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姉妹対決

 

 

「第二体育館ってここよね?」

制服姿の美佳が、同じく制服を着てきた亜希子に訊いた。

「なんか凄い歓声がしてない?」

亜希子は、恐る恐る扉に手をかけた。

 ワーッ、いいぞぉ!

 やれっ、やれぇ! 

 負けるなよぉ!ワーッ・・

美佳と亜希子が体育館の中に入ると、二人の女性が中央のリングで闘っていた。

「間違いないみたいね。美樹はどこかなぁ?」

妹の姿を探して、館内をきょろきょろと見回す美佳。

「お昼を一緒に食べようって、美樹ネエが言ってたんでしょ?」

「うんっ、11時半過ぎに来てって・・・」

「そのうち来るんじゃない?これ見て待ってようよ!」

亜希子が言うと、二人はリング上の試合を見物し始めた。

 

リング上では、ボディシザーズをかけられている白いテニスウェアの女性が、

ピンクのテニスウェアの女性を押さえつけていた。

レフェリーがカウントを取ろうとすると、ピンクの方が脚に渾身の力をこめた。

「あぁぁぁっ・・・」

白い方が、苦しげな顔で悲鳴をあげてのけぞった。

しかし、直ぐに両手を握り合わせると、ピンクのお腹に何度も叩き込んだ。

「凄いね、プロレスって言うより、まるで喧嘩だね」

美佳が亜希子に囁いた。

「でも、いくらアンスコを履いてるって言っても・・・」

美佳が恥ずかしそうに付け加えた。

「アンスコ履いてるだけ、まだいいじゃない!」

不思議そうな顔をする美佳に、亜希子は続けた。

「美佳ネエなんか、喧嘩してるときは生パンもろ見え・・・いたたたたっ」

亜希子が言い終わらないうちに、美佳がほっぺたを抓った。

 

「楽しんでる?」

突然後ろから、美樹が二人に声をかけた。

「美樹、あんたの学校、お嬢様学校じゃなかったの?なにこれ」

振り向きながら、美佳がリングを指差した。

「うちの学園祭、各クラスやクラブでそれぞれ催し物をやるんだけど、

 それとは別に本部行事ってのがあって、実行委員が、各部で持回りなの」

「じゃあ今年は、あんたのところが実行委員なの?」

「うんっ、だから今年は、運動部対抗プロレス大会!これ、私の案なんだ!」

「いくら美樹のとこが、プロレス同好会だからって・・・」

 

 カン、カン、カン、カン・・

いつの間に決着がついたのか、ゴングが鳴った。

白いテニスウェアの女性が、レフェリーに高々と手を上げられていた。

「あれっ、あのレフェリーやってる女性、確かこの前・・・」

「そう、キャプテンの滝澤先輩。この前、会ったでしょ・・・」

「美佳ネエ、美樹ネエ、お腹空かない?」

二人のお喋りに、亜希子が割って入った。

美樹は、リングの方にちらっと目を向けた。

リングには、それぞれのユニフォームを着けた女性が、次々と上がっていく。

「ちょっと待ってて!直ぐ戻ってくるから」

美樹は言い残すと、リングの方へ走っていった。

 

《 これにて、運動部対抗プロレス大会の予選は終了しました 》

マイクを持った美樹のアナウンスが、館内に響いた。

《 この後、午後2時30分より、準決勝を行います。

  第一試合は、サッカー同好会 対 体操部

  第二試合は、チアリーディング同好会 対 今勝ったテニス部です。

  代表のみなさん、頑張ってください 》

館内に、大きな歓声がわいた。

《 それから、残念ながら予選落ちした、各部の部長・キャプテンにも

  大きな拍手をお願いいたします。

  ありがとうございました。 》

大きな拍手が、館内中に響き渡った。

 

