動   機

 

                                                              日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 

 12年間の充電の後、長島茂雄は巨人の監督を 引き受け、前に巨人監督をしていた時の選手と今 の選手の違いに驚く。プロとして、当然しなけれ ばならないシーズンオフでのからだの手入れ、キャ ンプでの練習態度など以前とは違うという。プロ 野球の選手が、お金を稼ぎ、プロとして成功する に十分な動機を持っているとは限らないというの だ。叱って、厳しく指導しても今の若い選手はつ いてこない。監督に復帰して1年は戸惑い、次の 1年でこの現実を受け入れ、選手へのかかわりを 変えた。そして、巨人は日本一の座についた。

 

 大阪言友会の例会が、吃音について、広くコミュ ニケーションについて、人間関係などについて、 体験的に学び合う現在の《吃音講座》と変わって 9年になる。発声練習をし、雑談的に話し合った それまでの例会とは違う雰囲気の中で、真面目に 吃音に取り組まない吃音者は来なくなった。

 一方、吃音に悩み、自らの吃音を解決したいと 考える人にとっては、吃音と真剣に取り組める、 《吃音講座》は魅力的だったようだ。例会参加者 が以前とは比較にならないほど増えたことでもそ れは分かる。適度な緊張があり、学ぶことに対す る充実感があった。学び合うことが、多くの吃音 者が継続して参加する動機となった。

 セルフ・ヘルプ・グループは、教える、教えら れる関係にはない。入会して1年の人も講座を担 当する。担当者は、書物を読み、他の機関の講習 会に参加するなどし勉強する。これまでの言友会 活動にはなかった熱意と努力を必要とする。

 担当者同士は厳しく指摘しあい、よりよいもの を日指した。回を重ねるごと、改良が続けられ、 分かりやすくなったと世話人は自負していた。

 大阪言友会では、《吃音講座》を検討する合宿 を持つ。この合宿には世話人だけでなく、若い人 も参加し、率直な意見を述べ合い、1年間の総括 をし、次年度の講座の年間スケジュールを決める。

 「もっと、雑談的なものを入れ、おもしろく、 楽しいものにした方がよい。講座は難しいし、話 し合いの中での若い人への指摘が厳しすぎる。私 たちは勉強より、話し合える友達が欲しいのだ。 もっとサークル的な楽しいものがいい」

 合宿では、このような若い人たちからの意見が 相次いだ。

 私たちは、言友会を吃音者の親睦のためのサー クルとは考えていない。自分自身の吃音の問題解決だけでなく、吃音児や吃音児をもつ両親をも視 野に入れた、吃音問題の解決を目指している。サ ークル的な楽しさだけを求められたら困るのだ。 しかし、若い人たちに、受け入れられなければ、 吃音教室の意義は半減する。吃音に悩み、自分を 生かせず、立ち止まっている若い吃音者にこそ役 立ちたいと、考えているからだ。

 自分の悩んでいる吃音問題への解決には、ある 程度の厳しさは必要だ。私たちの意図することを 堅持しながらも、若い人たちの声によく耳を傾け、 できる限り分かりやすく、身近なもの、楽しく学 べるものにしたいものだとは思う。

 4月14日、昨年よりは、ソフトな分かりやすい 開講の初日だったと若い人が評価してくれた。11 名の初参加者の全員が次回も参加した。1回で来 なくなることが少なくない中では珍しいことだ。 若い人の意見を取り入れた成果だろうか。

 年齢、吃音経験、社会環境の違う人間が一堂に 集まっての吃音教室だ。それぞれの動機を維持し 作り出すことは至難の技だが、それを考えること は、世話人にとっては楽しいことでもある。

 5年、10年と続けて教室に参加する人がいる。 30年近く、大阪言友会は活発に活動を展開して いる。このことに自信をもち、あまり作為的な動 機の創造より、永遠のテーマでもある「人として、 如何に自分らしさを発揮して生きるか」を追求し ていくしかない。

 長島巨人は今年、どんな闘いをするだろうか。

月刊情報紙 『Stuttering Now』 1995.4.28 No.9より


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Author:Japan Stuttering Project;JSP(日本吃音臨床研究会)
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