反失業闘争の飛躍へ

     野宿労働者自立支援法の制定を

 野宿労働者自立支援のための特別法を要求する運動は、釜ヶ崎反失連が一九九九年に結成された「ホームレス問題連絡会議」(政府・自治体で構成)に同年五月「野宿生活者支援法(案)」の制定を求め、新宿連絡会が二〇〇〇年九月に「ホームレス支援法」「自立支援事業関連法」の制定を求める提言を発表するなどして動き出した。大阪では、連合大阪や解放同盟大阪府連の積極的な支援を受け、本年三月には府・市両議会において自民党を含む超党派による特別法制定要求決議を実現し、東京でも、国会請願デモや議員ロビー活動を展開してきた。
 こうして「ホームレスの自立の支援等に関する臨時措置法案」(三面掲載)が、民主党提案の形で、先の通常国会に提出される運びとなったのである。通常国会では継続審議扱いとなった訳だが、運動は、参議院選挙に際し公開質問状で各政党の態度を問い、その後衆議院議長に対する請願署名運動を展開するなど精力的に動き、今秋臨時国会を正念場として特別の法制定を目指している。
 そこで秋の闘いの確固たる推進と立法実現のために、この運動と民主党提出の法案に対する労働者共産党としての態度を整理にしておくことにしたい。

    「立法」への戸惑い打破し 

 野宿労働者の運動に関わる活動家の一部において、法案の内容よりも、「立法」を推進することそれ自体への戸惑いが根深い。このことは、運動の前進にとって足枷となっている。
 そもそも立法は、国家および社会的諸勢力との闘争関係において、最終的に妥協や調整をもって既存の法体系の部分的再構築で決着されるものである。立派な法律が出来ても運動の側にそれを活用する力量が無ければただの紙切れにされてしまうし、多少の欠陥があろうとも運動の力量次第で欠陥を克服していくこともできる。つまり立法は、労働者の生活・闘争条件の改善にとって基本的に役立つ武器となるレベルを勝ち取れば良いということである。
 ところが一部の人々は、国家と関わることを恐れ、妥協や調整を恐れ、形成される法律が野宿者運動の綱領のごとき内容でないと耐えられないようなのである。それは、労働者の生活と運動の実際的改善よりも、妥協を恐れる「左」翼的活動家の心情を優先する態度であるだろう。
 立法それ自体に対する戸惑いを更に掘り下げると、立法の一大眼目であるNPO事業への無理解、否むしろそれに反対する態度に突き当たる。
 例えば釜ヶ崎NPOは、野宿労働者の生活と運動の必要に真剣に応える態度から必然的に生まれたものであった。それは、資本主義の下では社会が成り立たなくなってきていることに対する、社会(人々)の自己維持営為の一つ、釜ヶ崎におけるそれとして見ることが出来る。
 今日、物的生産力が市場的限界に到達し、社会の欲求(目的)がこれまでのような「物」の豊かさから「人間」関係の豊かさに移行しだしており、社会が求め拡大していく新たな労働領域も利潤目的の資本にとって本質的に馴染みにくい・人々の相互の助け合いとして組織される環境保護・育児・学習支援・福祉・情報提供などへと移行している。そうした中で資本主義は、物的生産力の過剰が生み出す大量の失業者を新たな労働領域に十全には吸収できず、旧来の搾取領域での競争の途方もない激化と投機資本の肥大化という無間地獄に転落し、大失業時代を招来しているのである。
 この事態に対して労働者は各方面で、資本主義に対する批判を強めるとともに、社会が必要とする新たな労働領域において資本主義と異なる仕方での協働労働の組織化の模索を開始している。そして失業労働者、野宿労働者も、まさに生きるために迫られる形で、そうした事業の組織化に入り始めている。労働者は、社会の建て直しという大義を握り、その責任を引き受ける態度を獲得しだしているのである。これに対してブルジョア国家は、社会秩序を保つ見地から、労働者のこの動向を容認・援助せざるを得ないのであり、それらを政治的に統合しようと努めている訳である。
 こうした中で運動は、労働者の事業への国家的財政支援の拡大に道を開くことを、立法の一つの重要なの眼目としているのである。一部の人々のように、労働者の事業の発展が有するブルジョア階級支配を土台から掘り崩す可能性を見ず、国家の政治的統合力を過大視すると、立法の意義は見えなくなるのである。
 野宿労働者運動は、飛躍すべき場に入った。
 仲間作りもよし、反排除も大切。数年前には排除に抗する闘いは、野宿労働者運動全体の中心課題でもあった。しかし、排除に抗する大きな闘いがあり、政府の側も排除によっては問題の解決がないと認めざるを得ないところに来て、「自立支援」が中心課題となり、攻防はその在り方をめぐって展開されるようになる。野宿生活を守る闘いから野宿生活を打破する闘いへの、主戦場の移行である。立法問題は、この野宿生活を打破する闘いの中から浮上してきたのである。ところが未だに、主戦場の移行が理解できず、仲間作りや反排除の旗を掲げ野宿生活を守ることが運動の中心課題だとする活動家がいる。その人たちは、そもそも立法の必要を感じてないし、理解できないのである。だから立法に戸惑う。「法を作れというのは支配階級に手を貸すもの」と愚にもつかない「左」翼日和見主義の戯言をもって、立法の足引っ張りをやったりしているのである。
 われわれは、こうした戸惑いや足引っ張りに対して、議論を通してその克服に努めつつも、基本的には運動の飛躍による野宿労働者の圧倒的支持の獲得をもって決着づけていかねばならない。
  
