個別紛争処理法案

 百害あって一利なし


「個別紛争処理法案」に反対する労働組合の共同行動が、四月から開始されている。
政府は二月末に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律案」を閣議決定し、今国会に提出した。この個別紛争処理法案は、激増する個別労使紛争を迅速・適正に解決するというふれこみで、都道府県労働局長の下に、「情報提供・相談」「指導及び助言」「紛争調停委員会によるあっせん」の三つの機能を創設するというものである。
しかし、この法案の中身では「当事者である労働者一人ひとりの立場にたった相談・解決システムとは到底いえません。むしろ、私たち労働組合が積み重ねてきた労働相談活動や団体交渉を妨げる役割すら果たしかねません」、また「むしろ企業のリストラ促進にお墨付きを与える役割すら果たしかねません」として、全国七十八労組が四月初旬、法案反対の共同アピールを発した。四月五日には、この共同アピール参加の諸労組によって国会で緊急集会が開かれ、衆参の厚生労働委員会の所属議員への要請行動が行なわれた。
個別紛争処理法案はその施行を今年十月一日としており、審議入りは、五月下旬から六月とみられている。コミュニティ・ユニオン全国ネットの諸ユニオンや全日建連帯、全港湾などが進めているこの共同行動では、「政府法案は百害あって一利なし」として廃案を要求している。
法案の中身を見てみると、「情報提供・相談」では、全国二五〇ヵ所の「相談センター」に五七二人配置するという「総合労働相談員」なるものの役割と資質が疑問である。企業の労務担当経験者や社会保険労務士などが採用される模様であり、力関係がきわめて弱い立場にある個人の労働者に適切なアドバイスができそうにはない。
「指導及び助言」では、各労働局に一〜二名の紛争担当職員を置くとするが、その実効性が疑問である。この担当職員は、現行の労働基準監督官が労働基準を守らせるために持っている権限(それも全く不十分にしか行使されていないが)を持っていない。
「紛争調停委員会によるあっせん」は、さらに実効性を欠いている。当事者の一方が(会社側が)不参加の意思を示せば、あっせん打ち切りとなるというのだから話にならない。この紛争調停委員会は学識経験者で構成されるそうで、労働委員会の労働・使用者・公益委員とは違っている。現行の地労委のあっせん案なども強制力はないが、不当労働行為の是正命令はできる。紛争調停委員会なるものは、あっせん案が出せてもそれ以上は何もできない。
こうした中身では、相談・あっせんを持ち込んだ労働者を愚弄する新機関であるだけで、税金のむだづかいである。個別紛争処理法案反対の共同行動は法案に反対すると共に、あるべき個別紛争解決システムの整備について、労働者が利用しやすい労働裁判所の新設、労働契約法制の整備などを要求している。
個別紛争が増えている大きな要因の一つは、これまでの企業別労組が労働組合として果たすべき機能を果たせなくなっているからであるが、この状況は、企業別でない個人個人が結集するユニオン型労組の前進によって、いわゆる個別紛争としてではなく新しい労働運動として状況の進展がすすむべきものと考えられる。げんざいの個別紛争処理法案反対闘争を通じて、新しい労働運動の前進をすすめよう。(A)