プロローグ 今、世界は闇に覆われようとしている。
悪の秘密結社「ブラック・チェリー」が、世界を裏から支配しつつあるのだ。
列強各国の首脳は彼女らによって洗脳された。
もはや世界は、彼女達の手の中にあると言っても良い。
ただ一ケ所を除いて。
アジア、極東、日本、S県、T市。
……随分局地的にしか残って無いな。まあ、良いけど。
そこには、世界最後の希望が残っていたのだ。
今からする話はその世界最後の希望の物語。
ある魔法少女の、愛と勇気と正義の物語……だったら良かったのだが、あいにく違う。
ある魔法少女の、色気と煩悩と笑いの物語である。
……世界はもう、駄目かもしれない。
いやいや、まだ絶望するには早い。
……さて、始めよう。
シーン1/夜の路地裏
「はぁ……はぁ……」
少女は、逃げていた。何故逃げているかというと、追われていたからだ。何故追われていたかと言うと……それは知らない。で、少女自身はごく普通の美少女だった。あ、こんな夜遅くに出歩いているのはちょっと普通じゃないか?ともかく、まあまあ普通だったが、追手の方は違った。
「待つニャ、にがさないニャ!」
猫言葉だった。
……いや、それだけでは無い。ネコ耳でネコ尻尾だった。しかもその耳と尻尾は、付け耳付け尻尾ではなく、本当に生えているようなのである。身には、服代わりの猫の毛が纏われている。
「きゃっ……」
少女が転ぶ。猫娘は、あっという間に少女に追い付いた。
「つっかまえたニャ〜」
「嫌っ!放して!」
暴れる少女の服をゆっくりと脱がしていく猫娘。このままではこの物語が18禁指定になってしまう。……あ、元からそうか。じゃあ問題無い。いや、問題あるか。
それはさておき……と、その時!
「待ちなさいっ!」
声が響いた。
「何者ニャ!」
猫娘が上を見上げると、隣家の屋根の上に、誰かが立っている。何故かその後ろに光があり、逆光で顔が見えない。その人影が、叫ぶ。
「光の精の名の下に、悪に下すは正義の鉄槌!魔法の女闘士ミラクル・レミ、ここに推参!」
その言葉と共に、光が晴れていく。そこには、少女が立っていた。水色のビキニに、中身の見えそうな(水着だから見えてもいいんだけど)ピンクのミニスカート。白い手袋とリングシューズ。耳には銀のピアス。モデルが裸足で逃げ出すような完璧なスタイル(スリーサイズは99−59−95)。ポニーの金髪と、薄い赤のルージュが引かれた唇。どことなく幼さを残した、しかし妖艶な色気も持つ顔。そう、彼女は美女であった。それもとびきりの。そして。
彼女こそ、この物語の主人公、「魔法の女闘士ミラクル・レミ」なのだ!
「現れたニャ、ミラクル・レミ!」
変身ヒロイン物の悪役お決まりのセリフをのたまふ猫娘。
「いつもいつも我々の邪魔をして、どういうつもりニャ!」
「うるさいわね、悪を叩き潰すのにいちいち理由なんか持っていられると思う!?」
なかなか過激な事を言うヒロインである。
「私だってねぇ、好きでこんな事してるわけじゃないのよ!だいたい、こんな夜中に起こされる身にもなってみなさい!寝不足は美容に悪いのよ!」
……そんな事言われても。
「ともあれ!このストレスはあなたにぶつけさせてもらうわ!」
なんだか勝手な事を言いつつ、屋根の上から華麗に飛び下り、優雅に着地する。怪我しないのは、魔法の力によるものだ。
「そんな事情は知った事ではないニャ。我々は我々の目的を果たすだけなのニャ!」
正論のような物を言いつつ、猫娘がレミに襲い掛かる。だが、我らが魔法少女はそんな事では慌てない。
「行くわよ!ミラクル・ヒップアターック!」
いきなり振り向いて飛び上がり、猫娘の鼻先にムチムチのヒップをぶつける。魔法の力が込められたヒップアタックは、魔法の力が込められているのでとても痛い。吹き飛ぶ猫娘。追い掛けるレミ。倒れてグロッキーな猫娘にのしかかると、指に魔法の力を込める。
「ミラクル・フィンガー!」
「ニャァァァァァァァァァァッ!」
その指が、猫娘の股間をすごい勢いで襲う。悶える猫娘。魔法の力って、そんな用途に使うんかいとか、突っ込んではならない。本人達は真面目だ。