「美樹ネエの試合、次だよね」

亜希子は美佳に尋ねた。

「うんっ、シングルマッチだって」

「美樹ネエ、勝つかなぁ?」

《 只今より、本日のセミファイナル、45分一本勝負を行います 》

館内にアナウンスが流れた。

「あっ、美樹の相手・・・美樹と私を間違えた女性だ」

美佳が亜希子にささやいた。

《 あかーコーナー、聖華女子大プロレス愛好会所属、くろかわー・りーえー 》

紺の水着をつけた理江が、リング中央まで出ると右手を上げた。

《 あおーコーナー、プロレス同好会所属2年生、かわむらー・みーきー 》

フリルの沢山ついた青い水着の美樹も、同じように手を上げて声援に答えた。

 カーン

美樹の試合が始まった。

 

「あっ、痛っ・・・」

美樹が技をかけられるたびに、両手で顔をふさぐ美佳。

「やれー!美樹ネエ、頑張れぇー!」

亜希子は、必死に声援を送っている。

 

「いけっ!そこだっ!」

美佳が、妹の勇姿に目を輝かせながら叫んだ。

リング上では美樹が、ロープから戻ってきた理江にコブラツイストをかけていた。

 カン、カン、カン、カン・・

「やったぁー!」

美佳と亜希子は、肩を抱き合いながら喜んでいる。

リング上では美樹が、久美に右手を高々と挙げられていた。

「アキちゃん、控室に行こう!」

美佳は亜希子を誘うと、美樹が消えていった方へと向かった。

 

「みかぁ、さっきの見て、あんたもやりたくなったんじゃない?」

「美佳ネエが出たら、優勝だね!」

「美樹もアキちゃんも、馬鹿なことは言わないでよ!」

3人がお喋りしているところへ、試合を終えた久美が戻ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・いらっしゃい・・・」

「どうも・・・」

美佳と亜希子が、頭をちょこんと下げた。

「面白かった?」

真っ赤な水着姿のままで、久美が訊いた。

「今もその話をしてたとこなんです。美佳も出たいんじゃないかって・・・」

「冗談はやめてよ!」

美佳は慌てて首を振った。

「確かお姉さんは、柔道をやってるとか・・・」

興味ありげな顔で久美が訊いた。

「それがなにか・・・」

「ねえ、川村とお姉さんって、どっちが強いの?」

少し何かを考えていた久美が訊いた。

美佳と美樹は、顔を見合わせて黙っている。

「わぁ、私も興味ある。どっちが強いんだろう?」

そりゃぁ、私のほうが・・・

亜希子の言葉に、美佳と美樹は同時に答えた。

「なによ、あんた私に2連敗したでしょ!」

美佳が美樹に言った。

「それは中学の時の柔道の話でしょ!今だったら・・・」

美樹が言い返す途中で、久美が遮った。

「ねえ、明日、異種格闘技戦やってみない?」

「・・・・・・・・」

久美の突然の申し出に、黙り込む美佳と美樹。

 

「わたしはいいけど・・・」

しばらく考えていた美樹が言った。

「リングで美樹と闘うの?」

「やめとく?」

挑発的な眼差しで美佳に訊く美樹。

「いいけど・・・美樹、あんた、後になって後悔しない?」

決心したかのように、美佳も応じてきた。

「あっ、でも、明日のメインで、二校の娘達とのタッグマッチ・・・」

「それっ、わたしがやる!」

いつの間に入ってきたのか、一年生のちさとが声を上げた。

「OK、じゃあ明日のセミは、異種格闘技戦。メインは私と工藤で・・・」

美佳対美樹の異種格闘技戦が決まってしまった。

 

深夜、ショーツ1枚で、手を頭の後ろに組んで、ベッドに横になってる美佳。

(あの後、美樹と口をきいてないなぁ・・

 あの娘、コブラツイストが得意なのかなぁ?あれ痛いんだろうなぁ・・)

