長年の開発主義・千葉県政の延長

  干潟との共生、循環型社会を


首都圏における最後にして最大の「開発事業」と言われている、東京湾最深部、千葉県の三番瀬(さんばんぜ)の埋め立て計画の是非が注目を集めている。
一月十二日、川口順子環境相は、船橋市側の三番瀬を視察し、千葉県の埋め立ての推進計画に全面的見直しを求める発言をおこなった。「事業の必要性について、必ずしも納得できない」との川口環境相の意見に対して、事業側の千葉県企業庁は、「見直し計画案(昨年二月策定)は、環境に十分に配慮した。環境会議(千葉県知事の諮問機関)の見解を待って事業に取り組む」と埋め立て推進の意向を強調した。

  検討委の報告書概要


この環境会議の下部組織として審議してきた県環境調整検討委員会は、十五日までに報告書案をまとめ、一月二十五日に環境会議に提出した。報告書の概要は、次の二項目を中心としている。

  [事業実施に伴う周辺環境への影響]
 (1)三番瀬の面積減少などが生態系に与える影響の検討
◇鳥類や底生生物への影響を回避するため工事前、中、終了後における十分なモニタリング調査と水鳥類の行動に関する情報収集を実施し、結果に応じて環境保全対策を講じる ◇環境影響評価の実施まで年数がかかる場合は、変化確認の中間調査を実施
◇道路建設による水鳥類への影響は、道路構造の決定前から人口構造物に対する移動特性の調査研究
◇埋め立ての影響が集中すると考えられる猫実川(ねこざねがわ)河口部(市川市側最西部、浦安市と隣接)の泥質域は環境の保全に努める
 (2)船橋側の)京葉湾周辺に発する青潮の生物への影響の検討
 (3)人工海浜造成の必要性の精査をする。設計は地元関係者や専門家の助言・指導の下に進める
[土地利用の必要性]
三番瀬の一部を埋め立ててまでも実施しなければならない必要最小限のものであるか、精査して事業計画を作成する必要がある
◇街づくり支援用地は現在、検討中の基本的な考え方を踏まえて必要性精査
◇下水道終末処理場の規模算定には、処理人口と処理技術の将来見通しを精査するとともに、下水道整備の考え方の変化に対しても埋め立てを伴う計画が必要であるかを示す
◇第二湾岸道路の構造決定には、問題点を整理し、土地利用とのかかわりを十分配慮する
◇公園緑地は必要最小限とするよう検討

川口環境相の全面見直し発言から大きく後退したこの環境調整検討委員会の報告書に対して、埋め立て計画の全面的見直しを訴え続けてきた地元の市民団体は、「県はまだ土地利用の必要性を吟味できていない」と指摘し、また検討委は猫実川河口部の保全を認めている以上、三番瀬全体の保全を求めるとして、県知事沼田と県環境会議に要望書を提出した。
千葉県内における三番瀬保全の運動は、地元の環境保護運動の団体が、革新無所属議員や環境保護派、社民党、一部の民主党の地方自治体議員と共に研究会を作り、議会での要請、署名街頭活動などをして広く訴えている。それとともに三番瀬現地調査活動の訴えも行っている。
では三番瀬と「三番瀬埋め立て計画」の概要を明らかにしておく必要があるだろう。
東京湾では、木更津沖の盤洲(ばんず)干潟とともに最後に残った干潟が三番瀬であり、三番瀬も京葉工業地帯の工場用地のため多くの干潟が埋め立てられ、現在は市川市側ではコンクリートによる垂直護岸(昨年一部が崩壊した)がある部分と船橋側の人工の砂浜がある部分などが残されている。
東京湾は、旧来泥質部分を含む浅瀬の干潟が多く。葦などが茂り、鳥や稚魚の宝庫と言えた。しかしながら浅瀬ゆえに、江戸時代より埋め立ての対象となり、近現代の自然環境を無視した開発により、東京沖に作られた人工都市のごとく、海の汚染を防ぐ手立ては講じてこなかったのである。
だが三番瀬に残された泥質域を含む干潟は、東京湾の浄化のみならず、稚魚の育成により神奈川県沖での漁業を可能とし、更に微生物から魚介類、シギ・チドリなどの水鳥へと自然の食物連鎖により、渡り鳥の重要な飛来地となっている。

  埋め立てで二つの「公共事業」狙う


昨年二月に、七百四十ヘクタールから百一ヘクタールへの埋め立て縮小案を千葉県は発表したが、これさえも当初計画から工業用地と住宅用地を縮小したにすぎず、埋め立てに伴う「第二湾岸道路計画」と「下水道終末処理場計画」はそのまま残されていた(こちらの方が主要であったのではないだろうか)。
第二湾岸道路計画は、三番瀬より内陸部にある湾岸道路が渋滞状態にあると、その必要性を県側が主張しているが、湾岸道路の千葉県側での渋滞にみまわれるのはごく稀と言える状態なのだ。更には都知事石原が全線開通を力説する外環状道路は、第二道路とつながるように計画されている。石原や千葉県知事沼田は、詭弁を弄して住民無視の高速道路貫通を計ろうとしている。千葉県は歴代の保守開発県政が続き、三里塚空港や幕張メッセ、干潟埋め立てによる京葉工業地帯こそがその象徴といえるのだ。
また下水道終末処理場計画は、東京都に隣接する江戸川左岸流域八市一町の下水道計画の一環である。しかし全国で批判の対象となっている流域下水道計画は、地域循環型社会作りとは裏腹に地域に水を循環させるのではなく、地域から水を枯渇させてしまうのだ。そのためにも大規模な流域下水道計画ではなく、地域に水を還流することのできる合併浄化槽への支援が合理的といえる。
しかしながらこの二つの計画は、旧建設省が全国でインフラ整備として公共投資増大の対米約束のもとで大規模に進められてきたものであるが、ここにきて全面的な見直しの機運が出てきている。
この三月には千葉県知事選がおこなわれ、三番瀬問題は争点の一つとなるだろう。しかしながら、市民側が民主党などと候補者を出そうという動きは統一が出来ず、県政与党の自民党も分裂をし、混迷を深めている。三番瀬などの開発行政に反対し、自然の保全と生きものとの共生実現の闘いを幅広く強化し、知事選に勝利しよう。 (K)