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Retaliation

 

 

 

「眞純、志望校決めた?」

学校からの返り道、奈津子が訊いてきた。

「宝華か青葉女子か、迷ってるんだ。ナツは付属でしょ?制服が可愛いって・・・」

「高校は制服なんかで選んじゃダメよ。私は西浦を受けるの」

「えーっ、あそこ、レベル高いじゃない!大丈夫なの?」

「失礼な!ねえ、眞純も一緒に西浦に行こうよ!眞純の頭なら楽勝でしょ!」

「そりゃあ、私は大丈夫だと思うけど、なんで急に西浦なんかにしたの?」

「文化祭見てきめたの」

「そーいえばナツは、熱心にいろんな高校の文化祭行ってたね。でも、なんで?」

「あそこ県立にしては、スポーツが盛んなのよね。ボクシング部もあるし」

「そうね、インターハイに出た人もいるしね」

「それにこの辺の高校でボクシング部あるの、県商工と西浦しかないんだもん」

「なんでボクシング部が関係あるの?」

「まだ判らないの?ボクシングってどこでやる?」

「そりゃあリングで・・・あっ、ナツ、またプロレスやる気?」

「だからぁ、眞純もまた一緒にやろう!」

「呆れた娘ねぇ、まだそんなにプロレスやりたいの?

 いっそのこと、高校行くのやめて、プロレスラーになったら?」

【この娘には付き合いきれない】といった表情で、奈津子を見つめる眞純。

「プロレスラーなんて嫌よ、あんな筋骨隆々なんて・・・

 それより、眞純も一緒に西浦行こうよ!」

「えーっ、私はエスカレーターで大学に行けるとこがいいのに・・・」

「でも私立って、入学金とか授業料とか高いんでしょ。県立にすれば親も喜ぶし、

 眞純のお小遣いUP、間違い無し!」

奈津子の言葉に、動揺する眞純。

「ねっ、西浦行こう!」

「お小遣いUPの為なら、仕方がないか。」

「そうこなくっちゃ。じゃあ早速、今度の日曜日に学校訪問しよう!」

「もうやる気なの?」

「善は急げって言うでしょ!」

呆れ顔で立ち尽くす眞純をよそに、奈津子はさっさと歩いていってしまった。

 

そして日曜日。

「おじゃましまーす」

「失礼しまーす」

道場の扉をそっと開けて、忍び込む奈津子と眞純。

「わーい!リングリング」

奈津子はリングを見ると、嬉しそうにはしゃいだ。

「ひさしぶりねぇ」

眞純も、懐かしさからか、思わずつぶやく。

「ますみぃ、早くやろう!」

奈津子は、更衣室とおぼしき扉を開けて、さっさと中に入ってしまった。

「しょうがない娘ねぇ」

眞純も微笑みながら、奈津子の後を追った。

 

 

「沙織さんとやるの来週だっけ?」

校門をくぐりながら、晴美が聞いた。

「やっと、トレーナーを口説き落としたんだから。絶対勝ってやる。」

「本当に勝てるの?」

「大丈夫だって。私の強さ、これから晴美に見せつけてあげるよ。」

「じゃあ、私が勝ったら?」

「それは無いから、変な心配しなくてしなくていいよ!」

「まったくもう・・ 私ちょっと部室に寄ってから行くね。10分位で行くから。」

「わかった。先に行ってるね。」

 

年が明けると、あと3ヶ月で受験生となってしまう優美。

しかしまだ、月1回のペースでビデオへの出演を続けていた。

1回の出演でファイトマネー5万円は、高校生の優美には魅力的だった。

そして、晴美まで一緒に出演させる事に成功していた。

ただ、やはり晴美も、顔を出す事は嫌がった。

元々、優美も顔がばれないようにと、覆面を被っていたのだった。

そして、覆面を剥がされまいと、人一倍ラフ・ファイトが多いのも事実だった。

それを指摘されると、今度は、顔にペイントを施して、闘うようになっていた。

晴美にもそれを勧めて、二人で【謎の女子高生コンビ】として、売り出していた。

 

(何の音だろう?)

校舎の角を曲がった優美の耳に、何かを打ちつけるような音が飛び込んできた。

(道場からだ。誰かいるのかな?)

そーっと扉を開けて道場の中に入ると・・・

なんと水着姿の少女達が、リング上で取っ組み合いをしていた。

(へぇー、似たようなこと考えてる娘もいるんだ。でも、見たこと無い娘達ね。)

 

「ちょっとあんた達、何やってんの?」

リング上をしばらく眺めていた優美が、いきなり声をかけた。

眞純がフルネルソンを極めたままで、リング上の二人の動きが止まった。

「あんた達、誰?1年生?」

「・・・・・・・・」

リング上で黙ったままの奈津子と眞純。

「黙ってちゃわからないでしょ。あんた達、うちの学校の娘?」

「二中です。」

「中学生っ?! ったく、何考えてんのよ?」

言葉とは裏腹に、優美の顔は笑っている。

 

「ちーっす!」

部室で着替えてきたのか、ジャージ姿の晴美が、勢いよく入ってきた。

「なに、この娘たち?」

水着姿の奈津子と眞純に目を向けると、優美に聞いてきた。

「中坊だって。プロレスやってたみたい。」

「へぇー、あきれたぁ・・」

(なんか小さい方、どっかで見たことあるなぁ)

「どこの中学?」

二人を見比べていた晴美が、奈津子の顔をまじまじと見ながら聞いた。

「二中です。」

「じゃあ違うか。」

(同じ中学の後輩かとも思ったけど、気のせいかな?)

