三中総・憲法闘争決議案
            

             憲法闘争についての党の政策  (=継続審議)

 一、日本国憲法の改悪をめぐる情勢の特徴
 1、国会に憲法調査会が設置され、諸政党やマスコミの改憲論が活発化し、とくに憲法「改正」あるいは見直しを主張する議会諸政党が国会両院で三分の二以上を占めている現状によって、戦後初めて、改憲が現実の日程にのぼりつつある。我われ労働者共産党は、この事態を重視し、日本社会主義革命をめざす立場から、憲法改悪阻止をはじめとする憲法闘争を重要課題としてたたかいぬく。
 2、改憲派の諸政党・諸勢力は、「国際協力」「21世紀への対応」「新しい人権」などの美辞麗句をかかげ、また種々の改憲諸点を挙げているが、その狙いの中心が第九条二項(戦力不保持・交戦権否認)の否定にあることは明らかである。種々の色合の違いをもつ改憲派は、九条改悪において、その足並みをさろえようと画策しつつある。また改憲派は、九条改悪を達成する以前において、安全保障基本法、緊急事態法などを制定し、集団的自衛権行使と戦争体制を立法的に合憲とする策動を強めている。改悪阻止の共同のたたかいは、憲法改悪に反対すると共に、これら有事立法の制定を阻止する課題に直面している。
 3、九条改悪の政治的本質は、自衛隊を戦力あるいは軍隊として憲法上明記し、国連等の軍事活動へのその参加を明記するなどの改定によって、日米安保体制の現段階に応じた「戦争のできる国家」を完成させること、またそれによって、米帝を主柱とした国際反革命同盟体制の中での日本帝国主義の地位を確保・強化しようとするものである。その階級的本質は、日帝ブルジョアジーが、米帝の世界支配に協調しつつ、その帝国主義的権益を維持・拡大しようとするものである。また、九条改悪をはじめとする改憲策動の全体的性格は、「戦争のできる国家」の国内体制を整備し、民主主義的権利を抑制し、天皇の外交元首化を明確にするなど総じて反動的なものに他ならない。
 4、反改憲勢力の現状は、全体的に劣勢であり、とくに労働運動の憲法闘争がきわめて弱いことが弱点となっている。社民党、日共などは反改憲派の諸政党であるが、社民党は自衛隊・安保を認める基本政策を維持しており、また日共も過渡的には安保容認・自衛隊「活用」の政策を取ることを表明するなど、憲法闘争の民主主義的次元においても重大な誤りをもっている。連合は、ナショナルセンターとしての憲法改悪反対運動を意識的に放棄しており、連合の現在の指導部は民主党多数派と共に改憲勢力に組している。現在、市民団体、文化人、宗教者などがこの運動の中心となっているが、これと連携した労働組合としての憲法闘争を発展させることが問われている。
 
 二、党の当面の基本方針
 5、党は、憲法の平和的・民主的条項を守り・現実に活かしていこうとする日本人民の運動を支持・支援し、憲法改悪反対の広範な共同戦線の形成を支持・支援する。党は、九条改悪の阻止で一致できるすべての諸政党・諸勢力の共同を支持する。党は、憲法改悪を実際に阻止するためには、これまで左翼諸派が経験してきたような狭い共同行動では到底用を成さないのであり、もっとも広範な共同戦線が構想され、実践されなければならないことを主張する。
 6、同時に党は、その広範な共同戦線の形成を支持・支援する中で、現行憲法の天皇制およびブルジョア憲法としての基本性格(ブルジョア議会制、資本主義的所有制度)に反対する左翼的勢力の独自的結集を支持し、推進する。党は、現行憲法の平和的・民主的条項を社会主義の実現へ向けて活用しようとするものであって、現行憲法を丸ごと肯定する「護憲」の立場に立つものではない。
 7、党は、憲法闘争での左翼の独自的結集を、共産主義者の団結・統合をすすめる党の建党路線と結びつけ、また労働運動の憲法闘争への取り組み強化を、労働者階級を中軸とした全人民の統一戦線の形成という党の基本的戦術と結びつけて、憲法闘争をたたかう。

