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第17回教育財政シンポジウム報告


「子育てと青年の未来 −学ぶこと、生きることの危機の中で−」
 
 
財政シンポ写真  2003年12月6日(土)、東京の渋谷区立勤労福祉会館を会場に、 「子育てと青年の未来 −学ぶこと、生きることの危機の中で−」をテーマに第17回教育財政シンポジウムが開催されました。
 
    基調提案
 「経済財政諮問会議」が打ち出した『三位一体の改革』は今でも厳しい地方財政をさらに悪化させるもので、 教育予算不足を学校が安易に『受益者負担』と称して保護者から徴収することにすれば、 ますます弱者が切り捨てられる事態になります。原則は、受益者負担でなく無償なのです。 それが義務教育にとどまらず、高等教育まで延ばしていってこそ、 憲法の精神であり教育基本法でいう教育の機会均等の実現をめざすものです。
 青年の問題については、フリーターを指向しているのは、若者の方ではなく企業側の方で、 とにかく安くて不安定な待遇の方がよく働く。働かなければすぐやめさせられる。社会保険なども企業側の負担がない。 人件費抑制にはもってこい。また、正規の職員にはものすごいノルマと責任を押し付けています。
 厳しい現実を生き、将来への不安を抱いている若者が、実はだれよりも一番日本の将来を心配しています。 「安心して大人になっておいで、平和で豊かで美しい地球をあなたに手渡してあげよう」 なんて言える感動的な夢のような時代がどうしたら作れるでしょうか。
 
 
続いて、3人のパネラーの方々から発言をいただきました。
 
 
パネラー発言
    長野県の学校事務職員
 勤務する自治体では就学援助受給者が年々増加し、1978年度と比べて 児童生徒数が3割減っているのに受給者は3.7倍にもなっています。 ところが国庫補助金は減少し、補助率は22%で残りは自治体の持ち出しになっており、 この原因は、就学援助法の第2条に、国の補助が「予算の範囲内」とあることです。
 また、県内の自治体の中には、学校事務職員と市教委の話し合いで「お知らせ」を 全家庭に配布するようになったところや、収入の「目安」表が記載されるようになったところもあります。
 ある高校生が、自分が修学旅行に行くためアルバイトをしていたのに、 弟の修学旅行に充てるため直前になって参加を辞退すると言ってきて、 その話を同僚の教員にしたら「学校ってお金がかかりすぎるよね。」と返ってきたそうです。
 親の収入によって学校へ行く権利が奪われてはならないと思います。

    埼玉県の高校教員
 就職を希望する生徒のうち、シンポジウム当日現在で半数が決まっていない状況で、 求人内容も、派遣・請負・契約社員・有期雇用など不安定雇用が急増しています。 フリーターに対する調査でも77.2%が正社員を希望しているように、 青年にフリーター指向があるのではなく作られたフリーターであることがはっきりしました。 失業率も青年層に極端で、15〜24歳の完全失業率は10.6%になっています。
 また保護者が高校に通っている子どもの学校教育や学校外活動のため支出した金額(一年間)は、 公立で51万円、私立で104万円にもなります。そして、経済的理由により退学したり、 修学旅行をとりやめた生徒も急増しています。
 中には、保険料滞納で健康保険証がもらえず、心臓疾患の疑いがあっても、 2次検診をあきらめた生徒もいるそうです。
 埼玉では教職員組合が、市町村毎に制度の充実度がわかる「埼玉県奨学金マップ」を作成するなど 授業料減免や奨学金拡充のとりくみをすすめています。

    東京都の福祉専門学校講師(元ケースワーカー)
 生活保護家庭も年々増え続け2002年5月現在で91万5千世帯130万人以上になり、 人口の1%を超えました。このうち東京だけでも、20%が国保料滞納し、6万人が保険証不交付に。 短期保険証と資格証明が16万人。これらに対する福祉事務所の体制は、国基準(ワーカー一人都市部80世帯)を 大幅に超えるケース数を担当し、処遇困難なケース増ともあわせ職員の労働強化になっています。 また、経験のない新採がすぐ福祉事務所勤務となるなど、人権に配慮した体制になっていません。
 生活保護家庭の高校進学率は一般の97%に比べ80%と低く、 「高校に行かなければ働け、働かなければ『能力を活用していない』として保護を打ち切る」などの 指導がされています。そして、「中卒ぶらぶら群」「保護の2世代化」などの現象もうまれています。


 
 
続いて、フロアからの討論に入りました。いくつか報告します。
 
    フロアからの発言
■ 福祉事務所の職場がメチャメチャに忙しくなっている。 バブルの頃は保護世帯の貧困さが目立ったが、今は全体に貧困。
■ 就学援助制度に対してかけられている攻撃、 教育予算が政策的で財政が教育を差別する手段になっていること、 分相応の生活に満足する国民づくりこそ新自由主義の本質で解明が必要。
■ 今の制度は、低成長期のことを前提とした制度ではない。制度設定の前提を考え直す必要がある。 教科書や教材は貸与にしたらどうか。現金支給だけでなく現物支給との併行も考える。 ヒューマンサービス=金で換算できないサービスを考える。
 
 
 
 財政シンポ事務局からまとめの発言がありました。要旨を紹介します。
 
    まとめの発言
○ 当事者でない人が当事者になってきている今、「当事者性」ということばが大事。
○ 個人と社会・国家を中間で結びつける役割、もっとも不利な立場にいる人のニーズを結びつける役割 −それは学校事務職員では。
○ ヒューマンサービスのルールの再設計の時代に入った、トップが考えることではなく、 ローカルルールの再設計も必要。
○ 現実的展望を語ることが大事。国庫負担制度と公設民営についてどうしたらよいか問われている。 自治体のルールづくりと結びついているが現状の制度の見直しから始まる。