 

「そんなにプロレスがやりたいの?」

優美が二人に聞いた。

二人とも黙ったまま、こくんと頷いた。

「じゃあ、私たちとタッグマッチやろうか?」

「・・・・・・・・・・・」

優美の言葉に、奈津子も眞純も頭の中が混乱して、目を白黒させている。

「だめよぉ、優美は手加減するのが下手だから・・・」

「下手で悪かったわね!」

「中学生を泣かせるわけにもいかないでしょ!」

晴美が止めようとした。

「そんなのやってみなきゃ判らないでしょ!」

すると、いきなり奈津子がくってかかってきた。

「あらあら、結構強気じゃない」

優美の顔から笑いが消えていた。

「ちょっと待って!二人がちゃんとプロレスできるか、私が見てあげる。」

「どうするんですか?」

「二人でプロレスやってみて。私がレフェリーやるから。」

眞純の問いに、晴美が答えて、そのままリングに上がった。

「ほら、おいで」

リング中央で手招きして、奈津子と眞純を近寄らせるとボディチェックを始めた。

 

「はいっ、じゃあ握手して! コーナー!」

二人は、言われるままに握手をすると、コーナーに別れていった。

「優美、ゴング鳴ら・・」

晴美が優美の方を向いて言いかけたとき、突然、眞純が振り返った。

そして、コーナーに向かう奈津子の背中に向けてドロップキックを放った。

「あうっ」

奈津子は小さな呻き声をあげながら、コーナーポストを抱えるように膝をついた。

 カーン

あっけにとられていた優美が、あわててゴングを鳴らした。

眞純は、奈津子の髪を掴んで立ち上がらせると、反対側のコーナーに振った。

奈津子は、背中からコーナーポストに叩きつけられた。

そこに眞純は、勢いよくジャンピングエルボーを放った。

しかし、奈津子が前に転がりながら避けたので、自爆する眞純。

「このやろー!」

叫びながら、奈津子は眞純にドロップキックを放った。

「あんっ」

眞純は、コーナーポストに寄りかかったまま奈津子の攻撃に耐えている。

すると奈津子は眞純の髪の毛を掴んで、リング中央まで引きずって行った。

そして屈むように右腕を眞純の脚の間に入れ、ボディスラムをかけようとした。

眞純は懸命に堪えると、逆にボディスラムをかけようと、奈津子を抱え上げた。

しかし奈津子は、眞純の頭上で身体を反転させると眞純の背後に着地。

そのまま、バックドロップをかけようと、眞純のお腹に手を回した。

「あっ」

奈津子の行動に慌てた眞澄は、肘を立てた上半身を回して、奈津子を振り払った。

 

「結構やるじゃない!」

スピーディーな展開に、優美はリング下から、晴美に声をかけた。

「そうね」

奈津子と眞純を目で追いかけながら、返事をする晴美。

 

睨み合いながらリング上をぐるぐる回っていた二人が、徐々に近づいていった。

「それっ!」

奈津子は眞純のお腹に前蹴りを入れると、すかさず腕を取ってロープに飛ばした。

が、眞純はロープをしっかりと掴んで、奈津子の方へ返っていかない。

すると奈津子が、眞純に向かって突進してきた。

だが、それを見越していた眞純は、奈津子のお腹に前蹴りを入れた。

「あうっ」

小さな悲鳴を上げて、お腹を押さえる奈津子。

すると眞純は、奈津子の腕を取り、ロープに飛ばした。

勢い良く飛ばされた奈津子は、胸からロープにぶちあたった。

「あんっ」

小さな悲鳴とともに、跳ね返って仰向けに倒れる奈津子。

眞純は、素早く立ち上がりかけた奈津子の胸に、ドロップキック。

 ドコッ

ドロップキックがきれいに極まると、眞純は再び自らロープに飛んで行った。

そして勢いをつけたドロップキックを奈津子に放つと、そのままフォール。

 

「ワンッ、トゥッ、」

晴美のカウントが入る。

奈津子は、カウント2で跳ねるようにして肩を上げた。

眞純は悔しそうな顔をしながら立ち上がると奈津子の髪を掴んでヘアーホイップ。

そして、奈津子の後ろで膝をつくと、スリーパーホールドで絞め上げた。

「あっ、がはっ」

しかし奈津子は、眞純の腕を潜って後ろに回りこむと、眞純の腕を捩じ上げた。

「あんっ」

だが眞純も身体の位置を入替えると、お返しとばかりに奈津子の腕を捩じ上げた。

「あぁぁぁっ・・・」

そして眞純は、奈津子の腕を捻りながらその場でジャンプした。

悲鳴と共に肩を抑えて膝をつく奈津子。

すると眞純は、奈津子の肩に跨り、極めている腕をさらに捻った。

「あぁぁっ・・・」

肩への痛みに、たまらずうつぶせに崩れる奈津子。

すかさず眞純は、奈津子の背中に自分の身体を落とすと、腋固めを極めた。

が、奈津子もじたばたもがいて眞純の技を外すと、転がるようにロープへ逃げた。

 