さて、そんな突っ込みを入れている間にも、魔法の力で猫娘はその力を奪われて行く。レミは猫娘を解放すると、猫娘の両足を、それぞれの両脇に抱え込み、魔力を足に込める。
「さあ、行くわよっ!必殺、ミラクル・エレクトリック・マッサージ!」
直訳すると、奇跡の電気アンマである。……直訳しない方が良かったか?ついでに言うなら、何でもミラクルをつければ良いと思っているのだろうか?それはともかく、そのレミの必殺技が猫娘を襲う。
「ニャァァァァァァァァッ!やめるニャアアアアッ!」
「いいえ、イッちゃいなさいっ!」
足の魔力がさらに強まると、猫娘の動きが痙攣してくる。そして……
「ニャアアアアアアアアアアッ!」
激しい声と共に、絶頂を迎える猫娘。と、その姿がぶれて行く。そして……その姿が猫娘から、美少女へと変化した。ちなみに全裸である。寒そうだ。そしてその横には、ネコ耳が落ちていた。そのネコ耳を手に取るレミ。そして、ちょっと読者も忘れていたのでは無いかと不安がよぎる、襲われていた少女の方を見て、にっこりと微笑む。
「あなたは、ここで見た事を全て忘れる。あなたはこれから家に帰って、お風呂に入って、そのまま布団で寝てしまう。そして、朝起きたら何事も無かったかのように新しい一日が始まる……良いわね?」
パチッと指を鳴らすレミ。少女の視界が歪み、そして……少女は全てを忘れた。
そして、夜があける。
シーン2/朝の通学路
「ふぁぁぁぁ……」
夜があけると朝になる。その日が日曜祝日や休日で無い限り、学生は学校に行かなければならない。そんな学生である神崎玲美(かんざき・れみ)は、いつものように制服を身に纏い、欠伸をしながら通学路を歩いていた。寝不足なようだ。夜遅くまでパソコンでもやっていたのだろうか……無論、違う。彼女は優等生なので、学校がある日にパソコンをして寝不足になったりはしない。なら何故寝不足なのか……それは、後々明かされるであろう。後々にならなくてももうわかっているという人も多々いるだろうが、ここは無視する。
さて……ここで、きちんと玲美について紹介しておこう。
神崎玲美。名門、赤蘭女学院の高等部文系コースの2年生。超美少女で学年のアイドル、しかも生徒会副会長を務め、スポ−ツ万能で、学年主席と、まあ早い話が反則少女。血液型はRH+O、誕生日2月14日、得意科目は現代文、好きな食べ物はカレーライスで、嫌いな食べ物は納豆。どちらかというと辛党。様々な格闘技の高段位を持ち、そのうえピアノとバイオリンもやり、かなりの腕前。だが、万能少女のわりには気さくで人付き合いも良く、神聖視こそされないが人に好かれるタイプである。唯一の弱点は、短気な事。多少の侮辱でもすぐ怒って喧嘩を売り、相手を叩きのめすまでやめない。以上、神崎玲美ファンクラブ(現在、会員318名)調べである。
まあ、とにかくそんな少女である。
「やっほー、おっはよー!」
と、玲美の後ろからいきなり少女が抱きついて来る。
「ったぁ……いきなり飛びつかないでっていつも言ってるでしょう?」
「避けられないのが悪いんだよ〜」
むちゃくちゃを言う。
「そういうセリフは、人の後ろに回り込むのにいちいち隠行の術を使う人間の言うセリフじゃないわよ、梨香」
さて、梨香と呼ばれたこの少女は、玲美の親友で鈴城梨香と言う。玲美のクラスメイトであると同時に、鈴城流合気柔術なる怪しげな流派の師範代を務め、学校では体育委員会副委員長と女子プロレス同好会の会長も勤める格闘系美少女である。玲美とは幼馴染みだ。
「だって、玲美って結構鋭いから、普通に近付くと避けられちゃうんだもん」
「だからそもそも、後ろから抱きつくなって。だいたいあんたはいつも……」
「むぅ。ま、良いか。とにかく、学校行こうか!」
梨香は、話題を打ち切って、逃げるように学校に駆け出した。
シーン3/赤蘭女学院高等部校門前
私立赤蘭女学院。幼等部から大学院部までの一環教育を行っている天下の名門女学校である。通う生徒はもちろん、教師も美女美少女揃いで、また、なんらかの分野に秀でている天才が多い。玲美や梨香は、この学校に通っていた。
