平和協定・国交樹立へ向かう米朝関係

在韓米軍撤退へ連帯強化を


 十月十二日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の趙明禄・国防委員会第一副委員長が訪米してクリントン大統領などと会談し、米朝共同声明が発表された。それは、「停戦協定を強固な平和保障システムに転換して朝鮮戦争を公式に終息させる」ことを始めとして、両国関係を根本的に改善する措置を取ることに合意した画期的なものであった。
 つづいて十月二四日、オルブライト米国務長官が北朝鮮を訪問して、キム・ジョンイル国防委員長(労働党総書記)との会談を行ない、声明を発表した。
 その声明は、「クリントン大統領の見解をキム・ジョンイル総書記に伝え、大統領訪問を準備するためにピョンヤンに来た」「過去の敵対から解き放たれ、地域の安定と平和に貢献、南北の和解プロセスを支援する両国関係に関する米国の理想像を説明した」「外交関係、ミサイル自制、安全保障に関する提案について真剣で建設的、徹底的な協議を行なった」「地球的規模の課題と国際規範の順守、テロ、人権、行方不明者に関し最大限可能な説明をする必要性、人道問題、そして朝鮮半島の緊張緩和へ向けた具体的措置の必要性といった懸案事項を提起した」という四点を柱とするものであった。
 しかし、これらの事項について「重要な前進を成し遂げたが、やるべき仕事も多い」として米朝の共同声明には到らず、「大統領にこれらの協議内容を報告し、ソウルで日韓両国と協議する」とし、最終的な決着はクリントンの訪朝にゆだねる内容となっている。
 とはいえ、オルブライト国務長官の訪朝は、アメリカ現職閣僚としては初めてのことであり、正・副大統領に次ぐ国務長官の彼女が訪朝したことで、昨年九月のペリー報告以来の米朝間の和平プロセスは後戻りのできない段階に入ったと言える。
 では、これら十月に入っての二回の、米朝による初の首脳級会談のポイントはどこにあるのだろうか。第一には、朝鮮戦争以来、停戦状態にあるとはいえ敵対(戦争)状態が終結していない米朝間に、和平の具体的プロセスが直接に話し合われ、両国関係の基本的転換が日程に入ったということであり、第二に、米朝間の懸案事項であり、アメリカにとって最大の懸案となっている北の「ミサイル問題」、ならびに北に対する「テロ支援国家」規定に基づく経済制裁の解除問題に道筋が付けられつつあるということである。
 ペリー報告以来の米朝協議の進展の上に、六月の南北首脳会談・南北共同声明という歴史的成果があって、十月の相互訪問がもたらされたと言える。それ以上に、北朝鮮の外交政策の積極的展開があることも見逃してはならないだろう。今年に入って、イタリア、オーストラリアとの国交樹立、それにフィリッピンが続き、カナダ、ニュージーランドとも年内の樹立が予定されている。サミット参加のいわゆる先進資本主義国で、北朝鮮との交渉に全権限を委譲されているつもりのアメリカが最も遅れつつあるのである。さらに遅れているのが、アメリカの顔色を常にうかがう日本なのだ。
 ともあれ米朝間の和平実現は、朝鮮半島の自主的平和統一にとって欠かせない重要な要素であり、東アジアの平和を切り開く転換点となりうるだろう。

 しかし、二四日のオルブライト声明をつぶさに精査するならば、アメリカ帝国主義の覇権的意図が見えてくる。「過去の敵対から……」のくだりでは、朝鮮戦争の当事者同士として、戦争状態の終結と和平協定の締結だけを取り上げれば済むところを、わざわざ「地域の安定と平和に貢献」する「米国の理想像」について語っている。つまりは、在韓米軍の存続を露骨に意図していると言えるのだ。それだけではなく、従来からの朝鮮半島での権益を死守する野望と焦りが露骨に現われているではないか。
 というのは、南北共同声明によって、朝鮮半島南北の人的経済的政治的交流が急速に進展をみせ、さらには日本を除く主要な資本主義国が次々と北朝鮮との国交樹立を成し遂げつつあるなか、アメリカ帝国主義のリーダーシップが危ぶまれる事態を招来している。沖縄サミットにおいても、アメリカは中東問題に足を取られるなか、ロシア・プーチン大統領の外交戦が目立つなど、この事態が露呈したのではないか。
 十一月の米大統領選挙の後にも、クリントンの大統領最後の花道としての訪朝が日程に登るものとおもわれる。米朝間の平和協定締結・国交樹立を我われは、朝鮮半島民衆、アジア民衆、世界人民とともに歓迎する。しかしながら、在韓米軍の撤退ならびに米軍犯罪の根絶、演習中止などの課題は、ひきつづき韓国・朝鮮民衆と共にたたかいの手を緩めるわけにはいかない。朝鮮半島の自主的平和統一のためには、欠かすことのできない課題であるからだ。そして在韓米軍問題は、統一をめぐる国際的・階級的力関係の指標であり、沖縄の米軍基地撤去闘争に連動している課題でもあるからだ。
 一方、進展を見せない日朝国交交渉に対して朝鮮中央通信は、時を同じくして論評を発表し、「犯罪者である日本と被害者との特殊な関係」では、植民地支配の過去清算を抜きには「他国と関係を改善するようには解決できない」との原則的な立場を表明した。
 これに対し日本では、政府の外交立ち遅れに「バスに乗り遅れるな」ではなく、「バスに乗るな」と叫ぶ今更ながらの反北キャンペーンを行なっている部分も存在する。アメリカにミサイル問題の決着を付けてもらってから、日本は動けば良いなどとする一部の主張は、支配階級の外交戦略としても稚拙な消極論であるが、東アジアの平和構築に逆行する日本帝国主義の醜さをさらしているだけである。また日本政府は、いわゆる「拉致疑惑」を外交遅滞の最大の言い訳として(自ら混乱して)いる観があるが、そのような重大な「懸案」であるとするにも関わらず、国民に具体的説明を行なわないままであるのはどういう訳か。
 我われは、朝鮮植民地支配に対する謝罪と補償を明確にした日朝国交樹立を支持し、同時にその内容で日韓条約の見直しに入ることを求める。
 我われ日本の労働者民衆は、当面の日朝・米朝の国交交渉を注視しながらも、自主的平和統一の障害である韓国米軍基地撤去の闘い、北朝鮮を主敵国と規定する「国家保安法」の撤廃を求める韓国・朝鮮民衆の闘いに連帯しつつ、長期にわたって、日米両帝国主義の覇権策動とたたかい続けねばならないだろう。