「本当のプロレスみたい!」

優美がリング下で、感嘆の声を上げる。

眞純は、奈津子をロープ際まで追いかけると、アームホイップを連発。

そして腕を掴んで奈津子を起こすと、眞純は、腕を捻りその場でジャンプした。

またもや腕を極められて、苦痛に顔を歪める奈津子。

すると眞純は、奈津子の腕を自分の膝の上に落とした。

「あぁぁぁぁっ・・・」

悲鳴と共に、肩を押さえて膝をつく奈津子。

眞純は、奈津子の髪を掴んで引きずり起こすと、後ろからお腹に手を回した。

「させるかぁ!」

しかし奈津子は、身体を左斜め下に滑らせて、回転えび固めをかけた。

予期しない反撃に、眞純はもがき暴れた。

すると奈津子は、眞純の髪を掴んで引きずり起こし、ロープへ飛ばした。

そして、返ってきたところへドロップキック。

ズダーン

仰向けにひっくり返った眞純は、頭を振りながら立ち上がろうとした。

そこに、自らロープに飛んで勢いをつけた奈津子が、またもやドロップキック。

そして眞純の身体に覆い被さるようにしてフォール。

「ワン、トゥ・・」

晴美のカウントが入る。

「んあぁぁぁっ」

眞純は、ブリッジで肩を上げ、晴美のカウントを止めさせた。

奈津子は、平手で眞純のお腹を1発叩くと、髪を掴んで引きずり起こして首投げ。

そして、倒れている眞純の、肩といわず背中といわずストンピング連発。

「あっ、あうっ、あうっ・・・」

眞純は俯せのままで、奈津子の攻撃に耐えている。

すると奈津子は、眞純を引きずり起こして背負い投げ、さらにアームホイップ。

そして最後に、ボディスラムでリングに叩きつけ、ダイブしながらフォール。

「フォール!」

奈津子が叫ぶ。

「ワンッ、トゥーッ」

同じようにダイブしながら、二人の横に並んだ晴美のカウントが入る。

 

