どもりを受け入れる だけでは充分ではない

 

                                                              日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 

 どもりを受け入れるだけでは充分ではない。

  どもりを公表するだけでも充分ではない。

  吃り方を学んで下さい。

 チャールズ・ヴァン・ライパーさんの、吃音者 に対する最後のメッセージである。

 ヴァン・ライパーさんは、大学を卒業しても就 職できずに聾唖者を装って農場で働くほど、30歳 近くまで激しく吃り続けた、いわゆる重度の吃音 者だった。30歳の時、楽に吃っている老人と出会 い、その時から吃り方を工夫し続けた。その後、 吃音の研究者、臨床家として、何千もの吃音者と かかわった。自分自身の吃音者としての体験に裏 付けられたことばだけに、説得力がある。

 市井の人、鳥羽稔さんは、3年間の闘病生活の 中からこの偉大な臨床家と同じようにどもりにつ いて考え、実践する。少し長くなるが紹介したい。

 鳥羽さんは、顔を引きつらせて吃るのが鶏の鳴 き声と似ていると、子どもの頃から、「ニワトリ」 と呼ばれた。町工場、飯場、キャバレーなど仕事 を転々としながら、どもりへの憎悪を強めていく。

 

 『どもりな自分が憎く、醜くやり場のない日々 が続きます。飲めなかった酒を知り、泥酔の中で みずからの「吃」をごまかし、酔い醒めて白けか えったみずからの上に「吃」をつのらせ「嘲けた」 といっては傷害沙汰を起こしてしまい、自分への 蔑視と虐待は雪だるま式にふくれ、やまることを 知りません。とどのつまり、ホールのフロアに蹲 り、血を吐きます』

 鳥羽さんは、3年にわたる病床の中で、  『どもりな自分を呪い毒することしか知らなかっ た男の犬死にを予感して、私はようやく、その恥 ずかしさに震えるのです。「吃」よ、おれの中の 「吃」よ許しておくれ、ゆえもなく虐げ、嘲けつ づけたおれを、お前がおれであり、おれがお前だっ たことが、たったそれだけのことが、このおれに は分からなかった。おれの「吃」とお前のおれを 許しておくれ。病熱の中で私は、自分の中の「吃」 を抱きしめ、「吃」に許しをこいました。「吃」 を認め、「吃」を負うて生きつくすことが、正真 正銘な自分のあるべき姿であったと遅ればせなが ら悟るのです』

 こうして、鳥羽さんは《どもりを受け入れ》、 《どもりを公表し》、ヴァン・ライパーさんの言 う《吃り方の学習》を始める。

 『吃らずに言葉を吐こう、どもりでない振りを しようという意識を捨てた私は、吃り方へのプロ ポーションを考えるようになります。「吃れ。吃っ てもよい。だが、この次には、ほんの少しでよい から、さっきよりはうまく格好よく吃ってみろ。 ほんの少しでよいからな」。吃する際にともなう 身体のひきつれ、その時点での精神状態、体調な どを思いあわせながら、みつめ、自分の中での 「吃」と限りない語り合いを続けます』    −『吃音者宣言』たいまつ社(1976)−

 

 ヴァン・ライパーさんと鳥羽稔さんの吃音との かかわりを紹介した。私たちも《吃音を受け入》れ 《吃音者宣言》をした。しかし、それで充分だと は考えていない。相手に伝わることばを話すため に今私たちは、「ことばのレッスン」を続けてい る。ことばはその人固有のものであり、その人の 人生の本番、つまり日常生活の中で、個々人が磨 いていくものだ。 それでも、共通して必要なレッ スンもあるのではないか。吃音者がどうしたら相 手に伝わることばを話せるようになるか。私たち の「ことばのレッスン」が、ヴァン・ライパーさ んの提言する《どもり方を学ぶ》ことにつながっ ていくのかもしれない。

月刊情報紙 『Stuttering Now』 1995.3.27 No.8より


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