小泉「改革」は、雇用破壊・失業を推進する

雇用を守り雇用を創る闘いへ

 小泉政権は、バブル崩壊以降の経済的閉塞状態の打破をもとめる大衆的圧力を利用しつつ、構造改革を一気に促進しようとしている。ケインズ主義的利益誘導型統治システムは、沈黙を強いられている政治状況にある。失業者の増大と雇用の不安定化は、九〇年代初頭以降の趨勢になっている訳だが、小泉政権がもたらすその飛躍的進行を見定め、大失業時代の闘い方を確立していかなければならない。

 「構造改革」と「セーフティネット」

 小泉政権は、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」と主張し、利益誘導型統治システムへの大規模な財政注入を継続して破綻した小渕―森政権の路線からの転換を策している。その基本路線は、大規模な首切り・失業の促進、新産業の育成、セイフティーネットの形成である。
 この政権の下で、労働者階級の失業部分は確実に増大していく。
 現在失業労働者の人数は、ハローワークに仕事をさがしにいく「完全失業者」だけで三百四十八万人(本年四月)である。その上に、従来型公共事業の削減が建設現場から百万人を超える労働者を加えるだろう。不良債権の処理も、中小企業の倒産を引き起こし、百万人を超える失業者を排出すると言われている。耐久消費財産業をはじめ物を生産する産業領域総体で、資本のリストラ攻撃が進行している。経済財政諮問会議の雇用拡大専門調査会がこの五月にまとめた緊急報告で、サービス産業を伸ばし五年間で五百三十万人の雇用を創出するとしていることからも、国家と資本の生み出そうとしている失業者数が相当のレベルになると見ておかねばならない。失業労働者の増大は、その基底に野宿を余儀なくされる層を生み出した。この層は、現在三万人に達している。
 労働者階級の就労部分では、非正規雇用が増大し、主要な雇用形態になっていく。
 雇用労働者全体に占めるパート・派遣などの非正規雇用の比率は、九〇年の十五%から現在では二十七%前後にまで高まってきている。この趨勢は、小泉政権の下で政策的に一段と加速されようとしている。小泉首相は、終身雇用制度の抜本的見直し―二、三年の期限付き有期雇用制度の対象業種の拡大と解雇ルールの明確化―を厚生労働省に検討するよう打診した。民間大企業の中核的労働者をも不安定雇用化し、解雇しやすくしようというのである。「公務員制度改革」についても小泉政権は、この六月に新たな公務員制度の「基本設計」をとりまとめ、法改正作業を早急にスタートさせるとしている。その中味は、年功序列的な職務給・号俸による昇給の廃止、能力主義・業績主義的人事制度への転換である。労働基本権を制約したまま、管理を強化するものとなっている。これは、労働基本権の賦与と引き換えに政府が解雇権を手にする展望の中に位置付けられており、そうした脈絡の中で、公務員人事制度のこうした転換をするのなら「争議権まで認めるかどうかは別として交渉権、協約締結権を認めないといけない」との自民党行政改革推進本部長の太田の発言も出てきている訳である。
 小泉政権が、労働者の大量的な首切り・失業をテコに、まさに資本主義的な仕方で促進せんとしているのが、産業構造の転換である。
 この産業構造の転換は、前記した経済財政諮問会議の雇用拡大専門調査会の緊急報告や産業構造改革・雇用対策本部の提案が示しているように、物を生産する領域をリストラし、情報サービス、労働力再生産関連サービス、環境サービスを推進軸とする経済構造を構築する方向において展開される。資本が展開するこの方向自体は、物的生産が市場で飽和した地平において社会が求める必然の方向ではある。ただ、規制緩和と国家的支援で広く開かれる資本の新たな展開領域は、利潤を目的とする活動になじまない領域もある。そのためブルジョア階級は、新たな領域での資本主義的雇用の創出の限界を認識し、「NPO(非営利組織)の育成」を唱え、雇用創出プランの内にも位置付け、この組織に利潤を目的とする企業活動の補完、社会秩序を維持する国家行政の補完を期待せざるをえなくなっているのである。このような現実は、新産業の勃興で失業者が大規模に吸収されるというこれまでの経験が通用しなくなっていることを意味してもいる。
 小泉政権の構造改革路線は、大失業・雇用不安の犠牲を労働者に強制し、しかも問題を解決する展望を持たない。そこで「セイフティーネット」の構築が不可欠になってくる訳である。もちろん治安維持の見地からであるが。
 現行のセイフティーネットは、失業給付等、最終的には生活保護であり、生活費の支給が基軸である。生活保護の場合は、経済的自立の活動(就労)を制約する仕組みになっている。こうした現行のセイフティーネットは、大失業時代には、労働者にとって自立への展望が持てないシステムであり、支配階級にとっても財政的・政治的に維持困難になる。問われるセイフティーネットは、失業労働者がこれからの社会の必要とする労働領域で能力に応じて働くことを可能にするシステムであり、仕事そのものの開拓と能力開発事業を基軸に据え・生活保障を併せ持つシステムであるだろう。新時代のセイフティーネットは、構想としても未だ流動的である。それは、野宿労働者の運動の発展と「野宿生活者自立支援の特別法」制定をめぐる攻防を一規定要因としつつ、一定の形を成してくるに違いない。 
 雇用が近く増える見込みがなく、「セイフティーネット」も構想としてさえ流動的だという状況の中で日経連会長の奥田は五月十七日、つなぎとしての時限的な公的雇用創出事業の必要、警察官、教員、看護婦、税務署員などの公的雇用増、等を提言した。不良債権の処理が生み出すであろう大量的失業への危機意識からの、また大企業の雇用責任を棚上げしたところからする提言であるが、こうした路線的動揺はおきざるをえないだろう。
 