「んぁぁぁぁぁっ」

眞純は気合いを入れながら、ブリッジで返した。

「ちくしょう!」

奈津子は、眞純のお腹を手のひらで叩くと、素早く立ち上がり首投げへ。

が、眞純はするりと後ろに回り込むと、奈津子にバックドロップを放った。

「フォール!」

眞純が叫ぶ。

が、晴美がカウントする前に、奈津子はじたばたともがいて眞純の横に転がった。

「ちくしょう!」

眞純は素早く立ち上がると、奈津子をロープに飛ばした。

そして、返ってきた奈津子の胸に、右肘を突き刺した。

「あうっ」

うめき声と共に、仰向けにひっくり返った奈津子に、眞純は覆い被さった。

「フォール!」

「ワンッ、トゥー」

奈津子はブリッジで、晴美のカウントを遮った。

眞純は起きあがると、奈津子の両脚を掴んでリング中央へ引きずって行った。

「あっ、いやっ、いやっ・・・」

そして、奈津子の悲鳴を無視するように、逆えび固めを極めた。

「あっ、あうっ」

呻き声とも悲鳴ともつかない声を上げて、歯を食いしばって耐える奈津子。

「ギブは?」

「ノオォォォ!」

すると眞純は、突然、奈津子の左脚を離した。

そして、右脚を抱えるように掴み直すと更にのけぞった。

「あぁぁぁっ」

甲高い悲鳴を上げた奈津子は、腰に手を当てて必死に耐える。

すると眞純は、奈津子の脚を離して、すかさずキャメルクラッチを極めた。

苦悶の表情で耐える奈津子は、なんとか逃れようと、眞純の脚に肘を叩きつけた。

 ボコッ、ボコッ・・

「あっ、あっ・・・」

体勢を崩された眞純は、今度はボディシザーズで、奈津子のお腹を絞め上げた。

しかし奈津子は、臍の前で組まれた眞純の足を掴むと、そのままのけぞり叫んだ。

「フォール!」

眞純は反動をつけると、奈津子のお尻を思いっきりマットに叩きつけた。

「あぁぁっ」

奈津子は、小さな悲鳴を上げながらも、眞純の脛に肘打ちを連発。

「あっ、痛っ、いてててっ・・・」

眞純が悲鳴を上げると奈津子は、眞純の右脚を掴んで捻った。

「こっ、このぉ・・・」

眞純は上半身を起こすと、奈津子の首に、腕を回そうとする。

しかし奈津子も、これを防ごうともがく。

「こっ、このぉ・・・」

「させるかぁ・・・」

執拗に、奈津子の首に腕を回して、スリーパーフォールドをかけようとする眞純。

が、奈津子は眞純の右脚を掴んだまま立ち上がると、太股にストンピングを連発。

そして、眞純が太股を押さえている間に、リング中央へ引きずっていった。

「あっ、あっ、離せこのぉ・・・」

奈津子は、素早く眞純の身体を俯せにすると、インディアンデスロックを極めた。

「あぁぁぁっ・・・」

思わず悲鳴を上げる眞純。

奈津子は何度か膝をつき、眞純の脚に衝撃を与えながら、髪の毛を引っ張った。

「あぁぁっ、いてててっ、ヘアー、ヘアー・・」

「ワン、トゥー、スリー、フォー」

奈津子は、晴美が反則をとり始めると、立ち上がって背中にストンピング連発。

そして、首投げ、ボディスラム・・・

奈津子は、眞純の身体を何度もマットに叩きつけるとフォール。

「フォール!」

「させるかぁ!」

しかし眞純は、覆い被さってくる奈津子に絡みついて回転エビ固め。

「フォールだぁ!」

「あっ、このぉ・・・」

奈津子がじたばた暴れると、晴美がカウントをとる間もなく崩れた。

眞純は、素早く立ち上がると、奈津子をロープに飛ばした。

そして返ってきた奈津子の胸元へ、強烈なエルボーを放った。

「うっ」

胸を押さえて立ち止まる奈津子。

眞純は自らロープに飛んで勢いをつけると、再度、奈津子の胸元へエルボー。

そして完全に動きが止まった奈津子の髪を掴むと、ヘアーホイップ3連発。

最後に、髪の毛を掴んで引きずり起こして立たせると、その場でドロップキック。

 バタン

眞純は、奈津子に覆い被さると叫んだ。

「フォール!」

「ワンッ、トゥーッ・・・」

「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・」

晴美のカウントに応じるかのように、奈津子は気合いを入れながら肩を上げた。

「チェッ」

眞純は舌打ちをしながらも、奈津子のお腹を叩いてから立ち上がった。

そして奈津子の髪を掴んで引きずり起し、首投げでお尻からマットに叩きつけた。

「あんっ」

小さな悲鳴とともに、お尻を押さえて痛がる奈津子。

眞純は、素早く奈津子の背中に膝を押しつけると、サーフボードストレッチ。

「あっ、あぁぁぁっ・・」

「ギブッ?」

眞純が奈津子に訊く。

「ノ、ノォォォ・・・」

奈津子も必死に応える。

すると眞純は、奈津子を立たせてた。

そして、後ろから腰にしがみつくと、アトミックドロップ。

 ボコッ

「あぁぁぁぁっ」

奈津子はお尻を押さえ、爪先立ちになって痛がっている。

「もう一丁!」

「あっ、いやっ、いやっ・・・」

眞純は奈津子を抱え上げると、またもやアトミックドロップ。

「もう一丁だぁ!」

眞純は、奈津子の身体を再度持ち上げた。

が、奈津子も負けてはいない。

眞純の頭上で身体を捻ると、そのまま、のし掛かるように浴びせ倒した。

そして素早く立ち上がりると、自らロープに飛んだ。

「・・・・・・・・」

眞純は、目を瞑って頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がってきた。

そこにロープで勢いをつけた奈津子のドロップキックが襲った。

だが眞純は、両手で奈津子を叩き落とすと、すかさず胸元へエルボー。

そして、胸を押さえている奈津子に、ギロチンドロップをみまった。

奈津子がぐったりすると、眞純は奈津子を押さえつけた。

 

「ワンッ・・」

晴美のカウントが入ると、奈津子は素早く肩を上げた。

眞純はまたもや奈津子をロープに飛ばすと、返ってきた奈津子の胸へエルボー。

「あんっ」

しかし奈津子は、必死に耐えると、右手を握りしめ眞純の頬に叩き込む。

「あうっ」

たまらず眞純は、リングに仰向けにひっくり返った。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ・・

奈津子は、眞純のお腹にストンピングを入れると、自らロープに飛んでいった。

しかし眞純は素早く立ち上がると、戻ってきた奈津子のお腹に膝蹴り。

「うっ」

お腹を押さえて立ち止まった奈津子。

眞純は、奈津子をサイドスープレックスでマットに叩きつけ押さえ込んだ。

「フォール!」

眞純が叫ぶ。

「ワンッ、トゥー・・」

ダイビングするように奈津子の横に並んだ晴美のカウントが入る。

ピクリとも動かない奈津子。

「スリー」

「イェーイッ!」

奈津子の身体を離すと、飛び上がりながらガッツポーズをとる眞純。

「大丈夫?」

倒れたままの奈津子に、晴美が訊いた。

「うんっ、だ、だいじょーぶ!」

うっすらと目を開いた奈津子が答えた。

晴美は立ち上がると、眞純の左手首を掴み、高々と揚げた。

「ウィン、えーっと・・・」

(そういえば、まだこの娘たちの名前訊いてなかった)