「美佳、起きてる?」

美佳が、ひとり思いを巡らせていると、廊下から美樹が声をかけてきた。

「ちょっと待って!・・・どうぞ」

慌ててTシャツを着ると、扉の向こうの美樹に声をかけた。

お尻がすっぽり隠れるくらいのロングTシャツを着た美樹が、静かに入ってきた。

「どうしたの?明日のことが気になって眠れないの?」

美佳が美樹に訊いた。

「美佳はどうなの?」

「少しだけ・・・それよりなあに?」

「さっきキャプテンに言われたんだけど、明日のルール、どうする?」

「ルールって、決まってないの?」

「うんっ、二人で決めてって・・・」

「押さえこみはともかく、投げ技で一本ってわけにはいかないよね」

「それじゃあ柔道じゃない。でも、3カウントってのも・・・えいっ!」

いきなり美樹は、美佳の両手首を掴むとベッドに押し付けた。

「ワンッ、ツゥー・・・」

「こ、このぉ・・・」

美佳は脚を大きく開くと、下から美樹のお腹を絞め上げた。

「きゃっ、離しなさいよ!」

「あんたが先!」

「本気出すわよ!」

「やってみれば!」

ベッドの上で絡みあう、美佳と美樹。

「やめてよ!」

「そっちこそ、やめなさいよ!」

ベッドの上で縺れ合ううちに、互いの乳首が、薄手のTシャツ越しに触れ合った。

 ビクン!

二人の身体に電流が走った。

美佳と美樹は、自分の胸の先端が硬く尖っていくのが判った。

と同時に、相手のそれも同じように硬く尖ってくるのが感じられた。

(えっ、やだぁ)

(なんで、うそぉ)

無言で目を合わせる美佳と美樹。

そのまま、二人の顔が徐々に近づいていった。

そして、美佳の唇と美樹の唇がゆっくりと重なり合った。

 

15分後・・

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「はぁ、あんっ、はぁ・・・」

既にショーツ1枚になって、互いの胸を愛撫する美佳と美樹。

美佳の手が、胸からお腹を伝わって、美樹の白いショーツへと伸びた。

「美樹、ここは?」

美佳の人差し指が、美樹の割目にそってゆっくりと動き出した。

「あんっ、ばか・・・」

美樹も、美佳の乳首を弄んでいた手を下に動かした。

「あっ、いやっ、だめ・・・」

美樹の手は、美佳のお腹を通り過ぎると、そのまま下着の中へと入っていった。

「美佳のここ、びしょびしょ・・・」

美樹の指が、美佳の割目を直接こすり始めた。

負けじと美佳も、美樹の下着に手を入れると、指を割目の中に入れた。

「美樹もびしょびしょ・・・」

「あんっ・・・」

美樹が大きくのけぞった。

「ここ、感じる?」

美佳の指が、美樹の蕾を優しくころがした。

「あっ、あっ、だめっ、あっ・・・」

美樹も、美佳の蕾を優しくこすり始めた。

「あっ、あっ、あっ・・・」

「あっ、いいっ、あっ、あっ・・」

互いの蕾を弄くりながら、貪るように舌を絡ませ合う美佳と美樹。

「あっ、いいっ、あっ、あんっ・・・」

「あんっ、あぁっ、だめっ、あぁっ・・・」

「あっ、そこっ・・・」

「あんっ、いやっ、いいっ・・・」

美佳のベッドが、軋み始めた。

 

 

20分後・・

「ああんっ、あっ、あんっ、いくっ、いくっ・・・」

「あっ、だめっ、まだっ、あんっ・・・」

「あぁっ、いくっ、いくっ、あぁぁぁぁっ・・・」

ベッドの軋みが止まった。

 

「美佳のばかぁ・・・」

美樹はTシャツを着ると、そう言い残して美佳の部屋から出ていった。

 

 

「美佳ネエ、おはよう!」

美佳が玄関を出ると、家の前で心配そうな表情をした亜希子が待っていた。

「おはよう、どうしたの?」

「昨日あの後、気になっちゃて・・・」

「なにが?」

「だって美佳ネエ、今日、美樹ネエとやるんでしょ」

「やるって言ったって、喧嘩じゃないんだから・・・試合よ、試合!」

「でも、どっちかが負けるんでしょ・・・」

「まあね」

「その後、本当にいがみ合っちゃうんじゃないかって・・・」

「そんなこと心配してたの?大丈夫よ!(たぶん・・)」

亜希子を安心させようと、努めて明るく振る舞う美佳。

 