 三、革命運動における憲法闘争の意義
 8、憲法改悪を阻止するたたかいは同時に、現行憲法が規定する民主的諸権利の完全な実現を求めるなど、民主主義闘争としての一般的意義をもっている。党と労働者階級は、民主主義を完全に実現する道が社会主義−共産主義の道にあることをふまえつつ、民主主義の先進闘士としての役割を果たさなければならない。
 9、憲法闘争は、国家体制および人民と国家の関係を規定する基本法をめぐる闘争であり、種々の民主的課題と違って、国家のあり方そのものを問う全人民的な政治闘争としての特別の性格をもっている。憲法闘争は、今後の攻防によっては、文字通りの全国民的な攻防へ発展する契機となる可能性をもっている。労働者階級は、憲法闘争を通じて、支配階級として組織されたプロレタリアートへ自己を高めあげるための政治的な階級形成を強化し、また全人民・全国民の指導階級として全人民の統一戦線をすすめる政治的能力を強化しなければならない。
 10、したがって憲法闘争は、日本革命が勝ちとるべき新しい国家体制についての、党と労働者階級の思想的・政治的準備の場としての意義をもっている。党は、憲法闘争を通じて、日本社会主義革命の基本構想を検討し、発展させなければならない。

 四、「憲法第九条」の継承・発展について
 11、現在の憲法闘争の攻防の焦点が第九条にあることをふまえ、党は、第九条について以下の見解に立つことを表明する。日本は主権国家として、国連憲章等ブルジョア国際法に言う自衛権を有するが、憲法第九条によって、国家の軍事力による自衛権を自ら放棄し、国軍を保持することを自ら禁止している。日本は第九条によって主権の一部を自ら放棄し、国際社会の公正と信義にその安全保障を委ねている。しかしまた第九条は、侵略者に対する国民的抵抗の権利を国民から奪っているものではない。反侵略国民抵抗とそれを指導する政府の行為は、国際社会からは正当な自衛権の行使として支持されるであろう。
 12、党は、こうした内容としての第九条を、現在と将来にわたって継承し、さらに発展させるという立場に立つ。日本は第九条および憲法前文において国際社会の協調と対等関係による恒久平和を唱えたが、もちろん、国際連合をはじめとする現実の国際社会は、いぜんとして帝国主義、覇権主義と搾取階級の野蛮が横行する国際社会であって、この第九条の理想は現在的には幻想的性格をもっている。しかし、第九条の理想は、帝国主義と搾取階級が全世界的に覆されるであろう21世紀には現実的性格をもってくる。この世界革命の途上において、日本の社会主義国家は、国軍あるいは正規軍を組織することなく、全世界人民の連帯への依拠と日本人民の武装および革命的外交とによってその安全保障を保つことを追求する。国際労働運動の新たな発展、日本人民と世界人民の平和闘争・反帝闘争の強大な発展は、それを充分に可能とする。そして、労働者階級・人民の全世界的な勝利は、各主権国家が自衛権の名の下に軍隊を突き合わせているという人類史の幼稚な段階に終えんを告げる。世界プロレタリアート独裁の勝利は、全世界人民の連帯した協同社会をめざして、各国プロレタリアート独裁の国家主権を止揚していく過程に入る。「第九条」を持つ日本は、その先進例として、この過程に合流するであろう。
 13、以上のように、第九条を継承・発展するという党の立場は、当面の憲法闘争のうえでの便宜的なものではなく、また小ブルジョア平和主義的幻想にもとづくものでもない。それは、世界共産主義革命の綱領路線を堅持しつつ、「平和憲法」の存在という日本の革命の具体的条件に適合した、党の革命的政策である。