「ますみ」

言葉に詰まった理由を察した眞純が、名乗った。

「ウィン、ますみっ!」

嬉しそうな表情の眞純とは対称的に、唇を噛む奈津子。

 

 パチ、パチ、パチ・・・

「なかなかやるじゃない、こんだけ出来れば私たちとやっても大丈夫みたいね」

手を叩きながら、優美がリングに上がってきた。

「そうね。じゃあ、何時にしようか?」

晴美が訊いてきた。

 

【女子中学生に、これだけ本格的なプロレスができる】

このことに優美も晴美も、何の疑問も思い浮かばなかった。

「来週は練習試合だし、その次はもう期末試験だし・・・」

壁にかかった予定表をみながら、優美は考えだした。

「年が明けたら、あんた達だって入試でしょ?西浦受けるの?」

優美は、奈津子と眞純に訊いた。

黙ってうなずく二人。

「じゃあ、西浦に合格したら、お祝いにタッグマッチやってあげる!」

3人の会話を黙って聞いていた晴美が言い出した。

「そうしましょう!マスミちゃんと、えーっと・・・」

「なつこ」

「マスミちゃんとナツコちゃん、合格記念タッグマッチ!」

優美は笑顔で、みんなに言った。

 

「ナツゥ、しっかり勉強しないとね!」

高校からの返り道、眞純が奈津子に声をかけた。

「・・・・・・・・・・・」

何を考え込んでいるのか奈津子は答えない。

「ユミさんの方、喧嘩になれば強いかもしれないけど、プロレスは全然だね。

 でも、ハルミさんの方は、結構手強いかも・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「ナツっ、どうしたの?」

さっきから黙ったままの奈津子に、眞純が訊いた。

「あのハルミって・・・ プリティー晴美・・・」

しばらく黙っていた奈津子が、ようやく口を開いた。

「プリティー晴美って、あのWPPWの?ナツのお姉さんの・・・」

「泣きながらタップしているお姉ちゃんの腕を・・・」

奈津子は、目にいっぱい涙を溜めている。

 

奈津子の姉の美津子と晴美は、3年前、WPPW(女子中学生プロレス連盟)の、

トーナメント戦の決勝で対戦したのだが、そのとき晴美は腕ひしぎ十字固めで、

美津子の腕を壊してしまったのだった。

そのとき小学6年生で練習生だった奈津子は、姉の敵討ちをしようと心に決めた。

そして中学生になると直ぐ、眞純と一緒にWPPWに正選手登録をした。

しかし、すでに晴美はリングを去った後だった。

【プロレスを続けていれば、きっとどこかでチャンスがある】

目標を失った奈津子であったが、眞純と一緒に練習に励んだ。

半年後、二人揃って新人戦の3回戦に進んだ時、突然WPPWは活動を停止した。

その後、奈津子と眞純は普通の中学生活を送っていたのであった。

 

「でも・・・そんな相手じゃあ、私たちじゃかないっこないよ!」

「絶対お姉ちゃんの仇をとってやる・・・」

「あんた、本気なの?」

「さっき見て判ったけど、あいつ昔ほど精彩がなかった・・・」

「でも私たちだって、もう2年も・・・」

「ますみぃ、さっき本気でやった?」

眞純は黙って首を振った。

「やっぱり・・・」

「ナツぅ、本気で勝てると思ってるの?」

奈津子は、黙ったまま先に歩いて行った。

 

 

「あの娘たち、二人とも合格したみたいね」

2ヵ月後、合格発表板を見ながら、優美が晴美に言った。

「それじゃあ、来週あたりにやる?」

「そうね、連絡してみるわ!」

「でも・・・」

言いかけて言葉に詰まる晴美。

「どうしたの?」

「わたし、あの娘たちとの試合でお終いにしようと思ってるの」

「なんで?」

「もうすぐ3年生でしょ!そろそろインターハイの準備もあるし・・・

 全身痣だらけの体操選手ってのも・・・」

「わかったわ。じゃあ次の試合は、晴美の引退記念も兼ねて・・・」

 

日曜日の午後、優美と晴美が校門で待っていると、奈津子と眞純がやってきた。

「準備はいい?」

晴美が眞純に訊いた。

「ええ、絶好調!試験の後、トレーニングしたから」

ボクシング部の部室に向かいながら、眞純が答えた。

「わたしたちと闘ったこと、後になってから後悔しないでよ!」

優美が笑顔で、奈津子に言った。

「その言葉、そっくり返してあげますよ!

