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第16回教育財政シンポジウム報告


「『お金』のかからない、『格差』をつくらない教育とは
 
 
 第16回教育財政シンポジウムは「『お金』のかからない、『格差』をつくらない教育とは 〜教育費に憲法・教育基本法の光をあてて〜」をテーマに2002年12月7日、東京都江東区教育センターを会場に全国から参加者を集めて開催されました。
 
    基調提案
 「義務教育無償」の言葉が職員室から消えた今、何の法的な根拠も持たないお金が保護者から徴収されている。部活や選択教科の増加などで保護者の負担は一方、保護者の側からは「学校のお金」の問題についてはなかなか口に出すことができないでいる状況もある。今、足りないのは「教育費ではなく教育思想」ではないか。
   憲法・教育基本法の理念 原則に立ち返って“どの子にも”を大切にしていくために、学校と地域が手を取り合っていかなければならない。「語る」「伝える」「集まる」ことを大切にしたい。
 
 
続いて、4人のパネラーの方々から発言をいただきました。
 
 
パネラー発言
    大和市の小中学校の保護者
 3人の子どもの母です。長男の小学校入学を機に集金について考えさせられました。画用紙やドリルなどすべて親の負担になっていて、無償なのは教科書と授業料だけ。中学校の入学準備品など制服や上履きで7万円以上もかかります。地域の中の個人的なつながりでおさがりなどをもらい受け2万5千円あまりに抑えました。また部活に入ると用具などにお金がかかり、家計を圧迫しています。友人の生活保護世帯の方は吹奏楽部を続けることができなく退部しました。子どもを修学旅行に行かせるためにサラ金で借金をした例も聞いています。
 大和市では「就学援助をすすめる会」で市へ就学援助制度の改善要求をしています。
 学校指定のネーム入りのジャージや制服、靴はどうしても必要でしょうか。子どもたちが明るく元気に学校へ行けるような制度をつくることが国や自治体の勤めではないでしょうか。
 

    板橋区の学校事務職員
 小学校の事務職員です。日々子どもたちと接していて、私たちに何ができるのかを考えています。
 1年生のある女の子の話をします。母親、姉との3人の家庭で、身支度やランドセル、靴など使い古しのものがほとんどです。就学援助の申請も所得証明がなかなか取れなかったため、やっと8月に認定になりました。何でも「家から持ってこれる」「古いものは買い換えてもらえる」世の中で、義務教育費無償の原則は忘れ去られているのではないかと感じます。
 「学校だより」の中にスペースをもらって、保護者負担について考えを書いています。児童用の名札などたとえ僅かな額のものであっても公費で負担すべきものは基本に戻したい。

    志木市の教員
 志木市では市の施策によって1、2年生は25人程度の学級になっています。25人になると、教室の広さにも余裕があり、子どもたちの小競り合いも少ない気がします。しかし、子どもたちが育つ環境や社会情勢の変化によって社会性や身体そのものが未発達な「手のかかるこども」が増えている状況では、まさに「最低限の学級規模」と言わざるを得ません。1日も早く全学年に拡大してほしいと思っています。
 この実施にあたり5校に10名が採用配置されましたが、県の指示により学級担任ができず専科になっています。市職員のため研修制度もなく、専科として急に多くの子どもたちと関わることになり、心労のために職場を離れた人もいます。また、「ラーニングサポート」「ふれあいサポート」「いろはがっぱ応援団」などの施策が始まっていますが、非常勤や時間雇用などさまざまな雇用形態が生まれ職員室に人がいないという事態も生まれています。
 市費事務職員は全員パートですが、来年からは再雇用なしの1年契約の採用になるようです。「子どもを大事にする市」の裏側ではこんなことも進んでいます。安心して働き続けることができる条件作りが大事ではないでしょうか。
 

    東京都内の大学生
 教員を志望している学生です。大学教育にもお金がかかりすぎるのではないでしょうか。兄も大学生ですので親の負担は大きいです。
 そして、学費が高いうえに奨学金制度が未熟なためお金のない人は学べない状況が生まれています。格差につながると思います。教員になりたいと思って勉強していますが、現場の先生の「忙しい、辛い。」と言う話を聞くにつけて不安になったりしています。
 実習で公立の小学校へ行きましたが、教室がとても狭く感じられました。少子化で子どもが少なくなっているのですから1学級あたりの児童数を減らして、早く30人学級を実現するべきではないでしょうか。全国的に影響力のある東京都が実施に踏み切れば、国も動き出すかもしれません。
 それから、教員を目指す学生に「介護体験」が義務として課せられています。養護学校などで体験学習をするのですが、窓拭きなどの環境整備がおもな内容で国の責任放棄なのではないかと感じてしまいます。
どの子も不安なく希望する教育を受けられる世の中にしていきたいなあと思います。教育が基本だと思います、まずは教育を大事にしてほしいです。
 