 五、将来の日本の憲法についての党の展望
 14、日本の社会主義革命は、新憲法の制定を必要とする。党は、現行憲法でも社会主義が実現できるとする社会民主主義者の立場や、現行憲法のブルジョア議会制は社会主義にも継承されるなどとする現代修正主義者の立場に明確に反対する。日本の社会主義革命の勝利によって、基本法の階級的本質は、ブルジョア階級独裁の基本法からプロレタリア階級独裁の基本法へ革命的に転換する。その基本法の諸内容においては、新しい憲法が現行憲法から否定するものは、天皇制、資本財の私有財産権、国会制度などであり、現行憲法から発展的に継承するものは、平和主義、主権在民、基本的人権、地方自治などである。
 15、当面の憲法闘争において、新しい憲法の制定あるいは現行憲法の全面的改正の要求それ自体は、現在的課題なのではない。その課題は、社会主義をめざす全人民の統一戦線の形成・発展とともに、統一戦線の基本的要求として将来具体的なものになってくるであろう。党は、将来の新しい日本の憲法についての展望を堅持しつつ、現在の憲法闘争をたたかっていく。
                                                  
                               以上


解説

 「継続審議」の憲法決議案 ―その論争について

                                    (編集部)


三中総で「継続審議」となった「憲法闘争決議案」を公表すると同時に、その原案に対する対案・修正案・意見書などの要点を紹介する。わが党内の討論を発展させると共に、党外の皆さんからもご意見・ご批判をいただき、より良き決議案としていきたい。
論争点の主なものは、相互に関連するが二つの領域を巡るもので、一つはブルジョア民主主義とプロレタリア革命の関係についてであり、一つは「憲法第九条」についての党の態度・政策についてであった。
M同志の意見書は、原案は「致命的な誤りを基調として」おり、「過去のプロレタリア独裁の否定的総括の上に、マルクス・レーニン主義の基本的立場、ブルジョア民主主義に対する革命的批判とプロレタリア国際主義を見失っている」とし、対案的立場を表明した。その具体例としては、原案での「現行憲法から発展的に継承するものは、平和主義、主権在民、基本的人権、地方自治などである」等の箇所について、「ブルジョア民主主義の階級的性格を暴くことに失敗しており、あたかも『純粋民主主義』の見地からの展開となってしまっている」と批判した。
これに対し、原案提案者の中央の諸同志からは、プロレタリア民主主義はブルジョア民主主義の歴史的継承・発展である、ブルジョア議会など支配制度としての民主主義制度はその否定を明記している、M同志はソ連などの「プロ独」の弱点を反省的に総括できていない、などの反批判があった。
原案の「四、『憲法第九条』の継承・発展について」の部分には、対案と多くの修正案が出された。
S同志の対案は、「…第九条の理想は現在的には幻想的性格をもっている。この現実のもとでは、生れ出た日本の社会主義国家は、一時的には革命政府のもとに正規軍を組織し、新生社会主義国家を防衛する任務を果たさなければならない」とするものであった。この対案は、国軍と近代主権国家の止揚という原案の基調に賛成するものの、正規軍の一時的必要を明記せよ、とする立場であった。
これに対し、そうした必要が生じる場合も否定できないが、大事なことは正規軍なき社会主義日本を「追求」するという姿勢にあるなどの反批判があった。
またこの論議に関しては、「ここでは『日本の社会主義国家』の安全保障しか語られておらず、プロレタリア国際主義の内実を空虚なものとしてしまっている」(M同志)との批判や、原案が「侵略者に対する国民的抵抗の権利」を語ることに対しての、戦争に対するレーニン主義的見地からの批判・疑問も出された。
「第九条」をどう評価するか、という点でも多くの意見が出された。
N同志の修正案は、「第九条を正反両側面において正しく把握し、否定的側面を批判、肯定的側面を継承発展させる立場に立たねばならない」とし、第九条の否定的側面は「アメリカ帝国主義を主柱とする国際反革命同盟体制下の民主主義的な国際平和を良しとする政治に主として立脚し形成されたこと」であり、冷戦後の世界においても、この「第九条を生み出した政治との闘い」が重要となっているとするものであった。このN同志の修正案は、第九条の肯定的側面については「戦力不保持・交戦権否認」の条文そのものであるとし、原案の基調を補足する立場であった。
以上、主要な論争点のみをごく簡単に紹介したが、これらの論争が憲法改悪反対闘争への取り組みにおいて、また社会主義日本の展望において、左翼にとって広く有益なものとなるよう期待したい。