グッバイ! Dr.チャールズ・ヴァン・ライパ−
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
あなたが、心臓病を患っておられたのはかなり 前から知っていました。
だから、直接お会いしたいと願いながらできま せんでした。それでも、アメリカで生きていて下 さる、それだけでも、私たちの心の支えでした。
私たちの父のような存在でした。
あなたは、昨年9月会いたくても絶対お会いで きない世界へ旅立たれました。寂しく、残念です。
心から、遠くからご冥福をお祈りします。
あなたは、「吃音問題の解決には、世界の吃音 者が手を結ぶことだ」とよく言っておられました。
私たちが京都で開いた国際大会がきっかけになっ て、吃音に関しての国際交流が活発になりました。 吃音問題の国際大会はケルン、サンフランシスコ に続いて、この夏は、スウェーデンのリンショー ピンで開きます。あなたの提言を実現させたこと、 あなたの息子として、うれしく思います。
あなたは、常に吃音者の立場に立ち続けた人で した。
遠く離れた、日本の吃音者である私たちからの 連絡をいつも喜んで下さいました。《治す努力の 否定》を提起したとき、そして、《吃音者宣言》 を発表したとき、一番にあなたに手紙を書きまし た。常にすぐに返事を下さいました。
「《治す努力の否定》 《吃音者宣言》の問題提 起をされたあなたがたの手紙を実に楽しく読ませ ていただきました。その考え方に賛成するかとい う質問に対して、私は「イエス」と答えます」
この出だしで始まるメッセージに、私たちがど れだけ勇気づけられ、また、活用させていただい とか知れません。何千人もの吃音者の治療にあたっ てこられたあなたのことはは、とても説得力があ りました。私たちが言い足りないところをいつも 補って下さいました。さらには、私たちの活動に 援助を申し出て下さいました。
「私は、私の研究実践の集大成として、二冊の 本を書きました。もし翻訳ができるのでしたら、 日本の翻訳権をあなた方に差し上げます。それを 活動資金として下さい」
うれしいお申し出に、私たちは喜び勇んで、グ ループを作って、『Treatment of Stuttering』 の翻訳作業に入りました。大勢の力で大体の訳出 を終えるまでは順調でしたが、その後の作業が続 きませんでした。あなたが、お元気な内に早く出 版して、出版記念に日本にお呼びしようというの が、私たちの口癖になっていました。それが私た ちの力不足で実現できなかったこと、とても残念 です。せっかく、大勢の力で訳出したのですから、 なんらかの形であなたの集大成を紹介したいと、 まだまだ、夢は捨てていません。
あなたは、《吃音受容》を常に訴えた人でした。 ご自分が随分と楽に話され、ほとんど吃っている ことが分からないほどになっているのに、「ども りは治らない。おそらく一生吃って過ごさなくて はならないだろうという事実を認める必要がある」 と言い切っておられます。こ自分の吃音、また、 手掛けた吃音者への臨床体験から、「どもりは治 る、少なくとも軽くすることはできる」と言い切っ てもおかしくない実績を残されました。それなの に、あえて、「今後も吃り続けるという事実を受 け入れよう」と強調されました。
ここに、吃音者への限りない愛を感じます。
吃音が、その人の努力、またはなんらかのきっ かけて治ったり、軽くなることは事実あります。 しかし、それを強調すると、どうしても治らない、 なかなか軽くならない吃音者を見捨てることになっ てしまいます。誰ひとりとして見捨てないという あなたの吃音者への愛をそこに感じるのです。
どうか安らかにお休み下さい
グッバイ!Dr.チャールズ・ヴァン・ライパー
月刊情報紙 『Stuttering Now』 1995.2.28 No.7より