「(これでもう何度目だろう・・・・・?)」
ミドリはリング上で倒れながら思った。
肩まで伸びた茶色い髪が汗で頬にへばりつく。
白い肌は相手の攻撃で赤くなっていた。
ミドリは頭を起こし、うつろな目で相手を見た。
ミドリの目にはニヤついた金髪の女が写っていた。
「(なんでこんな所にいるんだろ・・・・・?)」
一ヶ月前、後楽園ホール
「ギッ・・ギブアップ・・・」
相手がタップする。安藤 ミドリ・・・25才、三年前に女子プロレス世界チャンピオンに輝き、以後 必殺のストレッチプラムでギブアップの山を築いた。
「ベルトを返上します。」
ミドリがそうコミッショナーに申し出たのは翌日の昼下がりのことだった。
突然のことで驚いたコミッショナーは何も言えなかった。
ミドリが部屋を出ると廊下には同期の 井沢 アキ子が立っていた。
「どういうこと?」
アキ子が問いかける。
「べつに・・・ただ、また一からプロレスをやってみようと思っただけ・・・」
ミドリはそう言うとアキ子に背を向ける。
「ふざけないで!!あなたからベルトを取る為に私がしてきた努力はなんだったの!?」
「・・・・・・・」
ミドリは何も答えない。
「許さない・・・」
アキ子はそう言うとどこかへ消えた。
翌日 アキ子は失踪した。
三週間後
試合後のミドリの控え室に黒いスーツを着た女が訪ねて来た。
女はミドリにドリンクと名刺を渡した。
名刺には「UGPW代表 滝川 京子」と書かれていた。
「どういったご用件ですか?」
ドリンクを飲みミドリが聞く。
「ウチのリングに上がっていただけませんか?」
「おたくの?UGPWって聞いたことないんですけど」
「新団体なんですよ・・・だけど選手のレベルは安藤さん以上だと思いますよ・・・」
滝川がニヤつく。
ミドリはカチンときて立ち上がる。
「上等じゃないの!そんなに言うんだったら一度上がってみようじゃない!」
「いいんですか?もう戻れなくなるかもしれませんよ」
「なんですっ・・・」
言いかけてミドリは床に倒れた。
「睡眠薬のお味はいかが・・・?」
再びニヤつく滝川
「うっ・・・ぅう・・・」
ミドリが目を覚ます。
そして自分が置かれた状況に驚愕した。
牢屋に入れられていたからだ。
「なっ・・・何でこんな所に・・・?」
「目が覚めましたか?」牢の前に滝川が立っていた。
「あなたは・・・!」
ミドリは全てを思いだした。
「ようこそ UNDER GROUND PRO WRESTLINGへ」
「も・・・もしかして、ここは・・・?」
「地下プロレスよ・・・」
滝川の背後から一人の女が現れる。
「ア・・・アキ子・・・何であなたがここに?」
三週間前に失踪した井沢 アキ子はUGPWにいた。
「ここはね、ある麻薬組織が運営してるのよ。」
「私にここのリングであなたと闘えというの?」
「違うわ、あなたの相手は当日になるまでわからないのよ。今、挑戦者決定戦の途中でね」
「アキ子、あなたはその決定戦に参加しないの?」
「私はここのレスラーと闘う勇気がないんでね」
ミドリは言葉を失った。
ミドリとアキ子の実力はミドリの方が上だが、ほぼ互角と言っても過言ではなかった。
そのアキ子が闘いたくないというレスラー達が自分の相手という事にミドリは不安を感じた。