 中坊に負けるなんて、恥ずかしいでしょうね」

奈津子は、睨みつけるように優美に言い返した。

「あらあら、強気だこと」

優美の顔から笑いが消えた。

 

4人揃って部室に入ると、真っ直ぐ更衣室に向かった。

優美は、以前晴美と闘ったときと同じ、真っ赤な競泳用の水着。

晴美も同じく、大きな花の絵がプリントされている水色のレオタード。

奈津子と眞純は、お揃いの紺色の競泳用水着を着けた。

更衣室から出てくると、4人とも、軽く身体をほぐしだした。

 

「3分あればいい?」

優美がゴングのタイマーをセットしながら、リング上の晴美に訊いた。

晴美が頷くと、優美はスウィッチをいれて自分もリングに上がった。

晴美は手馴れた調子で、奈津子と眞純のボディチェックを始めた。

終わると今度は、奈津子が、優美と晴美のボディチェック。

「じゃあ握手」

晴美の言葉に、それぞれ握手をするリング上の4人。

「あと30秒か。じゃあ、コーナーに戻って、ゴングで開始ね」

タイマーを見て晴美が言うと、奈津子と眞純は頷き合って赤コーナーに向かった。

優美と晴美も、青コーナーに向かった。

と、そのとき、奈津子と眞純が振り返った。

そして、コナーに向かう優美と晴美にドロップキックを放った。

「あっ」

ロープまで飛ばされる晴美。

「がぁっ」

コーナーポストに叩きつけられる優美。

奈津子と眞純は、二人がかりで優美を赤コーナーに連れて行った。

そして眞純は、ロープをくぐると、優美を外側から押さえつけた。

 

 カーン

ようやくゴングが鳴った。

(やられた・・・やるじゃない!)

ロープをくぐると、晴美は赤コーナーを見つめた。

 

 ボコッ、ボコッ・・

奈津子は、押さえつけられている優美のお腹に、何度も拳をめり込ませた。

「あっ、うぐっ、ひっ、ひきょ・・・」

眞純に羽交い絞めされている優美は、奈津子にサンドバッグのように叩かれる。

(晴美のヤツ、なんで助けに来ないのよ!)

お腹への痛みに、膝をつきそうになる優美を、眞純はしっかりと押さえている。

奈津子はトップロープを掴むと、優美のお腹に、今度は膝をめり込ませた。

「がはっ」

目に涙をうっすらと浮かべる優美。

「ますみっ!」

すると奈津子は、膝で優美をコーナーポストに押さえつけたまま、眞純とタッチ。

眞純はリング内に入ってくるなり、優美の髪を掴んでヘアーホイップ。

 ズダーン

宙を舞ってリングに叩きつけられる優美。

眞純は、優美の髪を掴んだまま、もう一度ヘアーホイップ。

そして、大の字になっている優美を引きずり起こすと、今度はボディスラム。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

開始早々、集中攻撃を受けて、半ばグロッキー状態の優美。

眞純は、もう一発ボディスラムで叩きつけると、そのまま優美に覆い被さった。

「フォー・・」

が、晴美はすかさずリング内に入ると、眞純の背中を踏みつけた。

「あっ」

背中を踏まれて、思わずお腹を浮かす眞純。

晴美は、眞純の脇腹を蹴り上げて横に転がした。

そして優美を引きずるようにして、青コーナーまで連れてきた。

 

「大丈夫?」

晴美の問いかけに、優美は睨みつけるように答えた。

「はぁ、はぁ・・な、なんで・・はぁ、はぁ・・もっと早く助けにこないのよ」

「やっぱ優美でも、二人掛りじゃあ辛いか・・・」

晴美は優美とタッチすると、眞純と向かい合った。

そして、ゆっくり眞純に近づくと、力比べでもしたいのか、両手を高く上げた。

眞純は立ち上がると、同じように両手を上げながら晴美に近づいた。

晴美と眞純の手が触れあった瞬間・・

 ドスッ

「ばーか!」

眞純は晴美のお腹に、力強い爪先蹴りを入れた。

そして、お腹を押さえる晴美の髪を掴むと、コーナーまで行って奈津子とタッチ。

リングに入ってきた奈津子は、晴美の髪を掴んでお腹に膝蹴りを入れた。

「うっ」

小さなうめき声とともに、晴美の動きが止まった。

すると奈津子は、ヘアーホイップ3連発。

「はぁ、はぁ・・・」

「こらぁ、起きろぉ!」

そして、大の字に倒れている晴美の髪を掴むと引きずり起こしてロープに振った。

背中からロープに叩きつけられて、バウンドする晴美。

奈津子は、晴美に狙いを定めると、勢いをつけてドロップキック。

しかし晴美は、ロープをがっちりと掴んで耐えた。

「きゃぁ」

悲鳴を上げながら、奈津子がマットに落ちた。

 