「あ、玲美、梨香、おはよう」
「おっはよー」
「おはよう」
校門でクラスメイト達と会い、話しながら教室へ向かう。と、彼女達は一人の女性とすれ違った。
「……おや?」
「あれって確か……月島先輩じゃなかったっけ?」
艶のある黒い長髪、白い雪のような肌、大和撫子風の容貌に似合わない黄金率のプロポーション。彼女は、確実に美女だった。それも絶世の。赤蘭女学院大学部一年特殊科学科に在籍する、月島愛美である。美女揃いの赤蘭女学院でミス・赤蘭に三回も選ばれた(ちなみに三回とも他薦で、選ばれていない年は不参加)超美女であると同時に、伝統ある超名家、月島家の第一息女である。ちなみに、月島家は赤蘭女学院のスポンサーでもある。
「月島先輩が、なんで高等部の、それも文系コースの校舎にいるんだろ……」
「んー……あ、そうだ、白河先生に用があったんじゃない?確か今日は一時限目、文系コースの高三の授業でしょ?」
「ああ……」
白河美沙は、赤蘭女学院の非常勤の化学講師である。能天気で口調が間延びしていて、とても教師には見えないが、その第一印象とは裏腹に超がつくほどの天才なのだ。だから、学園の生徒達は、難しい化学の問題は彼女に説明を聞きにいくのである。
「っと……授業が始まるから、急がなくちゃ!」
「ああ、そうだったそうだった」
玲美と梨香は、慌てたように駆け出した(廊下は走ってはいけません)。そして……それを物陰から見る瞳があった……
「彼女が神崎玲美さんですか……なるほど……」
愛美は、その絶世の容貌に少し冷たいような、少し暖かいような微笑を浮かべて呟いた。
……いろいろと、伏線である。
シーン4/放課後の教室
「ふぁ……ぁぁ、終わったぁ……」
全ての授業を終え、玲美は背伸びをした。と、そのままの姿勢で硬直する。
「……」
緊張に、冷や汗がしたたり落ちる。そして……
「玲〜美ぃ……うわっ!」
後ろから抱きついて来た梨香をかろうじてかわした。そのまま机に突っ込む梨香。
「ったぁ……よけるなんてヒドいよぉ」
「やかましい。ついこの前まで深夜にアニメやってたギャルゲーに出て来る、タイヤキ好きな少女みたいな事をしないのっ!」
わかりづらいぞ、玲美。
「で、さ、一緒に帰ろ」
「そうね、それじゃあ……」
と言いかけたその時。ふと、表情を変える玲美。
「ごめん……今日は用事があるの。」
「えぇ〜……」
「今度何か奢ってあげるから。じゃあね!」
玲美は、急いで教室を飛び出した。
シーン5/人気のない裏庭
(……玲美……)
「感じたの、<キャット>の気配?」
(ええ……)
ぶつぶつと独り言を呟くように見える玲美。他人が見たら怪しい人だと思うだろう。だが、彼女は、独り言を呟いているのでは無い。彼女の身体の中に宿る光の精霊と話をしているのだ。
「場所は?」
(保健室よ)
「OK……じゃあ、行くわよ!」
玲美は、手を天に掲げた。身体の中の精霊が光を放ち始め、玲美の全身が輝く。
「我が手には光……正義を示す白き光!悪を倒す力を……この手に!ホーリー・ミューテーション!」
服が、光の粒子となって消える。その粒子が胸とお尻の周りに集まり、青いビキニへと変わる。お尻の光はそれだけでは消えず、腰の周りをくるりと回り、それがピンクのミニスカートに。手に集まった光は手袋に。足に集まった光はリングシューズに。頭に集まった光が髪の色を金に変え、リボンとなってポニーテールを形作る。最後に、耳にピアスが現れ、唇にルージュが引かれる……
「変身……完了!」
そう、彼女、神崎玲美こそ、魔法の女闘士ミラクル・レミなのだ!……いや、とっくにわかってるだろうけどさ。
「行くわよっ!」
玲美は、魔法の力で保健室へと転移した。
シーン6/保健室
「ふっふっふっ……」
その美女は、全身に包帯が巻かれていた。といっても怪我をしているわけではない。羽衣みたいな感じで巻かれているのだ。そして、そこから伸びた包帯が、ベットに寝ていた患者を縛り上げている。
「この学園を内部から制圧し……シェリー様への手土産としてくれるっ!」
高笑いする包帯女。ところで、シェリーって誰?