  10・6中央総決起集会へ

 NPO釜ヶ崎、釜ヶ崎反失連、、新宿連絡会、池袋野宿者連絡会、神奈川全県夜回り・パトロールの会、NPO北九州ホームレス支援機構、野宿者・人権資料センターなどの運動団体は、衆議院議長に対する「野宿生活者自立支援法制定請願署名」(現在実施中)の趣旨説明の中で、立法に求める内容について以下の八項目にまとめている。
 (1)国の責任を明らかにし、事業実施に必要な費用の財政負担を明言する。(2)国が野宿生活者の自立支援事業と野宿生活者発生予防について基本方針を策定し、地方自治体が支援団体等と協議して実行計画を立てる。(3)地方自治体の実行計画とその実施状況について評価機関を設ける。(4)施策の目標を掲げる。(5)勤労意欲を維持・高揚するために、収入を伴う就労事業を組み込む。(6)メンタルケアを含む職業訓練制度を組み込む。(7)施策の活用は当事者の選択にゆだね、強制収容・強制排除を人道的見地より行わないことを明記する。(8)民間団体の能力活用・協同を盛り込む。
 この八項目は、民主党が本年の通常国会に上程した「ホームレスの自立の支援等に関する臨時措置法案」を推進する立場から提起されたものである。(1)(2)および(8)は、立法の骨格を成すものとして、既に法案の内に盛り込まれている。(3)評価機関、(4)目標設定は、法の着実な実行を促す仕組みが必要だという提案である。(5)就労事業、(6)職業訓練制度は、法案の目標に含まれていると見なせはするが、「第二失対はやらない」との政府の態度もある故、今日的な公的就労の保障を強調すべきという要請である。(7)強制収容の不可は、法案の精神に含まれるものではあるが、施策を強制収容の口実にさせることなく自立支援の実効を求める運動団体の立場から明記すべきという要請である。
 これら運動団体の態度は、全く正しい。労働者共産党は、民主党案を推進するこれら運動団体の態度を支持するものである。
 もっとも、「民主党案」とその国会提出は、立法実現への入口に過ぎない。国会通過のためには、自民党を含む超党派の合意が不可欠である。これも法案の中味に関わる大きな関門である。
 だが「超党派」を恐れる必要はない。この七月には失業率が五%になり、更に急増していく趨勢にある。そうした中で政府・支配階級の対策は、破綻先送り効果すら失った「公共事業」か、破綻拡大の「小泉構造改革」かであり、社会の破綻を克服する方向も方策も持たない。今日そうした方向と方策は、労働者・市民が共同して社会生活を再構築する運動の中にこそある。だからいかなる政党も、そうした運動を無視することは出来ない。大義の旗を立て、力を示し、精力的に働きかければ、それなりの立法を実現できるだろう。時代の流れわれわれの側にあるのだ。
 特別立法実現へ邁進しよう。