美佳が控室で待っていると、美樹と久美が入ってきた。

「ところで、ルールは決めてきた?」

久美が二人に訊くと、美佳と美樹は、黙って顔を見合わせた。

「ノールール、ノーレフェリー、決着はギブアップのみの・・・」

「ダメよそんなの!喧嘩じゃないんだから」

美樹が言い終わらないうちに、久美が遮った。

「まあ、昨日のあなた達を見て、そんなことだろうとは思ってたけど・・・

 異種格闘技戦なんだから、UFCのルールで闘ったら?」

「ゆーえふしー?」

美佳がきょとんとした顔で訊いた。

「UFCってのは、バーリ・トゥードの大会のこと」

美樹が美佳に説明した。

「そう、オープングローブつけて、1ラウンド5分で打撃・関節技はOK・・・」

久美がルールを説明した。

「でもそれって、K−1と同じですよね?それじゃあ、ボクシングじゃ・・・」

「K−1とは違うわよ。まあ、似てるかもしれないけど、これは総合格闘技よ!」

「でも、グローブつけたりラウンド制ってのは、どうも・・・」

「じゃあ、グローブなし無制限一本勝負にしたら?」

美樹が、美佳と久美の会話に割り込んだ。

「そうね、そうしましょうか?で、反則は・・・」

「急に言われても・・・」

そこまで考えていなかった美佳が、思案顔になった。

「それは無いと思いますから・・・目に余ったら言ってください」

美樹が即座に答えた。

「二人とも、それでいい?」

久美の問いかけに、黙って頷く美佳と美樹。

 

美佳がリングに上がると、程無く、美樹もリングに上がった。

まだ照明は落とされたままで、二人のシルエットだけが浮かび上った。

《 只今より本日のセミファイナル、異種格闘技戦無制限一本勝負を行います。

  尚この勝負は、UFC第1回大会のルールに準じて行われます 》

「美佳ネエ、本当に大丈夫?」

リング下から、亜希子が訊いた。

「なにが?」

「さっき言ったこと。終わった後・・・」

「大丈夫!試合よ、試合!」

先程と同じように、亜希子を安心させようとする美佳の顔は、少し強張っていた。

「でもぉ・・・」

亜希子が言い終わらないうちに、スポットライトがリングを照らした。

 

【川村さんが二人いる!】

リング上が照らされると、会場にどよめきが起こった。

 

《 あかーコーナー、県立長浦高校2年、柔道二段、かわむらー・みーかー 》

美佳は、上に羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てると、軽く右手を上げた。

《 あおーコーナー、プロレス同好会所属、2年、かわむらー・みーきー 》

美樹も軽く右手を上げて、声援に応えた。

《 会場の皆様もお気づきと思いますが、この二人は双子の姉妹です。

  この闘いは、姉・美佳と妹・美樹の・・・ 》

静かにアナウンスが続いた。

 

 カーン

ゴングが鳴ると、美佳と美樹はゆっくりとリング中央に進んだ。

美樹は立ち止まると、両手を上げて力比べをしようと誘った。

これに応えるかのように、美佳も両手を上げて、美樹の手と合わそうとした。

(一度組み合ったら、どちらかが倒れるまで闘い続けなければならない!)