「このやろぉ!」

晴美は甲高い叫び声をあげると、奈津子のお腹にストンピング連発。

そして髪を掴んで引きずり起こすと、コーナーへと連れて行った。

「ゆみっ!」

優美がリングに入り奈津子を押さえつけた。

晴美は外に出ると、コーナーポストを間に挟んで、奈津子を羽交い絞めにした。

「お返しだぁ!」

優美は、奈津子の肩を押さえたままで、お腹に膝蹴りを連発した。

目をつむって、苦しげな表情の奈津子。

すると優美は、奈津子をリング中央へ連れていきDDT。

そして、倒れたままの奈津子を仰向けにすると、そのまま覆い被さった。

「フォールッ!」

「ワンッ!」

晴美が、エプロンを叩いてカウントする。

「ナツぅ、ナツぅ・・」

赤コーナーで、眞純が必死に叫ぶ。

「トゥー!」

晴美のカウントが続く。

「ス・・・」

晴美がエプロンを叩こうとすると、奈津子は右肩を上げた。

「ちくしょう!」

優美は、奈津子のお腹に平手を入れると素早く立ち上がった。

そして奈津子の右足を掴むと、そのまま、足四の字固めを極めた。

「きゃぁ」

「ギブッ?」

「ノォォォォ・・!」

必死に耐える奈津子。

優美は、マットをばんばん叩いて、奈津子の足に衝撃を加えた。

「あぁぁぁぁっ・・・」

奈津子の口から悲鳴が上がるが、それでも頭を振って必死に耐えている。

「しぶといねぇ・・これならどうだ!ギブッ?」

優美は、腰を浮かして脚への絞め付けを強めた。

「あぁぁぁぁっ・・・ノッ、ノォだ馬鹿やろう!」

奈津子は必死に耐え続ける。

すると眞純が乱入するや、優美のお腹を踏みつけるように走り抜けた。

「がはっ・・・」

そして、青コーナーの晴美めがけてラリアット。

「あうっ・・・」

苦悶の表情でお腹を押さえる優美と、リング下に落とされる晴美。

奈津子は四の字をはずすと、脚を引きずるように赤コーナーへ向かった。

素早く赤コーナーへ戻った眞純は、手を伸ばして奈津子とタッチ。

すかさず優美の元へ駆け寄ると、ボディスラム3連発、そのまま押さえ込んだ。

「フォール!」

「いやぁぁぁっ・・・」

優美は、カウントが入る前に、気合と共に肩を上げた。

 

「いくぞぉ!」

眞純は、左手で優美の髪を掴んで引きずり起こすと、右手を高々とあげた。

そして素早く後ろに回り込み、腰を落として優美のお腹に手を回した。

(こ、このままじゃぁバックドロップ・・・)

危険を察知した優美は、右肘を思いっきり後ろに振った。

 ボコッ

「あうっ」

優美のエルボーがこめかみにヒットした眞純は、頭を押さえて膝をついた。

「このやろぉ!」

優美は、叫び声とともに、眞純の胸元へやくざキック。

勢いよく仰向けにひっくり返る眞純。

優美は眞純の両足首を掴むと、逆えびを狙って身体を返そうとした。

「あぁぁっ、だめぇぇぇっ・・・」

両手をいっぱいに広げて、懸命に堪える眞純。

すると優美は、眞純の脇腹に何度も蹴りを入れた。

 ボコッ、ボコッ・・

「あっ、あっ、あうっ・・・」

(な、なに・・・この返し方・・・)

いきなり脇腹を蹴られて、眞純の身体は返されてしまった。

「あぁぁぁぁぁっ・・・」

優美の逆えびが極まると、眞純の悲鳴がリング上に響き渡った。

「ギブッ?」

不敵な面構えの優美が、苦悶の表情で耐えている眞純に訊いた。

すると、奈津子が乱入するや、優美の胸元めがけて回し蹴りを入れた。

 ボコッ

「あうっ・・・こ、このチビっ・・」

優美は眞純の脚を離して立ち上がると、奈津子の頬に強烈な平手を入れた。

「あんっ」

奈津子の顔が、大きく横を向いた。

すると、優美は両手で、奈津子の水着の肩の部分をしっかりと握りしめた。

「な、なにを・・・」

奈津子が言い終わらないうちに、優美はそれを、肘のあたりまで一気に降ろした。

すこし小振りな奈津子の胸が、露わになった。

「きゃぁぁっ・・・」

奈津子は、慌てて両手で胸を隠すと、ペタンと座り込んでしまった。

「い、いたいけな中学生に、なんて事するのよ!」

目に涙を浮かべて、優美に抗議する奈津子。

「いたいけな中学生が、プロレスなんかするかぁ!」

優美は叫ぶと、懸命に胸を隠している奈津子の胸元にヤクザキックを入れた。

転がりながらリング下に降りると、隠れて水着を直し、コーナーに戻る奈津子。

「ゆみぃ、うし・・」

青コーナーから晴美が言い終わらないうちに、眞純が優美にスリーパーを極めた。

「あっ、あがっ・・」

苦悶の表情で、もがき暴れる優美。

すかさず晴美は、眞純の背中に蹴りを入れてカット。

すると眞純は、優美を赤コーナーに連れて行き、奈津子とタッチ。

そして、ロープの外から優美を羽交い絞めにした。

 