    当面する反失業闘争の闘争方向

 大失業時代の反失業闘争の闘い方は、当面次の三点において確認しておく必要がある。
 第一は、労働者自身の闘いと団結に立脚することである。
 労働者自身の反失業闘争といっても、失業部分の雇用保障を要求する闘いと就業部分の解雇反対・撤回を要求するの闘いとがある。労働者階級の失業部分と就業部分は、資本主義の経済システムによって対立関係を強いられており、この関係を超えて団結を闘い取ることは、歴史的大事業である。だが大失業時代の到来が、両部分の間の垣根を低くした。今や失業の運命は、個人の責任だとか等々例外状態だいうことがいえない日常的事象となっている。就業部分の側も、多くが非正規雇用化し、簡単に解雇され失業する地位に落とし込められ、少なからぬ部分が半ば失業状態に置かれていく。大企業の本工や公務員労働者といえども、その地位が脅かされる時代である。失業労働者とその運動を蔑視するブルジョアイデオロギー(左翼の間にも根深い!)を克服し、階級的団結を闘い取っていかねばならない。当面の主要課題は、失業労働者自身の闘いを組織することであり、就業部分の側では非正規雇用労働者を組織できる労働運動を発展させることであるだろう。
 第二は、闘いと結びつけて、労働者による事業(NPOなど)を大胆に組織し拡大していくことである。
 大失業時代の反失業闘争は、要求を掲げ闘うだけでは成り立たない。それは、野宿労働者の運動であろうと、中小企業の倒産争議であろうと、国鉄闘争団の闘いであろうと同じである。多くの場合事業の組織化が不可欠なのである。この時代には、利潤を目的とする活動になじまない労働領域が広がっていく。ブルジョア国家は、社会秩序を維持する見地と財政事情からだが、失業労働者の事業展開を承認し、援助せざるを得なくなっていく。われわれは、この時代状況を能動的に捉えねばならない。時代の可能性を汲み尽くそうとせず、自己の「革命的」観念を満足させるために、労働者の現在の生活の改善と未来の解放とを併せて台無しにするような態度は、速やかに克服されねばならない。
 もとよりそこでは、労働者の闘争力量に依拠して、運動の発展と事業(NPOなど)をしっかり結びつけていく不断の努力が求められる。
 第三は、地域統一戦線と地域社会づくりを重視することである。
 失業労働者の非営利事業は、人にやさしく環境にやさしい地域社会づくりとリンクすることで、政治的・社会的な発展の条件を獲得できる。それは、地域的統一戦線を発展させ、運動の勝利的前進を支える。反失業闘争は、闘争課題の一致からだけでない統一戦線建設の道を開く。発想の転換を問うものである。