その思いに、二人の手は、慎重にその距離を縮めていった。

「プロレスじゃないんだよ!」

二人の手が組み合わさる直前、美佳の前蹴りが美樹のお腹を襲った。

「あうっ、このやろぉ!」

一瞬怯んだ美樹は、直ぐに気を取り直すと美佳の腕を掴んでロープに振った。

 ドゴーン

身体を返す術を知らない美佳は、正面からロープに当たると跳ね返されて倒れた。

美樹は、仰向けにひっくり返った美佳のお腹にエルボーを落とした。

「あうっ、あうっ」

美樹のエルボーが入るたび、美佳の身体はくの字に跳ね上がる。

「おきろー!」

美樹は、美佳の髪を掴んで引きずり起こすと、今度はボディスラム。

「でーやっ!」

「あうっ、がはっ」

仰向けにひっくり返っている美佳に、美樹のエルボーが入った。

一瞬、くの字になると、お腹を押さえて苦しむ美佳。

「もう一丁!」

またもや美樹のエルボーが美佳を襲った。

「くっ、させるか・・・」

間一髪で、転がりながら逃げる美佳。

 ボコッ

「うっ、ちくしょう・・・」

自爆した美樹は、肘を押さえて立ち上がろうとしている。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

美佳が、膝に手をついて息を整えていると、美樹が立ち上がって構えた。

(やっぱり美樹が相手じゃ、やりずらいな・・)

左手を自由にしながら右手を斜めに上げ、慎重に近づく美佳。

 バシッ

美佳のローキックが、美樹の太股にヒット。

美樹はお返しとばかりに、美佳のお腹めがけて前蹴りを入れた。

「うっ」

お腹を押さえて、少し後ろに下がる美佳。

「そーれっ!」

 ドコッ

美樹はその場で飛び上がると、美佳の胸元めがけてドロップキックを放った。

「く、くそぉ・・・」

美佳が胸を押さえて立ち上がったところに、再び美樹のドロップキックが炸裂。

「あぁぁっ・・・」

ドロップキックの勢いに、コーナーポストまで吹っ飛ばされる美佳。

美樹は素早くコーナーまで来ると、美佳の髪を掴んで立たせた。

 

(美樹ネエの方が強いの?やっぱり柔道じゃプロレスに敵わないの?)

目の前で繰り広げられる攻防を、亜希子は心配そうな表情で見守っていた。

 

 パシーン

美樹のビンタが、美佳の左頬に入った。

そして、怒った顔で美佳の髪を掴むと、顔を近づけてきた。

「あんた、私のことバカにしてんの?

 美佳に手加減してもらって勝ったら、私が惨めなだけじゃない!」

美樹は、小声で美佳に囁くと、髪を離してさっさとリング中央へ行ってしまった。

(そうだね、美樹。ごめんね!)

美佳は心の中で謝ると、キッと美樹を睨みながらリング中央へ向かった。

 バシッ

怒った顔のままの美樹に、美佳が力強い回し蹴りを入れた。

(やっと本気出してきた)

美佳の蹴りを膝でガードした美樹の表情が一瞬ゆるんだ。

(美佳、本気でやろう!)

(そうだね美樹、とことんやろう!)

美佳と美樹の目が合った。

 バシッ 

 バシッ

美佳が再び回し蹴りを放つと、同時に美樹も回し蹴りを入れてきた。

すると美佳は、素早く美樹の懐に入って、右腕を掴んだ。

が、それを見越していた美樹は、腕を美佳の首に回すと強引に後ろへ倒した。

 バタン

「あっ、こ、このぉ・・・」

しかし、仰向けにひっくり返った美佳は、美樹の脚を掴んだ。

だが美樹も、美佳の左脚を掴むと膝で太股を押さえつけ、美佳の左膝を捻った。

「そりゃ!」

「あうっ、このぉ・・・」

美佳は膝の痛みを我慢しながら、後から抱きつくように美樹の首に腕を回した。

美樹の脳裏に、中学の柔道大会で、美佳に裸絞めで落とされた時の記憶が蘇った。

「うっ、させるかぁ・・・」

美樹は美佳の腕を掴むと、くぐるようにして外した。

執拗に美樹の首に腕を回そうとする美佳。

美樹は体勢を崩しながらも、必死になって逃げつづける。

 ガシッ

「どうだぁ!」

美佳は、左腕が美樹の首にかかると、左手首を右肘でがっちりと挟んだ。

「あっ、あうっ・・・」

必死にもがいて逃げようとする美樹が、身体のバランスを大きく崩した。

すると美佳は、美樹の細いウェストに脚を巻きつけて絞め上げた。

(しまった・・・)