「このやろぉ!よくもやったなぁ!」

奈津子は叫ぶなり、優美のお腹にボディーブローを連発。

「あっ、あぐっ、あうっ・・」

言葉にならない悲鳴をあげながら、苦悶の表情で殴られ続ける優美。

「このやろぉ、このやろぉ・・・」

水着を脱がされた怒りが納まらない奈津子は、執拗に優美のお腹を攻撃した。

そして、優美がぐったりすると、髪を掴んでリング中央へと向かった。

「でやぁぁぁぁっ!」

優美は突然叫び声をあげると、奈津子の腰にしがみつき青コーナーへと突進した。

「はるみぃ・・・・!」

そして、膝を突き出して待っている晴美に、奈津子のお腹を叩きつけた。

「あうっ」

奈津子は、お腹を押さえて膝をついてしまった。

晴美は、優美とタッチすると素早くリング内に入った。

そして膝をついたままの奈津子の髪を掴むとヘアーホイップ2連発。

最後にボディースラムでマットに叩きつけると、そのまま覆い被さった。

「フォールッ!」

しかし奈津子は、優美がカウントを取る前に肩を上げた。

晴美は立ち上がると、奈津子の髪を掴んだ。

と、そのとき

 ボコッ

「あうっ」

硬く握り絞められた奈津子の拳が、晴美の股間に突き刺さった。

目に涙を浮かべて、大事な部分を押さえて膝をつく晴美。

奈津子は、素早く晴美の左腕を掴むと、腕ひしぎ十字固めを極めた。

「あぁぁぁっ・・・」

悲鳴をあげながらも、懸命に返そうとする晴美。

しかし奈津子の腕ひしぎは、がっちりと極まって返す事ができない。

優美は、ロープをくぐってカットに入ろうとした。

すると、いつの間に来たのか、眞純がリング下から優美の脚を掴んだ。

「は、離せっ!」

じたばたと脚を動かして、眞純の手から逃れようとする優美。

「あぁぁぁぁぁっ・・・」

リング中央で、晴美は悲鳴を上げながら、必死に耐えている。

そして、優美がカットに来れないのを見て取ると、漸く負けを認めた。

「あぁぁっ・・・OK・・・ギブ」

晴美は、右手で奈津子の太股をタップした。

しかし奈津子は、晴美の腕をますます絞め上げた。

「あぁぁぁっ・・・ギブッ、ギブアップ」

目に涙を浮かべて、晴美の腕を極め続ける奈津子。

 

「は、離せっ!ギブって言ってんだろう!」

青コーナーから必死に叫ぶ優美。

「やらしてあげて!」

眞純が、優美に向かって小さな声で言った。

「この馬鹿!何考えてんのよ!腕が折れちゃうじゃない!」

優美は眞純の手を振り解こうとしながら叫んだ。

 

(この娘・・・あのときエプロンで泣いていた・・・)

奈津子の正体に、漸く気づいた晴美。

「いやぁぁぁ・・・やめてぇ・・・」

心から恐怖に襲われた晴美が絶叫した。

「お姉ちゃんも、泣きながらあんたの足をタップしてたのに・・・」

目に涙を溜めながら、晴美の腕をさらに絞め上げる奈津子。

「ち、違うの・・・あれは事故だった・・・あぁぁぁぁっ・・・」

晴美は、ぼろぼろと涙をこぼしながら奈津子に訴えた。

「じゃあ、これも事故なのね・・・」

「いやぁぁぁ・・・許してぇ・・・・」

晴美の肘が、ぎしぎしと音をたて始めた。

「ご、ごめんなさい・・・あぁぁぁぁ・・・やめてぇ・・・」

「あんたのせいで、お姉ちゃんは2度とプロレスができない身体に・・・」

涙声の奈津子は言い返すと、急に恐い顔になった。

 

「は・な・せ!このぉ、このぉ・・」

優美はロープで体を支えると、自由な脚で眞純の顔面を何度も蹴りつけた。

「きゃぁ、あがっ・・・」

眞純は堪らず優美の脚を離すと、両手で顔を覆った。

やっとのことで自由になった優美が、ロープをくぐった時。

 ゴキッ

「ぎゃぁぁぁぁっ・・・・・」

鈍い音と共に、晴美の絶叫がリング上に響き渡った。

 

「はるみぃ・・・このやろぉ!」

優美は叫びながら駆け寄ると、奈津子の頭を思いっきり蹴飛ばした。

「あうっ」

奈津子は、うめき声を上げながら横に転がった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

左肘を押さえながら、リング上でのたうち回る晴美。

「晴美、晴美・・・」

優美は晴美を抱き寄せると、懸命に呼びかけた。

「あぁぁぁぁぁ・・・腕が、腕が・・・」

 

「奈津子のお姉さんは、この女性に再起不能にさせられたの」

眞純が、晴美を指差しながら優美に呟いた。

「てめえらっ、とっととうせろ!」

優美が怒鳴りつけた。

「晴美、大丈夫?晴美、大丈夫?晴美・・・」

そして優美は、いつまでも晴美を抱き寄せていた。

 

 

2ヵ月後・・・

「あの娘たち、入学しなかったわね」

晴美は、新入生のクラス編成を見ながら優美に言った。

「腕、大丈夫なの?」

優美は、心配そうに訊いた。

「先週からリハビリ始めたから・・・」

「元どおりになるの?」

「多分大丈夫だろうって・・・」

「ゴメンね、私がこんなことに巻き込んだから・・・」

「優美のせいじゃ無いよ!元はといえば、私が美津子の腕を壊したから・・・」

そのまま二人とも、黙り込んでしまった。

二人の前を、希望に胸を膨らませた新入生達が、通り過ぎていった。

 

                             (お・わ・り)

 



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