「待ちなさいっ!」
声が響いた。
「何者だっ!」
慌てて声のした方……さっき見た時は誰も使っていなかったベットの方を見る。カーテンに、女性のシルエットが映った。
「光の精の名の下に、悪に下すは正義の鉄槌!魔法の女闘士ミラクル・レミ、ここに推参!」
カーテンが開き……レミが、華麗に飛び出した!
「また貴様か……ミラクル・レミ!」
「生徒達を離しなさいっ!さもないと、容赦しないわよ!」
「離した所で私を見のがすわけでもないでしょ!」
「……まあ、確かに……」
納得させられてどうする。
「隙ありっ!」
納得した隙をついて、包帯女が包帯を繰り出す。それが、レミの身体にからみついた。
「やっ、ちょっと……!」
両足の自由を奪われるレミ。
「ふふっ……これがレズ小説ならともかく、キャット小説だからね。全身の自由を奪う事までは勘弁してあげる」
……お気遣いどうも。
「けど、これで自由な動きは封じたわ……」
「くっ……」
「じゃあ、行くよ!」
包帯女の鋭いドロップキックが、レミの胸に突き刺さる。
「ミラクル・ガード!……くぅっ」
慌てて胸を魔法の力で庇うが、さすがに無傷ではすまない。胸を押さえて苦痛の声をもらすレミ。
「まだまだっ!」
「きゃうん!」
今度は股間へのキックが突き刺さる。ガードしきれず、まともに受けてしまうレミ。だが、足が固定されているため、ダウンする事さえ許されない。
「ふっ……さすがに効いたでしょ?」
今度は後ろに回り込み、胸を揉み始める包帯女。
「あっ……やめなさ……あんっ……」
顔を赤らめ、喘いでしまうレミ。包帯女の巧みな愛撫がレミの胸を責め立てる。
「どうしたの……もう終わり?」
「くっ……させないわっ!ミラクル・フィンガー!」
「んっ……くっ……」
レミの魔法を纏った指が、包帯女を襲う。だが、責められた途端、すぐに包帯女は身を引いてしまう。動きを封じられたレミは、それを追う事ができない。
「卑怯よ!」
「当たり前よ、悪役なんだから。」
いや、全く。そのわりには、さっきは律儀だったが。
「さぁ……そろそろとどめを刺してあげるわ!」
正面から股間めがけてドロップキックを突き刺そうとする包帯女。しかし……
「見切ったっ!ミラクル・キャッチ!」
「えっ……!?」
そのキックを、魔法の力で受け止め、捕まえるレミ。どう魔法の力なのか……それはもう誰にもわからない。
だが、とにかく捕まえた包帯女を引き寄せるレミ。
「ミラクル・ベアハッグ〜!」
「きゃあああっ!」
魔法の力で、強烈に締め上げる。さらに……
「ミラクル・フィンガー!」
「ちょっ……やめ……あああんっ!」
ベアハッグを仕掛けたまま、片手の指を股間に叩き込む。
「さぁ……この技に耐えられるかしら!?」
「あっ……駄目……んっ……はぁんっ!あああああああっ!」
激しい叫び声を上げてイキ果てる包帯女。途端に闇が弾けて、全裸で横たわる保健室の先生と、包帯のロールに別れる。包帯女の繰り出した包帯も、全て消えた。包帯を回収するレミ。
「みんな、包帯は遊びにつかっちゃいけないよ、っと♪」
そう言って、転移し消えた。
シーン7/帰宅途中の通学路
「……」
鈴城梨香は、ただならぬ殺気を感じ、足を止めた。相手はおそらく相当の手練だ。油断したら捕まる……3……2……1……今だっ!
「梨〜香〜ぁ……ってきゃっ!」
「玲美……あのねぇ……」
梨香にかわされ地面につっぷした玲美を、苦笑しながら見下ろす。
「ったぁ……よけないでよね、梨香」
「……もう、いいわ。ところで用事は?」
「ん、もう済んだから。一緒に帰ろ」
「はいはい……」
二人は、顔を見合わせるとどちらからともなく笑った。
次回予告
こんばんわ、玲美です。
さて、突然始まった「魔法の女闘士ミラクル・レミ」。でも……一体何がどうなってるの?<キャット>って何?ブラック・チェリーってどんな奴ら?シェリーって何者?なんで私は光の精霊を身体に宿しているわけ?……よろしい、全てお答えしましょう!
次回、魔法の女闘士ミラクル・レミ・第二話『誕生、光の精の名の下に』
さあ、私と一緒に……ホーリー・ミューテーション!
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