「あっ、うぐっ・・・」

美佳の胴絞めチョークスリーパーに、だんだん意識が薄れていく美樹。

「落ちる前にギブアップする?」

美佳が美樹の耳元で囁いた。

真っ赤な顔をした美樹の、もがくスピードがだんだん緩やかになってきた。

(もうすぐ落ちる・・・美樹、ごめんね)

「だんだん気持ち良くなってきたでしょ。昨夜とどっちがいい?」

 

(昨夜・・・・)

美樹の身体が、ビクンと跳ねた。

(美佳より先にいっちゃった・・

 柔道でも負けて、あれでも負けて・・・

 でも、リングの上では美佳に負けたくない!)

薄れる意識の中、美樹は右腕を曲げると大きく後ろに振った。

 ボコッ

「あうっ」

美樹の渾身のエルボーが、美佳の脇の下に入った。

一瞬ひるむ美佳。

美樹はすかさず身体を返すと、美佳の髪を掴んでマットに押さえつけた。

「あっ、このぉ!」

美佳は慌てて脚を離すと、美樹のお腹めがけて踵を叩き込んだ。

 ボコッ

「うっ」

逃げるように立ち上がる美樹。

しかし、すかさず美佳の髪を掴んでヘアーホイップ。

 ズダン

そして美樹は、美佳の後ろに膝立ちになると、スリーパーをかけた。

「あっ、このぉ・・・」

美佳は、美樹の腕からスルッと抜けると、後ろに回りこんで裸絞め。

そしてマットにお尻をつけると、脚を大きく開いて、またもや胴絞めスリーパー。

「あぐっ、あがっ・・・」

 ボコッ、ボコッ・・

「あっ、あっ・・・」

苦悶の表情の美樹が、両肘を美佳の太股に打ち下ろした。

美佳は、美樹の腕を押さえようと、首に絡めた腕を離した。

「そりゃっ」

美樹はするっと身体を返して美佳と向き合うと、首に腕を巻きつけた。

「あうっ」

フロントスリーパーが極まると、美樹の胸の重みで、美佳の胸が拉げた。

「こ、このぉ・・・」

「あうっ」

美佳が脚に力をこめると、美樹の身体が大きくのけぞった。

 ボコッ、ボコッ・・

再び、美樹の肘が美佳の太股に打ち込まれると、美佳の脚から力が抜けた。

美樹は両手を開くと、美佳の脚の付け根を押さえつけた。

そして、親指を美佳の割れ目に押し付けた。

「あんっ」

予想だにしなかった攻撃に、逃げるように美樹から離れる美佳。

美樹が腰を押さえながら立ち上がると、美佳も慌てて立ち上がった。

慎重に間合いを取りながら、美佳と美樹は睨み合った。

 

(そうゆう事するの?)

(勝つためだったら、なんでもやるよ!)

美佳が目で問い掛けると、美樹も目で答えた。

「そーりゃっ!」

 ズダンッ

美佳は、素早く美樹の右腕を掴んで懐に入ると、一本背負いで美樹を投げた。

そしてそのまま、お尻から倒れこむように腕ひしぎ十字固め。

ところが、美樹もクラッチを切ろうと、覆い被さるように左腕を伸ばしてきた。

「させるかぁ!」

 ボコッ

美佳は、美樹の横顔に蹴りを入れた。

「あうっ、このぉ!」

必死に伸ばす美樹の左手が、ようやく右手に届いた。

美佳は、まだ必死に腕ひしぎをかけようと、美樹の腕を掴んで離さない。

「このやろぉ!よくも・・・」

腕を掴まれながらも、美樹は起き上がると美佳を押さえつけた。

そして中腰のまま、美佳の太股からお尻にかけて膝蹴りを入れた。

 ボコッ、ボコッ・・

「あっ、あうっ、あんっ・・・」

体勢を崩しながらの膝蹴りが、美佳の股間を直撃した。

 

