内外の批判を無視し、「つくる会」教科書検定合格へ

   使わせるな反動教科書


「戦後の歴史教育は自虐史観に塗り潰されている」と主張する藤岡信勝(東大)らの『自由主義史観研究会』を母体として、自民党や財界の右派が結集する「新しい歴史教科書をつくる会」(会長西尾幹二・電気通信大)は、昨年、中学校社会科の歴史教科書と公民教科書の検定を申請したが、この二つの教科書は、三月中にも修正を受け入れて合格することが明らかとなっている。
今年五月から教科書の採択が始まるが、来年四月からは生徒がこの教科書で実際に学習させられようとしているのである。

「修正」が入っても侵略正当化変わらず

歴史教科書では、文部科学省側が百三十七ヵ所にわたる検定意見をつけ、「つくる会」はすべての部分で修正に応じている。文部科学省は内外の批判を無視し、このことをもって合格とせんとしている。
「つくる会」の歴史教科書は、「神武天皇の進んだとされるルート」を地図入りで示すとともに、「神武天皇即位の日」を「太陽暦になおしたものが二月十一日の建国記念日」とする等、神話をあたかも事実であるかのように記している。その他にも学問的検証に耐えられない記述、社会科学とは無縁の記述が各所に見られる。
また近現代史にかかわっては、「韓国併合は、国際関係の原則にのっとり、合法的に行なわれた」とか、「『大東亜戦争』はアジアの解放のための戦争であった」とし、「『大東亜共同宣言(一九四三年)は、国連総会の『植民地独立付与宣言』(一九六〇)と同趣旨である」と述べる等、歴史研究の成果を踏まえず、国際認識からもかけ離れた記述になっている。
南京大虐殺についても、「南京事件」とし、「戦争中だからなにがしかの殺害があったとしても、ホロコーストのような種類のものではない」等と述べて事実をあいまいにし、虐殺を容認しているのである。神風特攻隊を「日本のために犠牲になる事をあえていとわなかった」とする表現も、若者を著者らがよしとする国家体制のために戦場に送り込もうとする許すことのできない記述である。
百三十七ヵ所のうち百ヵ所ほどは近現代にかかわるこれらの箇所の修正であるが、いかに言い換えようとも反動的な内容は変わることはない。事実、西尾会長は、「個別的な修正は受け入れたが、考え方そのものは残っている」と豪語しているのである。
公民教科書についても、「核兵器廃絶は絶対の正義か」と題して、「核兵器廃絶を絶対の正義とするのは、その廃絶法に違反するものはいないと想定しているという意味で、人間を性善なるものと安易にみなしているのではないだろうか」などというコラムを載せ、被爆者団体等の批判を招いている。核武装を容認しているのである。
そればかりではない。かれらは憲法については、「憲法と自衛隊の実態が整合しておらず、憲法の改正が強く主張されている」と述べ、改憲さえも提案している。また、随所に「立憲君主国」が現在の日本だとする記述が見られるが、その意図は、天皇制イデオロギー の下に改憲と侵略戦争のできる国家とを実現することである。
公民教科書ではその申請に対して、教育図書検定調査会は九十九ヵ所の検定意見を付けて修正を求め、「つくる会」はすべての修正に応じている。しかし、前述の核兵器については、「核兵器廃絶という理想を考える」と題を変えただけで基調は何ら変わっていない。憲法についても、「一度も改正されたことがない」等と書き改めているが改憲の主張を変化させるものではない。

地域・学校から不採択の運動を

「つくる会」は、自らの教科書を採択させるために、今回は約十万冊以上の採択に向けて異常なほどのキャンペーンを繰り広げている。かれらは地方議会では、教職員の教科書調査・研究・選定への関与を違法とする陳情・請願運動を精力的に行ない、教職員を排除して「教育委員会の専権」で採択をさせようと画策しているのである。政・学・財界と組んで豊富な資金を使って攻撃を強め、産経新聞などでキャンペーンを繰り広げている。実は、「つくる会」教科書の出版社の扶桑社は、産経新聞の子会社なのである。
そして見落としてならないのは、「つくる会」教科書に触発され、他七社の教科書も改悪されてきていることである。戦争中の日本の加害行為の記述が大幅に減ってきている。軍隊慰安婦についても七社中三社が全く触れず、「慰安婦」という言葉を使ったのは取り上げた四社中一社だけであった。南京大虐殺についても、四社が被害者数を示さず、七社中二社は「南京事件」と記している。教科書の反動化が広がっている。
今や、各地域、地方議会、採択区が闘いの場となってきている。三月十六日には大江健三郎氏ら学者・文化人による「つくる会教科書」批判の共同声明が出されるなど、教科書問題での危機感は高まりつつあるが、反動教科書を採択させない・使わせない運動を全国で各地域で推し進める必要がある。教育労働者はそうした運動の先頭に立つとともに、現場では一人ひとりが自主的な教材を使って授業を進める必要がある。
韓国や中国などアジアの国々からの抗議が高まっている。韓国では、「『つくる会』の教科書は事実を歪曲している。内容が是正されるまで、日本大衆文化に対する門戸開放を全面的に再検討する」という国会決議がなされた。中国政府の唐外交部長は三月六日、「日本の教科書問題は、その実質は非常に簡単なもので、つまり日本は過去の侵略の歴史を正しく認識し対処できるか否か、実際行動でアジア近隣諸国の信頼を得ることができるか否か、平和・発展の道を今後も進もうと考えているか否かと言うことだ」と抗議し、日本政府の対応を強く求めた。
私たち労働者・市民は、「つくる会」教科書を糾弾し、その採択をさせないことが、アジアの人々との信頼を勝ち取ることでもあることをふまえ、地域から行動に立ち上がろう。

                        (教育労働者O)