり、知らないとすれば現場を知らぬ無知である。
 この間、ほとんどの資本家は、経営改善によりサバイバル競争に勝ち抜くためと称して、きわめて安易にも首切りとリストラで対処してきた。そこで有期雇用の対象職種を拡大した場合、資本家は、正規労働者の首切りとセットで有期雇用を増やすことは目にみえている。このことは、パート・アルバイト・派遣・契約などの非正規雇用労働者が、労働者全体の内で占める割合が、九〇年の約一五%から今日では二七%前後に急増していることで明らかである。
 さらに注視すべきは、政府の雇用対策が、依然として、企業への助成を通した対策という従来の姿勢を踏襲していることである。人件費を削減して、経営改善なるものに走っている資本家が、少々の助成金で雇用を拡大するなどというのは、幻想であり、実際にあったとしても微々たるものであろう。これは、障害者を雇用した企業への助成金制度ですでに明らかである。 
 このように小泉内閣の雇用対策は、「改革」の名とは正反対で、むしろ資本家のための雇用対策であり、労働者の利益には敵対するものである。

  公益と矛盾する多国籍企業


 このことは、今日の日本資本主義が、大きく構造転換していることに政府が無知であることに規定されている。製造業などの大企業は、単に従来のように貿易摩擦を回避するためではなく、徹底したコスト計算にもとづき、最も安い労働費と原材料費を結合し、組み立てる戦略の下に、九〇年代から本格的な多国籍企業の活動に入っている。その点で、今日のデフレも単に大不況のもとでの賃金・物価の価格低下だけでなく、日系多国籍企業の製品の逆輸入による要因が大きい。中国に対する農産物のセーフガードの発動も、この流れの中でおこっている問題であり、日系多国籍企業と国内農家との対立という側面が主要なのである。大企業や一部の中小企業が、活動の場を中国、東南アジアなどの海外に求め、国内には国際競争力の弱い企業が取り残されているという構図は、公共事業の波及力が高度成長期に比較し、格段に低下していることでも、証明されている。
 政府が、公共の利益を大義名分とするならば、この現実に踏まえて、雇用対策も行わなければならないはずである。
 人員削減に走る企業への助成金で雇用を増やすという姿勢は、根本的に改めるべきである。労働者人民は、企業の利潤目当ての活動に依存するわけにはいかず、もうけけが少なくとも、あるいはほとんど無くても、労働し、生活の手段を得なければならない。税金は、労働できない人々とともに、こうした人々にこそ使われるべきである。

  個人加盟のユニオンで地域に陣型を


 大失業時代の現実は、生活の資を企業や行政に依存しているだけでは解決にならないことを教えている。企業の人員削減にただ従うだけの大企業労組(連合の組合員数は、ピーク時の九四年七八六万七二五九人から九九年七三二万八七六七人と低下し、わずか五年間で五三万八四九二人も減少している)も当てにはならない。では、どうするか。
第一は、いままで中小・零細企業で闘ってきた経験をいかし、企業の枠を越えた労働者の利益を追求する地域ユニオンやゼネラル・ユニオンを拡大・強化することである。
 失業した労働者の多くは、大企業労組ではなく、これらのユニオンに駆け込んでいる。ユニオン活動が強化されるならば、地域を基盤にした活動で反失業闘争も、持久的に闘えるし、また地方自治体も巻き込んで、労働者の生産協同組合を建設し、失業者の就職先を確保できる。
また、企業の枠をこえた労働者(失業者もふくめ)の団結を重視するユニオン活動は、パート、派遣などの非正規労働者の労働・賃金条件の向上を追求する。その多くが女性で占められるパート労働者などの非正規雇用労働者の時間当たり賃金を、正規労働者なみにあげることなくして、「サービス残業」を法的に厳格に規制することなくして、日本ではワークシェアリングも絵にかいた餅にしかすぎない。
 第二は、広範な世論に訴えながら、組合員の下からの突き上げで、連合、全労連、全労協などの共闘を作り上げ、野宿者自立支援法、「解雇規制法」の成立や、労働法制の改悪に反対する戦線を強化することである。
 この間の首切り、リストラで野宿者は増えつづけているが、行政はその実態すら全国調査しておらず、野宿者の生存権、労働権はないがしろにされている。大規模な野宿者の存在は、資本の身勝手な解雇にあるのであり、解雇を法的に規制しなければならない。広範な共闘をかちとり、野宿者支援法、「解雇規制法」をかちとり、派遣法、職安法、労基法など労働法制の改悪を阻止する闘いは、重要な課題である。
 第三は、いままでの政府の企業を通した雇用対策をやめさせ、地方自治体へ財政権限を大幅に移譲し、現場に密着した雇用対策をとらせることである。
 多国籍企業は、自己の利潤追求のためには、労働者がどうなろうともかまわないのであり、国内に残された企業も人員削減はするが、雇用を増やすなどという意志も才覚も弱い。
 労働者人民は資本家に頼り切るのでなく、みずから自然保護、介護、福祉など資本活動になじみにくい分野や、社会的に有用な労働分野などで、積極的に活動し、そのためにこそ税金を使うようにさせる体制が必要である。その一環として、是非とも地方自治体の財政自主権を確立し、企業ではなく、地域・地方で生活する人々のために税金を有効に使うようにさせる闘いは、きわめて重要である。
 多国籍企業が我がもの顔で横行するグローバル時代、企業でなく、地域・地方で生活する人民のための失業対策こそがますます必要なのである。 (T)