「アキちゃんだっけ?どっち応援してるの?」

美佳と美樹の闘いを、心配そうな表情で見つめる亜希子に、奈津子が声をかけた。

「あっ、この間はどうも・・・」

答える亜希子の顔が、怪訝そうな表情になった。

「あなただけ、なんで制服着てるんですか?」

亜希子の質問に、奈津子は黙ってスカートを捲くり上げた。

「やっちゃった!全治3ヶ月だって・・・」

奈津子の右膝には、ギブスがはめられていた。

「やっぱり、怪我とかはしょっちゅう・・・」

「ほらっ、やるわよ、川村先輩の得意技!」

奈津子は、亜希子の言葉を遮ると、リング上を指差した。

 

美佳の鳩尾に、美樹の爪崎蹴りが突き刺さった。

 ボコッ

「あうっ」

お腹を押さえて、屈み込む美佳。

美樹は、美佳の髪を掴んで押し下げると、頭を太股でがっちりと挟んだ。

「いくぞー!」

右手を高々と上げて、美樹が叫んだ。

(えっ、どうなるの?)

太股を殴りつけながら、必死に抵抗する美佳。

美樹は美佳のお腹に両手を回すと、逆さまに抱え上げた。

「あっ、いやっ、いやっ・・・(こんな体勢じゃあ受け身がとれない!)」

美佳が小さな悲鳴を上げた。

美樹は軽く飛び上がると、脚を投げ出すようにお尻からマットに落ちた。

 ボコッ

 ズダーン

パイルドライバーをくらった美佳は、悲鳴も上げずに仰向けに倒れた。

美樹は、ピクリとも動かない美佳の左腕をとると、腕ひしぎ十字固めを極めた。

「あっ、痛っ・・・」

激痛に意識が戻った美佳は、慌ててクラッチを切ろうと上半身を起こした。

「お返しだぁ!」

 ボコッ

「あうっ」

美佳の左頬に、美樹の踵がめり込んだ。

 

(やばっ・・ このままじゃ・・ 美樹、知ってるのかなぁ?)

「あぁぁぁぁっ・・・」

美佳の口から悲鳴がもれた。

「ギブは?」

美樹が訊いた。

「いやっ、誰が、あぁぁぁっ・・・」

美佳が拒絶すると、美樹は両腕に力を入れた。

(このままじゃ、また左肩が・・・)

「あぁぁぁっ・・・」

「美佳、ギブして!」

苦痛に歪む美佳の顔を覗き込んだ美樹が、懇願するように言った。

(この娘、確か夏休みにサポーターを・・・)

激痛に耐えながら美佳は、美樹の左の足の裏を右手でがっちりと掴んだ。

(美樹、ごめんね!)

美佳は、心の中で美樹に謝ると、右手を捻った。

「あぁっ、だめっ・・・」

美佳の反撃に気がついた美樹が悲鳴を上げた。

(やっぱり・・)

「んあぁぁぁぁっ・・・」

美佳は右手に渾身の力を込めて、美樹の左足を捻った。

「だめっ、あぁぁぁぁぁっ・・・」

左膝に激痛が走ると、思わず全身に力が入る美樹。

 ゴリッ

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

鈍い音と共に、美佳の絶叫がリング上に響いた。

美佳は腕ひしぎをかけられたまま、左肩を押さえてもがき苦しんでいる。

 

「美樹ネエ、もうやめてぇ!」

激痛が去った美樹は、亜希子の絶叫で我に返った。

「あっ、美佳・・・」

美樹は慌てて、美佳の左腕を離した。

 カン、カン、カン、カン・・

異変に気がついた久美が大きく手を振ると、ゴングが鳴った。

「あぐっ、あがっ、あぐっ・・・」

美佳は、左肩を押さえたままで、のた打ち回っている。

「美佳、美佳・・・」

「あうっ、あがっ、あがっ・・・」

「美佳、ごめんね、ごめんね・・・」

美佳の隣で膝をつく美樹。

「美佳ネエ、美佳ネエ・・」

亜希子もリングに上がってきた。

 

