いじめは人殺しや

 

                                                              日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 

 「いじめは人殺しと同じや。僕は本当に何度死 のうと思ったか分からへん」

 彼は今、死なずに生きている。しかし、頭痛、 胃痛、不眠、目の前のちらつき、等様々な身体症 状は消えない。

 どもりが原因で幼稚園の頃から辛い体験を繰り返した。それでも、どもりでいじめられないよう にと、彼はスポーツや勉強に打ち込む。

 そして、ラクビー部でも勉強でも人一倍がんば り、人からも認められ、自信がつく。

 いい中学校のスタートを切ったかにみえた時、 いじめが始まった。

 いじめられている子供の味方にならなければな らない教師が、反対にいじめの側にまわる。教師 公認となったいじめは執拗に続き、彼の気力も体 力も奪っていった。

 彼に、いじめられ体験を書いてくれるよう頼ん だ時、この間題に決着をつけるためにも書きたい と言った。しかし、書き始めると、なかなか書け ない。

書くことで、辛く、嫌だった過去を思い出 すからだ。思い出しては眠れない日が続く。

 「書こうとするけれど、書けません。聞いても らえれば、話せると思います」

 伝えてあった原稿締め切り日の数日前に、彼か ら電話があった。

 私と向かい合い、マイクを前にして、彼は2時 間近く話してくれた。その生々しい、いじめの実 態に耳を傾け、怒りと、腹立たしさに、私のから だは震えた。

 彼は、昨夏の吃音親子ふれあいスクールに参加 し、程度は違っても、どもりのために、からかい やいじめを体験している同年代の子供たちと出会っ た。

また、かつてどもりに悩んだ経験をもち、現 在は吃りながらも、教師やスピーチセラピストと して働く吃音の先輩と出会った。

 同じ悩みを持つ子供、先輩との出会いの中で、 自分自身を見つめた彼は、少しずつ元気が出始め る。そして、高校を卒業したら、大学では教育か 心理の方面に進みたいとの意欲をもち始めた。

 しかし、意欲はあっても、あまりにも体が弱っ ていた。何度も病院で検査を受ける。検査の数値 上では異常はないが、頭痛、胃痛その他のからだ の変調は相変わらず彼を苦しめる。

 通っていた高校で、彼に対するいじめがあるわ けではないが、からだがついていかない。  このまま、高校を卒業するまで、からだと気持 ちをなんとかだましながら頑張れるだろうか? 彼は悩んだ。いろいろと話し合う中で、無理をし て、からだに逆らってまで、学校にこだわる必要 はないとの結論になり、彼は退学を決意する。

 大学に行きたいとの気持ちが堅かったため、自 分のペースで学べ、大学受験の資格も得られる、 通信制の高校に入学し直す事を考えた。両親も納 得し、高校に退学届けを出した。その後、彼は高 校に合格し、新しい道を歩み始めている。

 幼稚園の教師から、中学校の教師まで、彼は随 分ひどい教師に受け持たれている。小学校1・2 年の時の教師だけが彼を理解し、その時の彼は生 き生きし、吃ることへの悩みもなかったと言う。

 子供のころに教師から受ける影響は絶大だ。  彼の小学校の教師の場合、どもりに対する、無 知、無理解というより、教師そのものの適性が問 われるべきだと言いたい。

 中学の暴力教師は、「僕は、子供のために指導 しているんだ。子供から嫌われる教師を目指す」 とうそぶき、体罰教師として、反省することなく、 教師の仕事を続けている。

 このような、体罰で子供を押さえつける教師が 力を持つ学校は、学校そのものが、いじめを生み 出す。暴力教師はもう、犯罪者だといえよう。

 彼のような暴力教師がいるかぎり、犠牲者は後 を絶たない。この特集は怒りの告発でもある。  

月刊情報紙 『Stuttering Now』 1994.6.4 No.1より

 

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