ブッシュ新政権 米国人民の批判の中で発足

  「力の共有」へ日米再編策す


一月二十日、共和党のジョージ・ブッシュがアメリカ新大統領に就任した。ブッシュ新政権の内政・外交、とくに対日政策と沖縄米軍基地政策について、とりあえずの検討をしてみよう。
昨年十一月の大統領選挙の一次投票以降、民主党ゴア候補との大接戦によって延々と票集計騒ぎが続けられたうえでの決着であったが、このゴタゴタは、ブッシュが有権者の得票をゴアよりも一%少ない約四八%しか取れなかったことが、基本的背景としてあった。アメリカ市民運動の伝統的存在であるラルフ・ネーダーが約三%を得票しているが、もしネーダーが立候補しなかったらゴアが楽勝していたことは確かである。
ワシントンでの大統領就任式では、約二万人の市民が全米から集まり、ブッシュは国民を代表していないとして抗議行動を起こしている。就任式に大規模な抗議がぶつけられるのは珍しいことで、ニクソンの就任時以来といわれる。その抗議集会には、プエルトリコ・ビエケス島の米軍基地撤去を要求する人々も結集している。
共和党であれ民主党であれ、その大統領が、内政ではアメリカ独占資本に奉仕し、外交では、日欧を束ねる帝国主義の主柱として覇権的な世界政策をすすめるものであることには、何ら変わりはない。しかし、七年ぶりのこの共和党政権が、前クリントン民主党政権の発足時と比べるまでもなく、大衆的支持がかってなく弱い政権であることは見ておく価値があるだろう。
新政権の金持ち減税策や保守的諸政策も不人気であるが、そのうえ、世紀末に続いてきたアメリカのIT景気も終わりを迎え、米国でも大企業のリストラが再び始まっている。バブルがはじけて株価が下がれば、日本と違って貯金の代わりに株保有というのが一般的な米国では、大衆生活を直撃する。破産する人々が増加し、失業者が再び増加してくるだろう。これまでの好景気で貧富の格差は充分拡大した。これからどうなるのか、アメリカ合衆国の労働運動・市民運動がどう前進するのか、注目しておくべき一つだろう。

  新政権のグローバリズムと国益主義


さて、ブッシュ新大統領はその就任演説で、「二十世紀の大半を通じて、米国の信じる自由と民主主義は……多くの国に根付きつつある」と独善的に述べつつ、「自由に敵対し、米国に敵対する勢力は誤解してはならない。米国は世界に関与し続ける。」と強調した。
彼がわざわざこう語るのは、共和党の保守主義は対外政策においては、前政権よりも内向きになるだろうという一般の観測があるからだ。たしかに新政権では、地域介入の戦争発動を含めた国際秩序づくりを主導する決定において、米国の国益にかなっているかどうか、という尺度がより強調されるようになっている。
共和党と民主党の大きな政策での明白な違いは、共和党が、包括的核実験禁止条約は時代遅れであり核拡散阻止にも役立たないとし、弾道弾迎撃ミサイル制限条約を脱退してでも本土ミサイル防衛を配備するとしている点である。それが技術的に可能かどうかという前に、軍需産業の要望と「祖国防衛」というスローガンが優先しているのである。
こうしたことからブッシュ新政権には、世界経済の統合化を先頭ですすめながら、そのグローバリズムを前提としたうえでの、新たなナショナリズムというべきものが感じられるのである。
対中国政策でも、一定の変化が表明されている。中国は米国の「戦略的パートナー」ではなく「戦略的競争相手」であるとする。米国と同盟関係を結んでおらず、かつ核武装国である大国がロシア、中国、インドとユーラシア大陸には連なっているが、ソ連軍事ブロックの崩壊以降、アメリカ帝国主義はその前方展開を続ける根拠を、この対ユーラシア政策に求めるようになってきている。朝鮮半島や台湾海峡だけではないというわけである。
朝鮮半島政策では、クリントン政権下での朝鮮民主主義人民共和国との関係進展を否定するものではないが、米朝関係の正常化はよりゆっくり進めていくという方針を、パウエル国務長官が表明している。これは、北朝鮮との関係正常化はバスに乗り遅れろ、という日本政府の反動的方針を助けるものとなっている。
しかし、北朝鮮はすでに主要な西側諸国と次々と国交を樹立する過程に入っており、また、「改革・開放」政策への転換(それは韓国資本を優先させるものになるだろうが)も準備されているようである。米・日がこの流れを阻止し、北朝鮮を封じ込めるなどということは最早できないはずである。