「うっ、うっ、うっ、うっ・・・」

少し落ち着きを取り戻した美佳は、左肩を押さえたままで横たわっている。

「美樹ネエのばかぁ!」

亜希子が美樹にを怒鳴った。

「ア、アキちゃん、いいのよ!試合なんだから・・・」

美佳は、苦痛の表情で亜希子に言った。

「お姉さん、大丈夫なの?どうなってるの?」

久美が心配そうに覗き込みながら訊いた。

「左肩がはずれたみたい・・・」

肩の痛みに、言葉が途切れる美佳。

「和田、どっかに菅原が居ないか探してきて!」

リング下の奈津子に、久美が命じた。

 

《 ただいまの勝負、

  21分48秒、レフェリーストップで、川村美樹選手の勝ちです 》

柔道部の菅原良子を連れて戻ってきた奈津子が、アナウンスをした。

しかし、会場からは疎らな拍手が起こるだけで、皆一様に、心配そうな表情で

リング上を見守っている。

 

「川村さん、こんな所でどうしたの?」

良子が美佳を見下ろしながら訊いた。

「美佳、菅原先輩を知ってるの?」

「えっ?、あれっ?、えっ・・・」

美佳と美樹を見比べて、目を白黒させる良子。

「良子、この娘知ってるの?」

「県大会の準決勝でこの娘に負けちゃったの・・・」

久美の質問に良子が答えた。

「それより・・・川村さん、外れてるの?」

「そうみたい、あっっっ・・・」

良子が優しく美佳の肩を撫でた。

「痛いけど我慢できる?」

「ちょっと待って!美樹、タオル無い?」

美樹が黙ってスポーツタオルを差し出すと、美佳はそれを口に咥えた。

そして、良子に向かって頷くと、目をぎゅっと閉じた。

「やるよ!よっ、それっ・・・」

「・・・・・・・・・・・」

悲鳴が漏れないようにと、タオルを噛締める美佳の目から涙がこぼれた。

黙って見守る美樹と亜希子の目にも、涙が浮かんできた。

 

「よーしOK!軽く動かしてみて!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

良子の手が離れると、美佳は荒い息遣いで左腕をそっと動かした。

「ありがとう、大丈夫みたい・・・」

「暫くは、じっとしてた方がいいわよ」

美佳は頷くと、ゆっくりと立ちあがった。

そして、右手で美樹の手首を掴むと、高々と掲げた。

 ウォー

 ワァー

体育館が歓声に包まれた。

 

 

「美佳、まだ起きてる?」

深夜、美樹が廊下から小さな声で訊いた。

「起きてるよ」

美佳が答えると、美樹が静かに入ってきた。

「美佳、ごめんね。まだ痛む?」

「ううん、もう大丈夫」

答えた途端、美佳の目から涙がこぼれた。

「美佳、どうしたの?」

「うっ、うっ・・・美樹に負けた・・・」

必死に嗚咽をこらえる美佳。

「悔しいでしょ!私だって、いつもいつも美佳に負けて・・・」

美樹の目にも涙が浮かんできた。

「勝っても負けても・・・」

美佳が言いかけると、美樹は唇で、美佳の唇を塞いだ。

 

「あっ、あんっ、あっ・・・」

「あんっ、あぁっ、あんっ・・・」

「あっ、いいっ、あぁっ・・・」

「あんっ、だめっ、いいっ・・・」

「あっ、そこっ、あんっ、だめっ、いいっ・・・」

「あんっ、いくっ、あんっ、あぁっ・・・」

美佳の部屋には、悩ましげな吐息と湿った音がいつまでも続いていた。

 

                               (おわり)

 

 

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