    東京私教連役員
 東京では幼稚園をはじめとして私学への依存度が非常に高いです。高校で5割を超える(全国的には3割程度)状況になっています。中学から私立学校へ入学させる場合、親は学費をはらい続けていけるという予想で子どもを入学させるのですが、家計急変という事態になることがあります。「家計急変」が今大きな問題になっています。「家計急変者」に対する補助を何とかしてほしいという要望が強いです。私立高校生18万人(そのうち8万人は都外から)のうち4分の1が授業料補助を受給、しかしこれは昨年の所得に基づいているため、家計急変者には適応されません。
 また、高校に入学した生徒(保護者)が負担する初年度の納入額は公立高校で11万7千円あまりですが、私学の場合は82万円を超えてしまいます。勿論制服等を除いた金額です。そういったものを含めると100万円を超えるでしょう。一方、保護者の年収額は減り続け家計の負担は増しています。
 公立の学校でも「中高一貫教育」などが始まり、私学の経営自体も難しくなってきています。人件費を削り、時間講師で対応している学校もあると聞いています。

 
 
 パネラー発言の後、横浜国立大学の新井秀明先生から教育費の今日的な状況とパネラーの方々の発言をもとに論点整理の発言がありました。
 
 
    論点整理(横浜国立大学 新井秀明さん)
 80年代から90年代、2000年代と教育費に対する保護者の負担感はより増大し、教育にも格差がもたらされている。このシンポジウムでは義務教育の無償化や格差是正を強調してきたが、ますますその意義が重要になっているのではないか。
 
 パネラーの発言について
○ 学校納付金については保護者と学校との間に説明と合意が求められる。保護者と教員の参加できる協議機関のようなものが必要になってきている
○ 板橋区では就学援助の受給率が高いが、運動の成果なのか、実態の反映なのか伺ってみたい。
○ 25人程度学級を県費負担教職員で要求していくのか、または市費負担職員であっても少しでも改善していくのか議論が必要になってくる。教師の協力、共同関係をどう進めていくかが問題になってくる。
○ 教員を目指す学生の介護体験は受け入れ側の準備がないままスタート、学生の不満も大きく当初現場は混乱した。しかし、学生のレポートでは概ね肯定的である。
○ 私学で学ぶ学生の家庭の階層の所得が低くなっていることに改めて驚き、不況の深刻さを思う。
 今進行していることは、教育を私事として公の責任を放棄し、教育機会不均等などのひずみを大きくする方向である。ナショナルミニマムとしては40人学級を早く脱して地方自治体によるレベルアップの競争をしていくべきではないか。国、地方の責任 学校の自主自律性を常に一緒に考えていきたい。
 
 
続いて、フロアからの発言討論に入りました。要旨のみを報告します。
 
    フロアからの発言
■ 学校としては手をさしのべきれない子どもや家庭に、パネラーから報告のあったような団体が関わってくれている。教員として、横のつながりを持っていたい
■ 教育費春闘を構築すべきではないかという提案もあり、同感。学校では保護者との間で、経済的な問題に触れないようにしている。
■ 義務教育無償の原則をかかげて仕事をしているが、なかなか進まない。合併問題で、修学旅行費カラーコピー機の配置などレベルの高い学校がダウンしている事実がある。
■ 教育費の問題に関しては親が一番強く感じている。学校(教員)の側がいまひとつ問題意識が低いのではないか。『私事の共同化』という考え方があるが、それはあくまでもお互いに高めあっていく『共同化』でなくてはならない。
 お金のかかりすぎる教育は、また、教員養成の大学の現場でも『教育が公のものではないという考え方』を学生に示唆してしまう危険性を持っている。
■ 保護者の間でも教育財政のことにはなかなか話がいかない。教育の中身がどんなによくなっても、お金の問題はその入口。親の財政問題が子どもの教育の格差にならないように、全国で運動を続けたい。
 
 
 論点整理、フロアからの発言を受けて再びパネラーの皆さんからの発言があり、教育費負担軽減のためにあらためて学校、保護者、地域の連携の必要性が確認されました。ここの後、財政シンポ事務局からまとめの発言があり、「財政シンポアピール」が参加者の盛大な拍手とともに採択されて、16回目の教育財政シンポジウムを閉会しました。
 
    まとめの発言
 とどまることを知らないこの不況下、子どもたちが安心してお金の心配をしないで教育を受けることができるように、憲法・教育基本法に保障する無償教育実現の取り組みを強めていかなくてはならない。また同時に、就学援助制度や授業料減免制度など無償教育を補完する制度を大いに活用するべきである。具体的には
○ 学校事務職員などが中心になって、保護者への周知を進めること。
○ 自治体の予算を有効に、民主的に活用すること。
○ 義務教育費国庫負担法による財政負担などの国の責任を明らかにしていくこと。
今日の方向をぜひ引き続き発展させていただきたい。
 
 
 
 
 
 
               (会誌「子どものための学校事務」80号より一部修正して掲載)