  日本に集団的自衛権行使の解禁を要求


ブッシュ新政権の対日政策と沖縄米軍基地政策は、どうなるのだろうか。これが、我われ日本の運動にとっては当面の焦点である。
昨年十月にアーミテージ元国防次官補らが作った対日政策提言『米国と日本、成熟したパートナーシップへの前進』は、日本と沖縄で大いに注目された。共和党のアーミテージは、新政権で国務副長官に就いている。
その提言では第一に、「集団的自衛権の行使を日本が自ら禁止していることは、同盟協力の制約となっている」とし、この禁止の解除を「歓迎する」としている。このことを、日本が「負担の分担から力を共有する時が来た」と表現している。そして具体的には、日本に対し、有事法制の制定、自衛隊側の役割・任務の見直し、PKF参加凍結の解除などを求めている。
また提言は第二に、沖縄基地政策で、「SACO合意は、整理・統合・縮小に加えて第四の目標を持つべきだ。それはアジア太平洋全域に及ぶ分散化だ」と明言している。米軍の「プレゼンスを持続可能」にするためには「沖縄県民の負担を軽減することが不可欠だ」と述べ、在沖米軍の「分散」の対象が「海兵隊の部隊展開と訓練実施」にあることを明言している。
この提言が、もしブッシュ新政権の政策として採用されるならば、安保と沖縄が連動した形でかなりの変化が予想されるのである。
一月十七日、アーミテージは訪米した自民党の山崎拓に、「集団的自衛権を行使できるようになることを望む」と要望した。(山崎は、その行使は「周辺事態に限るべきだ」と返答した。これは周辺事態法の実際を暴露した返答だが、もちろん違憲発言である。)
一月二六日、パウエル国務長官は訪米した河野外相に、「米軍が沖縄の人々にとって最小限の生活の妨げとなるようにしたい」と述べた。「妨げ」の程度を下げたい、としている。

  沖縄の「負担軽減」とは

沖縄のメディアでは、ブッシュ新政権での基地政策の変化を期待する向きが大きいようだ。沖縄米兵の犯罪がまたもや相次いでいる。一月十五日、名護市の臨時市議会は「海兵隊削減」を求める抗議決議を全会一致であげ、同十九日には臨時県議会が海兵隊を含む兵力削減を求める抗議決議を、初めて保革で一致して可決している。
沖縄の反基地運動にとって、在沖米軍をどこへではあれ分散・削減させることは、たたかいの一定の成果であると言うことはできるだろう。しかし、その「分散」は、アメリカにとっては、あくまでアジア太平洋地域での前方展開を維持し、軍事的要石としての沖縄基地を維持するための一つの方策であるにすぎない。そして、その代わりとして、日本軍=自衛隊により前方に出てきてもらおうということになっている。
アーミテージらが言うところの「負担の分担」から「力の共有」というのは、日米安保に明白な変更を要求するものである。日本軍が、米軍基地を含む日本領域が攻撃されなくても、米軍が戦闘下にあれば日本領域の外のどににおいてでも、戦争ができるようになること、このことを米国が容認し、求めてすらいることになる。日本での平和憲法改悪策動の激化、有事立法制定に着手するとの首相施政方針演説、次期防での新装備(軽空母的大型艦船や空中給油機の導入)、これらが米国側の動きと符丁を合わせている。
これは、日本軍の対米自立化ではない。周辺事態法と日米ガイドライン安保の効力を完全なものにするための、日本軍の本格的な同盟軍化である。
那覇市政が昨年十一月、保守に奪われたが、それからの顕著な変化は、沖縄の自衛隊と那覇市当局との友好関係づくりである。海上自衛隊は、那覇港への自衛艦寄港を求めている。翁長市長は、自衛官募集業務の引き受け、自衛隊との共同防災訓練を検討するとしている。沖縄米軍基地の小さな「分散」と引き替えに、日本軍が沖縄で強化される危険が出てきている。
また、たたかいの前進なくして、その「分散」すらないことも明らかだ。ブッシュ新政権が前政権と日本政府とのSACO合意を継承し、普天間基地の沖縄内移設つまり海兵航空部隊の新基地建設を求め続けるという基調に変化はないだろう。幻想を持つことはできない。
小さな譲歩はあるかもしれない。しかし、その代わりに集団的自衛権行使を、と言う。これでは九六年時の、普天間「返還」発表と周辺事態法とのセットと同じことになる。ブッシュ新政権による沖縄「負担軽減」という言辞には、警戒心を高めて当たることが必要だ。